無観客配信ライブ『How Do You Crash It?』で再起動を果たしたTM NETWORK。これと並行して、リーダー小室哲哉は新しいプライベート・スタジオを設け、ここを拠点に今後の制作を行うこととなった。スタジオの詳細をレポートする前に、小室にTM NETWORKと『How Do You Crash It?』、そこで披露された新曲「How Crash?」についてインタビューを敢行。かつての話題も織り交ぜながら語る彼の目には、どんな未来が見えているのだろうか?
Text:iori matsumoto Hair&Makeup:Nami Matsunaga(GLUECHU)
デビュー当初からドラムが居なくても成立していた
ーTM NETWORK再起動のニュースは、大変な反響がありました。
小室 そうですね、待ってくれている人が居るということを最近あらためてすごく意識しました。30周年(2014年)の前後で結構活動をして。まだ始まる時点で言うのもなんですが、きっと最終章だろうなぁと思っています。
ーいや、そんなことおっしゃらないでください。
小室 年齢とか、いろいろなことがあるけれど。3人で話をしているとね、50周年まではやれないよねと当たり前に話しています(笑)。まだ分からないですけれど。
ー例えば、海外では、看板は残りつつメンバーが変わっていくバンドも多いじゃないですか? でも、TM NETWORKのアイデンティティは、宇都宮さん、木根さん、そして小室さんがそろっていることなんだなと『How Do You Crash It? one』を見て思いました。
小室 かもしれないですね。近いところで、B’zやTHE ALFEEは、ほぼパーマネントのメンバーみたいな感じで必要な楽器のサポートが居る。TMに関しては、そこはデビュー当初の打ち出しから、ちゃんと打ち込んでいるから、ドラムが居なくても成立する……“シンセでやっています”と言っていたので。宇都宮君も木根君も、“今回は3人でいいじゃん”と僕が言っても、“え?今回はベース、ドラムは入れないの?”というハテナ感は一回も無いですね。
ー普通のバンドだったら“ベース要らないの?”と思ってしまいますよね。
小室 たぶん一度も、そういう疑問を言われたことは無いですね。今回の無観客配信ライブにしても、“(サポート)ギターも要らないんじゃないの?”と。その分、3人の姿をファンの皆さんに見てもらった方がいいんじゃないかという理論だったんですけど。
ー今回3人だけのステージは小室さんが提案を?
小室 せっかくなので、ドラムのフィルを見てもらうよりも、僕の鍵盤とかハモってる木根さんが映っている方がいいよね、みたいなことを言いました。その意味では、本当に3人ぽっちでどうにかなるグループだと思いますね。一応、アコースティック・ギターとピアノがあればできないこともないので。
ーアンプラグドTM NETWORKですね。
小室 やれないこともない。何とかなりますね。ギリギリですけど、3人でどうにかなる。
昔のシーケンスは楽器っぽい出音だった
ーアンプラグドも見てみたいですが、シーケンスが走っていて3人が居るというのが、皆さんがよく知っているTM NETWORKの姿だと思います。
小室 そうだとは思います。初期のころ、ツアーとかで、会場にクリックが1曲ずっと鳴りっぱなしで出ちゃっていても、お客さんは何も言わなかった。ずっと“コン!コン!コン!コン!”って言っているのに(笑)。でも4つ打ちのキックと一緒に鳴っているし、“小室さん、そういうアレンジに今日はしたんだな”って思われていたかもしれない(笑)。何回もありますよ。ジョルジオ・モロダー風にしているのかな?とか(笑)。当時はステージ周りのスタッフもシーケンスを扱った経験がほとんど無かったので。
ー確かに、シーケンスでライブをするバンドは、当時はあまりありませんでした。
小室 ですよね。TMの初期のころはイアモニが無い時代ですから、コロガシからクリック出すわけにもいかないし、今さらながら宇都宮君もよく歌っていたなと思いますね。昔は、数回ミスっているというか、僕が間違えているときはありました。1拍ずれちゃったりとか(笑)。初期は特に、ドラムの阿部(薫)君に送るクリックがピアノ音色になっちゃったりとか、ブラスだったりしたこともありますね。いつの間にかMIDIチャンネルが入れ替わったり、結線ミスだと思いますけど。
ー1980年代〜90年代のTM NETWORKのライブは、致命的な同期トラブルが少ないと伺っていましたが、裏側ではそういうことはあったのですね。
小室 多々ありましたよ、もちろん。僕がYAMAHA QXで次の曲のデータを間違えてロードしたりも(笑)。そういう時代もありました。セットリストと違う曲順になってしまう。あと、早く終わりたくて、全曲2〜3BPM速くしたりして(笑)。曲間も、ウツ(宇都宮)が水を飲む間も無く。僕一人(でマニピュレートしていた時代)ならではのこともありますし。あと、昔はケーブルの量が多かったので、テレビで大道具の人が引っ張ったら全部抜けたこともあります。電源も抜けちゃうから、もう一度データをロードするのに、YAMAHAのサンプラー(TX16W)とかすごい時間がかかったから。それで『夜のヒットスタジオ』(CX系の生放送歌番組)を10分押しにしたことがありますね。若い人になればなるほど安全策を取るようになっているけど、昔は録音したトラックを再生するのではなく、シーケンサーで実機を鳴らしていた。だから、楽器っぽい出音だったと思いますよ。シンセとはいえ。
ー今はDAWからシーケンスがオーディオとして出ている時代ですが、それとはちょっと違う?
小室 今でこそ何の違和感も無いけれど、10年くらい前まではデータから出る音と、手弾きしているシンセの音は全然違っていた。今でもMOOGシンセの音とかは違いますよね。
◎このインタビューの完全版と、TM NETWORK無観客配信ライブ『How Do You Crash It? one』のレポートはサウンド&レコーディング・マガジン2021年12月号に掲載されています。
インタビュー後編(会員限定)では、 配信ライブ『How Do You Crash It? one』のステージで使われたシンセや、新曲「How Crash?」の制作について伺いました。
『How Do You Crash It?』アフター・パンフレット発売!
『How Do You Crash It?』のアフター・パンフレット(ライブ写真集)が発売決定! 5名のカメラマンによる珠玉のライブ写真を掲載。ライブ本編の映像では気付くことのできなかった演出や、メンバーの細かな表情、仕草までとらえています。セットリストも収録予定です。
判型:A4変型(天地199×左右210mm)
本文:各64P 定価:各本体2,500円+税
発売:one 11/25、two 2022年1月下旬、three two 2022年1月下旬
発行:リットーミュージック