2年ぶりのフル・アルバムとして『30』をリリースしたUVERworld。今回は曲作りを先導しているというTAKUYA∞と克哉に、制作方法からライブに向けた音作りに至るまで、克哉のプライベート・スタジオで話を聞く。
Interview:Mizuki Sikano Photo:Hiroki Obara
インタビュー前編はこちら:
ワンコーラス作って寝かす
―アルバムはどれくらい時間をかけて作るのですか?
TAKUYA∞ 歌詞は年中書いていますけど、俺が弾き語りのデモを送った後で、打ち込みやレコーディングをする作業時間って3週間……とか?
克哉 いったん何となくワンコーラス作ってから僕らが寝かすんですよね。それで完成させるってスイッチ入れたときに札幌の芸森スタジオに行くんです。そこで最終的に取り掛かってからは本当に3週間とかでまとめていきますね。
―芸森に行ったタイミングでは、どの程度できている?
TAKUYA∞ ドラム、ピアノ、ボーカルだけ渡している感じで、ベースも入れたりします。それで“最近のトラップ系のベースみたいなやつに変えて”ってリクエストしたり。最後、歌詞のブラッシュ・アップとかで尺が伸びるんです。オケだけでは尺が長いって言われていたんですけど、それをさらに長くして歌詞を入れたら短く感じるっていう。それがめっちゃ気持ち良いんですよね。
克哉 前だけど「Ø CHOIR」と「7日目の決意」もそうだったよな。そうやって曲を作っているうちにまた別の曲の制作もどんどん打ち込んでいく感じ。
―トラック・メイカー集団みたいですね。
克哉 今回はシンセで構築してから、ギターを入れるのが多かったです。『UNSER』まではギターを作ってからシンセを入れていましたけど。ギタリストとしてあるべきことじゃないけどギター聴いて“またひずんだ音だ” って、やっぱり飽きるんですよ。
TAKUYA∞ でも打ち込みで3曲くらい作ったらバンドだけで作ろうってなる。あと最近“コード変えんといて”って言うことがめちゃ多い。コードに対してのメロディの当たり方とか、自分がいいと思った感覚を大事にしないと、その場では新鮮さにやられるけど、2年後に後悔するので。
―ギターのコード感とかはシンプルになりましたよね。
克哉 洋楽はスリー・コード、フォー・コードとかが多いから、コードを最低限にしてますね。ルートを入れずに何のコードか分からないようなものとかギミックは使うんですけど。やっぱり、コードの数を増やしたり9th、7th、♭5とかに展開すればするほど、どんどん日本っぽくなっていくんですよね。
TAKUYA∞ 昔のUVERworldっぽくなる。
克哉 そうそう。でも音で感動させたいから、音の選別はしっかりした上で、リズム・パートとかも複雑なものをシンプルにしていくんです。
―ドラムはどういった音源を?
克哉 僕の場合は、NATIVE INSTRUMENTS Battery 4を使っているので、スネアとキックのみ差し替えたり、The生みたいな音も使います。Spliceや昔自分たちが録音した自前のサンプルから選んで切り張りすることもありますね。ただ、それで張ってる感が出過ぎたときに、SLATE DIGITAL Trigger 2などを使って変えてみようかってなります。スネアにサンプル・スネアをかぶせたり、オン/オフマイクの素材をレイヤーしたりもします。ビンテージのぽわんとしたキックも、マルチエフェクトのKILOHEARTS Multipassとかを使うとアタックを足したりできて便利なんですよ。
TAKUYA∞ ただ、ビンテージと最新のドラムを2種類使って、一回は必ず生で録音して合わせてみます。そういう手抜きは一切しないです。
―ベースも同様ですか?
TAKUYA∞ そうですね。いっときは「7th Trigger」のベースの話をよくしたけど、最近一番出るのは「ConneQt」のシンセ・ベース。サステインが少なくて、超低域まで鳴っているみたいな感じにしてって、よく話すよな。
克哉 信人はよくROLAND TR-808系ベースのモデリング音源を集めてて、細かいってぐらい選んでくるよな。
TAKUYA∞ でもあいつドルの計算ができひんから、買うとき“これいくら?”ってめっちゃ聞いてくるな(笑)。
克哉 ユーロも分からないな。1万円ぐらいの音源なのに “これ10万円とかないよな?”って不安そうにしてたことあるし。普通に調べろよ!っていう。
TAKUYA∞ 一回“150万円だったわ”って言ってみたら信じて“えええ!”って。そんな音源あるわけない(笑)。
―上モノもいろいろコレクションされていますか?
克哉 TAKUYA∞は普通のシンセ・パッドに食いつかなくて、突発的な感じとか、耳当たりの良いものが好きだよな。
TAKUYA∞ オンな音はあまり好きじゃないですね。ちゃんとすき間に入る、帯域を汚さない音が好きです。スペーシーな感じもあまり好きじゃない。
―スペーシーな音は「NEVER ENDING WORLD」などで聴けますが、UVERの持ち味のように感じていました。
TAKUYA∞ だから僕、彰によく“スペーシー過ぎる”って言っちゃうんですよ。
―「EN」の最初の入りとかも壮大ですよね。
克哉 あれはSPECTRASONICS Omnisphereのクワイアのパッチの声を使って、エンベロープ・ジェネレーターとエフェクトを調整し、プラグインをかけて加工した音ですね。
会場の空間鳴りを踏まえて音作り
―そうして完成したら、ライブではまた全部変える?
克哉 変えますね。基本ライブではテンポを上げることが多いですが「えくぼ」に関しては2BPM下げました。「THUG LIFE」は5BPM上げている。曲に応じて一番気持ち良いところにしますね。
TAKUYA∞ これ以上は言いたくないな。インターバルの4小節だけカットしたりとか尺も変えていく、なんて工夫はしてないよな?(笑)。
克哉 そういうのが結構、大事やねんな。
TAKUYA∞ 音の足し引きも再度行うし、鍵になるのはリバーブとかを全部抜いていくこととかなんですよね。
克哉 ここから先はパンドラの箱がたくさんあって、WAVES SoundGrid Extreme ServerでWAVESのプラグインを活用したりするんですよね。
―音楽フェスとかで横並びになると、ハイエンドの解像度とかドラムの硬質な響きで他を圧倒していますよね。
TAKUYA∞ 僕らライブの前にアリーナとかでリハーサルしていて、会場の空間鳴りを踏まえてリバーブ感のコントロールをするんです。AVID Pro Toolsで録音して、自分らで演奏してそれを聴いて、バンドだけ消してシーケンスだけ聴いたり、逆に演奏のドラムだけ聴いたりします。それで「えくぼ」の冒頭とかは完全にドライにしたりしていて。
―アリーナを使ってミックスする感覚ですね。
克哉 そう、スピーカーの口径と再生能力に合わせてプラグインをかける作業が大事なんですよ。こういうところで、TAKUYA∞と彰がLAで学んだことが生きてくる。
TAKUYA∞ 今はライブでもプラグインを使ってもらえているけど、10年前にレコーディングで使うハードウェアをライブで使ってくれるエンジニアは居なくて。僕らが持ってきても“ホールは響きがあるから無理”って数学的な話ばかりされて。だから、僕らのエンジニア11人ぐらい変わったんです。でも戦い続けた結果、ライブで音が良いって言われ続けているんですよ。今も最新鋭の機材を使っていますけど、もう一個先があるかなって探っているところです。
―バンド・メンバー全員がDAWで音作りを行うリテラシーの高さを強く感じる話ですね。『30』を作り終えた直後ですが、今後やってみたい音作りの方向性は?
克哉 最近さらにソフト音源やプラグインを増やしていて、これらが僕にとっては次のモチベーションです。次へのステップ・アップとして新たなシンセなども購入しました。プラグインはたくさんあるし、今後も掘り下げたいと思います。
―TAKUYA∞さんは、ほかのインタビューで今回歌い方を変えたと語っていましたが、それに伴ってマイク周りの機材も変えたりしているのですか?
TAKUYA∞ 今回はそんなに変えていないですけど、『30』を作り終わってからエンジニアと話していたら、久しぶりにこだわり抜きたいと思うようになって。自分が一番良いと思う洋楽がポスト・マローンなんですけど、声のレンジがすごく広くて、もともとの声帯の違いがあるにしてももっと頑張りたいって思った。だから、今まではコンプのかけ録りもしていたけれどそういうのを取っ払って、最近はいろいろな種類のアンプを試してます。自分が好きなアーティストとの1mmの差はそこかもしれないって思ったから。NEUMANNのプリアンプV 402とかがよくて、機材が変わったら、録り音は前より確実に良くなると思いますね。
インタビュー前編では、歌詞に寄り添うオケの音作りを一番意識したという本作の制作手法について話を聞きました。
Release
『30』
UVERworld
(gr8! records)
Musician:TAKUYA∞(vo)、克哉(g)、信人(b)、彰(g)、真太郎(ds)、誠果(sax、manipulate)、愛笑む(vo)、青山テルマ(vo)、山田孝之(vo)
Producer:UVERworld
Engineer:平出悟
Studio:芸森、Cloud Lodge