機材を買うときもこれで1曲作らせてほしいなという感じ
買った初日のまだ使い方が分からないときに
いじっていたら変なことになって……みたいなのがいい
「ずっと好きだった」「ウエディング・ソング」「やさしくなりたい」など多数のヒット曲で知られるシンガー・ソングライター斉藤和義。自身でほとんどのパートを演奏してダビングしていく手法でも定評ある斉藤だが、その多くはレコーディング・スタジオで制作されていた。ところが、このたびリリースされた『55 STONES』は、コロナ禍にあって、自宅やプライベート・スタジオで制作されたという。YMO 「BEHIND THE MASK」のカバーという幕開けにも驚いたが、詳しく聞いてみると、リズム・マシンやスマートフォン・アプリなどを駆使したという制作スタイルが明らかに。ミックスを担当したエンジニアの桑野貴充氏とともに、機材への愛情を交えてたっぷりと語ってもらった。
Interview:iori matsumoto Photo:Hiroki Obara
衣装協力:KAZUYUKI KUMAGAI/アタッチメント表参道(03-6804-5460)
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スマートフォン・アプリFigureを活用
1小節ずつパートごとに書き出して張っていった
ー斉藤さんは、『Toys Blood Music』(2018年)辺りから、作品の中でリズム・マシンを積極的に使われてきた印象がありますが、リズム・マシン+演奏というこれまでのものと、今回の「Strange Man」「Lucky Cat Blues」辺りの音像はかなり違うと感じました。
斉藤 今回、スマートフォン・アプリのREASON STUDIOS Figureを使っているんです。最近好きなアーティストのAAAMYYY(Tempalay)が紹介していて、ダウンロードしてみたらこれは面白いと思って。そのベース・ラインとかシンセのパートを使っています。
ーつまり、“打ち込んで”はいない?
斉藤 打ち込んではいないです。そこにリズム・マシンで単音を足したりしていきました。Figureは中で録音できないので、1小節ずつパートごとに書き出して、APPLE Logic Pro上で組み立てて。コードを変えて、書き出して……面倒なんですけど。そうやってLogic Proに読み込んでみたら、音も良かった。例えばキックだけ上げたいとかはできないけれど、それでも成立はしている。音に存在感もちゃんとあるから、使えるなと。偶発的に面白いパターンができやすいじゃないですか?それで去年ハマって、そこから作った曲が増えました。
ーパターンが先にあると、曲の骨格が定まりやすい?
斉藤 今までも出発はリズムから……生でもリズム・マシンでも、このドラム・パターンの上で曲を作るということは結構ありました。曲が先にある場合もありますが、半分以上は先にリズムですね。リズム・マシンには抑揚とか人間らしさは無くていいと思っていて。それは上モノでどうにかするというか。無機質なものが欲しいときはリズム・マシンを使います。人がたたけないような、たたいたとしてもそんなに均一にならないようなものが欲しくて使っているわけだから。そういうのを求めるときはマシンと思っているので。あとは偶発性を求めて。Figureに録音できたり、もっと簡単にDAWソフトへ送れたらいいなと思います。
iOS App
REASON STUDIOS Figure
ドラム、ベース、リードの3パートでパターンを演奏できる、REASON STUDIO製のiOSアプリ。特徴的なのは、1小節のうちで指定した音数だけそのパートが鳴る点(左画面)。打ち込まずとも、音数の過多を指定するだけで、好みのパターンを生み出すことができる。作成したパターンはWAVファイルとして書き出すことが可能。ミキサー(右画面)でミュートをすれば、パート単位の書き出しにも対応
Rhythm Machines
ROLAND TR-808
ヤオヤの通称で知られる、1980年発売のアナログ・リズム・マシン。斉藤は2017年の誕生日にこれをプレゼントされたことが契機となり、リズム・マシンをレコーディングに取り入れることに開眼。『Toys Blood Music』でのリズム・マシン導入につながっていく。『55 STONES』では「木枯らし1号」でベーシックなリズムを奏でている
OBERHEIM DMX
1981年誕生の、OBERHEIM初のリズム・マシン。PCM方式で、8ビット/24音色を内蔵し、EPROMカードを挿し替えることで音色の変更/追加が可能だった。『55 STONES』では、随所で単音を加える目的で使用。斉藤は同時期のPCM機としてLINN LM-2も所有しているが、現在は修理中とのこと
ビンテージのNEVE 1073を1chだけ購入
自宅で録ったボーカルやアコギに通しました
ーいわゆるSTAY HOME期間だったこともあり、今回は斉藤さんがご自身で録音された曲が多いですね。
斉藤 大体家が6割、プライベート・スタジオ4割という感じですかね。
ーまず、ご自宅にはどんな機材が?
斉藤 もともと生ピアノとドラム、アンプやギターなどがひとそろえあって。DAWはLogic Proで、プリアンプはAURORA AUDIO GTP8がドラム録音用にセットしてあります。それとDRAWMER 1960も昔から持っています。あと、数年前にビンテージのNEVE 1073を1chだけ買ったんですよ。なかなかのイータカでしたけど、ずっと使えるものが欲しいと思って、前から探していただいていたんです。今回は結構家でボーカルも録っているんですが、それは全部1073を通しています。アコギも通しているかもしれない。でもコンプはちゃんとしたものが無いので、Logic Pro内でプラグインを使っていたりもしますけど、最終的には全部くわっち(桑野氏)がJiveで組むので、その辺りは外しているでしょ?
桑野 そうですね。書き出すときにチェックして。
ーマイクはどんなものが有るのですか?
斉藤 自宅ではELECTRO-VOICE RE320と、TELEFUNKEN D19みたいなSENNHEISERのダイナミック・マイクとか。最近SENNHEISER MD441も買いました。コンデンサーはAKG C414を使うことが多かったように思います。
ー以前、サイドアドレスのコンデンサー・マイクでボーカルを録るのは苦手だとおっしゃっていました。
斉藤 そうです。距離感がよく分からないのと、口が付くか付かないかくらいで歌いたいというのがあって。実際にギターを持って歌うので、昔からボーカルはELECTRO-VOICE RE20にしていて、その派生モデルということでRE320で録っています。C414はアコギとかに使っていて、そのD19みたいなSENNHEISERのマイクと混ぜる。
ープライベート・スタジオの方は?
斉藤 RE20でボーカルと、NEUMANN KM184でギター。こちらもAURORA AUDIO GTP8があって、ほかにはFOCUSRITE Clarett OctoPreをマイクプリとして使っています。オーディオ・インターフェースは自宅もスタジオもUNIVERSAL AUDIO Apolloです。スタジオの方が新しいApollo X6ですね。コンピューターは同じものを持っていって、差し替えて使っています。
ーご自宅で録るときと、スタジオで作るときの違いは?
斉藤 スタジオの方が広いし、ライブな環境だからドラムも鳴るので、ドラムをたたきたくて行くんです。そのついでに録音もしておいて、それに合わせて録っていったり。会社に通うようにスタジオへ行ってみて、取りあえずずっと録っておいて。何もできなかったという日もあれば、きっかけができたとか、一気にできたということもあったりとか。途中からは本当に職場へ行くという感じで行っていました。
ー宅録のようなことは昔からやっていらしたのですか?
斉藤 やってましたね。中学時代のときはラジカセを2つ並べてダビングしたりして。高校くらいになってから、4trのカセットMTRを先輩から借りて録ったり。ドラムは、ダンボールをたたくとベードラだとか、週刊少年ジャンプをたたくとスネアっぽいなとかを選んで。そうやって遊んでいました。
ーそういう原体験があると、その延長で今回のようなスタイルでも録れる気はしますね。
斉藤 でもデビューしてからはレコーディング・スタジオで作業することが多かったし、デモ・テープみたいなものも作らなかった。レコーディング・スタジオで曲を作ってそのまま録っていくというスタイルが長かったので。今でも基本はそうなので、あまり宅録することは無かったんです。いっときオープン・リールのレコーダーを買ったり、一体型ハード・ディスク・レコーダーが出たときにAKAI PROFESSIONAL DPS16を買ったりもしましたが、何を録るということもなかったので。
ー今回はシンセもたくさん入っていますね。
斉藤 KORG R3を中古で見つけたので、それを鳴らしていたり。OBERHEIM OB-XAも、低音でパッドを鳴らすときに使っていたりします。あとMOOG GrandMotherと、MELLOTRON M4000D Miniも使いました。『Toys Blood Music』のときにMOOG Sub Phattyを買って、これもベースによく使うんですが、GrandMotherはデザインが好きで。あとKORG Arp Odysseyかな。Logic Proの付属ソフト・シンセも、「Strange Man」でパッドとして使ったような気がする。
Gears
斉藤が“作業場”とも呼ぶ、プライベート・スタジオの機材も紹介していこう。デスク上のラックには、UNIVERSAL AUDIO Apollo X6(オーディオI/O)とマイクプリのAURORA AUDIO GTP8とFOCUSRITE Clarett OctoPreがスタンバイ。以前はラック上のMOTU 8Preを使っていたそうだ。これらの機材はSTAY HOME中の制作のために仮設されたもの
モニター・スピーカーはKRK VXT6
モニター・コントローラーはMACKIE. Big Knob Studio+を使用
真空管マイクプリのUNIVERSAL AUDIO Solo/610(左)とミキサーのMIDAS DM12。DM12にはシンセなどを立ち上げて、オーディオI/Oへ送る前にまとめる役割を担っている
ボーカル録音用のマイクは、ダイナミック・タイプのELECTRO-VOICE RE20
アコースティック・ギターはNEUMANNのコンデンサー・マイクKM184で収録したとのこと
これまではスタジオに入ってから曲を作っていた
宅録ですべて完成させたのは初めて
ーご自宅やプライベート・スタジオでの録音以外に、Studio Jiveでダビングしたパートもあると聞きました。
斉藤 上モノ……M4000D Miniとか……。
桑野 アコギとか。ちょっと足してみようかな?ということを和義さんが思い付いたときに。まずLogic ProからAVID Pro Toolsに流し込んで、バランスを取ってみて。それで聴いてから、ちょっとこれ足したいなというときに。
ー作業の流れとしては地続きなんですね。
桑野 今回に関しては、基本的に和義さんの自宅とプライベート・スタジオで出来上がっていました。
斉藤 初めてだよね、そんなのは。
ー今まではスタジオでダビングするものが多かった?
斉藤 ダビングも何も、全部。
桑野 イチからというか、ゼロから。
斉藤 曲もスタジオに入ってから作る……みんなに待ってもらって、“できたよ”と言って録り出して。だから自宅でのデモは存在しなかったんですよ。まれに、先にデモを出さなければいけないとき、簡単な弾き語り程度のものを作ることは数曲はあったかも、というくらいです。
ーてっきり、これまでも宅録した曲があったのかと思っていました。
斉藤 無かったですね。『Toys Blood Music』のときにLogic Proを使い始めて。それまではPro Toolsを入れていたんですけど、難しいに決まっているという思い込みがあって、ろくに使わないまま。たまにAPPLE GarageBandに録ったりはしていたんですけどね。それもデモと言えばデモなのかもしれないけれど、それもJiveで録っていました。
ーだから、世の会社勤めの人のように、コロナ禍になったから自宅で仕事するようになったと。
斉藤 そう。この機会だから、もう少し機材の使い方を覚えようと思って、なんとなく録り始めたら曲になっていった。あと、カーリングシトーンズ(寺岡呼人、奥田民生、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本とのバンド)で、みんなでデータを送り合ってダビングする中で、“データでのやり取りはこうやるのか!”と初めて知って。同世代なのにみんな分かってやっているから、“なんでこれまで黙っていたんだよ!?”と(笑)。
ーみなさん使っているDAWもバラバラですよね?
斉藤 だからトラックに張ると頭が合わなかったり(笑)。それで覚えたりして、苦手意識も薄れてきた。家にはずっと機材がつないであって、そのまま録音できるテンプレートも組んであったんだけど、もう少しちゃんと用意して。レベル設定も聞いておいて。でも家でやっていても行き詰まるので、5月の緊急事態宣言が明けてからはプライベート・スタジオに行き始めたんです。Jiveのエンジニアの大川(誠)君に大体のセッティングはしてもらったので。こちらもテンプレートを作って、あとは楽器を挿し替えるだけという状態にしてあるので。
Gears
ジャーマンLinn Drumとも呼ばれるBÖHM Digital-Drums。13ビット/21.3kHzサンプリングで、25音色、36パターン×4バリエーションを備える。オプションのキーボードでベースの演奏も可能。斉藤は小型版のDigital-Drums M.も所有している
プリセット・パターン版のTR-808とも呼ばれるリズム・ボックス、ROLAND CR-8000(2小節のみプログラミングも可能)も、TR-808と同じく1980年発売。『55 STONES』では「一緒なふたり」でメインとなるシャッフル・ビートを奏でている
MOOGのモノフォニック・アナログ・シンセ、GrandMother。セミモジュラー方式で、セクションを横断したパッチングも可能となっている。斉藤はMinimoog VoyagerやSub PhattyなどMOOGモノフォニック・シンセを愛用してきたが、パネル・デザインに引かれて本機も導入
KORG Electribe・S(ES-1) MK2。ステップ・シーケンサーを内蔵したElectribeの第2世代機で、本機はスライス機能を内蔵したサンプラーと組み合わせたもの。斉藤はほかにも数台Electribeシリーズを所有しているとのこと
Figureのビートの2ミックスに
書き出した単音を足してミックスしました
ー流れを整理すると、そうやって録ったファイルを、JiveでPro Toolsに読み込んで、桑野さんが仮にバランスを取る。そこから、何か足りないところは足していく。
斉藤 そうですね。
ー例えば、先程のFigureの音はパート単位の2ミックスですが、どのように処理されたのですか?
桑野 大丈夫そうだったらそのまま使ってしまうんですが、キックとかスネアとか、どうしても上がって来ない……EQでは限界があるので、その場合は和義さんから単音をもらいました。Figureでキックやスネアの単音を出せるので、パターンにばっちり合うように置いていって、それを足していく。
ーやり方としては地道ですね。
桑野 足したい帯域以外は単音側をEQで切ってから足したりしました。位相がばっちり合うように目で合わせておいて。基本は同じパターンなので、ループしてしまえばいいですから。それができたことで、だいぶ楽になりました。ほとんどの曲でそれはお願いしましたね。
ーFigure主体の曲は、かすみがかかったようなサウンドをしていると思いました。
桑野 処理自体はシンプルにEQが中心。SPL Transient Designerで、単体で足すもののアタック/リリースをコントロールしました。でも、それは元の2ミックスのイメージを保ったまま処理するためですね。あと、Figureは30〜40Hz辺りのローエンドが出ていて、イアフォンなどで聴くと耳が引っ張られると思うので、そこは切るのか、残すのか、倍音の60Hzくらいを上げるのかは意識していて。イメージが変わらないように、どう聴かせるかを考えていました。
ー今日はROLAND TR-808とOBERHEIM DMXをお持ちいただいていますが、これらはどのように?
斉藤 フジケン(藤井謙二)とやった「木枯らし1号」は、TR-808に合わせて2人で弾きました。DMXは、2曲くらいで、パターンというよりはスネアだけ足したりとか。
桑野 「一緒なふたり」は、自粛前の時期で、もともとのスタイル……Jiveで作る形でした。
斉藤 ROLAND CR-8000を「一緒なふたり」で使いましたね。そこに上から生ドラムも足しました。
ー「一緒なふたり」のハネたビートは、いかにもリズム・ボックスですね。
斉藤 弾き語りのライブをやるときに、リズム・ボックスと一緒にやると、景色が変わったりする。それ用に最初は使い出したんですが、いろいろな種類が集まってきた……メーカーによって音もパターンも違うから。最初はリズム・ボックスが好きで、古いから、ヨレるんですよね。そんなことの延長でリズム・マシンにもハマっていった。音の存在感とかね、ソフトウェアとは違うし、独特のグルーブ感がある。ただ8ビートを鳴らしただけでも、何とも言えない良いノリがあって。
ーJiveでボーカルを録音し直した曲もありますか?
桑野 そうです。そのまま使ったものもあります。
斉藤 録ってから、やっぱり家で録ったものを使おうとか。逆にラフにしか録っていなかったのでちゃんと録ろうとか。そこはバラバラですね。
ーボーカルの質感も、曲によって違って聴こえますね。
桑野 アコギと一緒か、エレキギターと一緒か、リズム・マシンがメインかで音像が変わっていますね。距離感も違うし、曲によって破裂音を強くしていることもありますし、マイクやプラアンプも違います。Jiveで録る場合のプリは僕のADT-AUDIO V778 Tで、解像度が高いのが気に入っています。そういう意味では、統一感は意識していないですね。
ー曲の成り立ち自体がすべて違いますからね。そもそも、アルバムを作ろうと思って動き出したわけでもない?
斉藤 そうですね。趣味の延長というか。でも途中、6、7曲くらいできたところで、アルバムになりそうだな、まとまったらいいなと思っていました。
Studio Jive
近年斉藤が拠点としているStudio Jive。コンソールはFOCUSRITE Forteで、ラージ・モニターはJBL 4311。2ブースを備える
桑野氏のアウトボード。上2つはSHURE SE30という、ゲート/コンプレッサー内蔵3chミキサーで、ドラムのパンチを出すのに使用。続くADT-AUDIO V778 Tはマイク・プリアンプで、解像度の高さがボーカル向きだという。その下は、UNIVERSAL AUDIO LA-3A、LA-610(ドラムのトップ・マイクに使用)、API 560×2、SHINYA'S STUDIO 4000 Rev.E Black EQ、API 3124+、5500、LA-3A×2、UREI 1176×2
エンジニアの桑野貴充氏。2003年にビクタースタジオでキャリアをスタートし、2014年からフリーランス。斉藤作品はビクタースタジオ在籍時から携わる。ほかに雨のパレード、藤巻亮太などの作品で手腕を奮ってきた
レバーをずらしていったらノリが後ろになる
そういうハードウェアがあったらいいのにな
ーこのアルバムではバンド編成の「Boy」「シグナル」もありますが、どちらも痛快ですね。
斉藤 「Boy」は珍しくデモを作ったんですが、これはやっぱりバンドでやりたいなと。去年の5月に緊急事態宣言が明けてすぐに録ったんですけど、久しぶりに外に出て人に会った感じが音に出ていると思いましたね。みんな弾けていて。「シグナル」は9月くらいだったかな。
ー「シグナル」は見事にシティ・ポップ・マナーですよね。
斉藤 山下達郎さんの作品を初期から聴き直していて、完全にその影響ですね。そういう感じにしてくれそうな朝倉(真司)君(ds)、崩場(将夫)君(k)を呼んだりして。
ー真壁陽平さんのギターのフレーズもそれっぽいです。
斉藤 最初はもっと違う感じで弾いていたんだけど、達郎さんみたいな感じで弾いてって。
ーアルバム全体を見ると、これだけ色とりどりで、でもちゃんと斉藤さんの音楽になっている。同時に、コロナのことは「2020 DIARY」でしか直接は歌っていませんが、世の中のムードをまとっているようにも思いました。
斉藤 “頑張ろう”みたいな曲は、俺はいいやと思っていたし、無理やり作るものでもないしなと。最初の自粛期間は、何を歌っていいか分からなくなって、全く音楽をやる気を失っていましたからね。だったら無理やりやる必要も無いし、ギターばっかり作っていて、それにも飽きちゃった。放っておいても、あの期間の感じは出るだろうから、普通に、冷静にしていたい。それでもモヤモヤしていたものは「2020 DIARY」に出てしまいましたけど。
ー今このタイミングに世に出る作品は、受け取る側としては時代の反射があるのかなと思ってしまいますね。
斉藤 この状況の感じはやっぱり、どこというわけではないけれど、出ているかもしれませんね。
ーコロナ禍の影響こそありましたが、結果として『55 STONES』では斉藤さんにとって新しいサウンドの作品が生み出せたのでは?
斉藤 そうですね。そのときそのときで、自分が楽しめるやり方でないとつまらないし。世の中の人が抱いている斉藤和義のイメージ……アコギを弾いて歌っているような姿を思い浮かべる人が多いんだろうなという気がするけれど。そういうのも好きですが、テクノっぽいのも好きだし。『Toys Blood Music』では生ドラム禁止をテーマにしていて、もうちょっと音を厚くするにはどうしたらいいんだろう?とか、そういう実験はしてきている。だから、別に何かにこだわってはいないんです。それがアプリでもシンセでも、リズム・マシンでもいい。生でもいいし、歌が無くてもいいし。自分ではどんどんこだわりが無くなっている感じですかね。そうは言っても、自分が作る曲の傾向とか、好きなコードの感じは、そんなに急に変わらないでしょうけど。アレンジ上では何でもありだと思っていて。
ーでも、好きな機材や楽器をいっぱい使いたいという気持ちはある?
斉藤 機材を買うときも、これで1曲作らせてほしいなという感じですよね。ギターやアンプもそうですけど。それでつい、楽器や機材が増えてしまう。特に機材って、買った初日の、まだ使い方が分からないときにいじっていたら変なことになって……みたいなのがいい。初日命なんです。使い方が分かってきてしまうと、パターンも普通のしかできなくなるし、また忘れたころに触るといい。
ー使いこなせてしまうと面白くない?
斉藤 そうなんですよ。だから、買ってきた初日が勝負。遊んでいるのを全部録っておいて、面白かった部分を膨らませて曲にするとか、そういう偶発性みたいなものが欲しいというのもあるし。Figureも、音楽をやったことがない人でも使えるようにできているじゃないですか? (パターン内での発音回数が)数字で出てきたりするでしょ? 俺も譜面は読めないし、ドラムをたたくときも、アレンジも、どっちかというとそういう感じだなと思ったんですよ。“何拍目の何”じゃなくて。
ー“こうきたら、ここで3回スネアをたたいて”のような?
斉藤 そうです。その感覚そのままだと思ったんで。リズム・マシンでもそういう機能があればいいのになと思いますね。レバーをずらしていったら、ノリも後ろになっていくとか。数値じゃなくてね。そういうハードウェアがあったらいいのにな。
ーライブもそろそろ再開されるんですよね?
斉藤 前作『202020』からも含めたアルバム2枚分のツアーを4月から予定していましたが、それも延期になってしまって。5月からですかね。状況を見ながらですけど、ボチボチやりたいです。
インタビュー前編では、YMO「BEHIND THE MASK」のカバー制作について伺っています。
Release
『55 STONES』
斉藤和義
SPEEDSTAR(初回限定盤:VIZL-1850、通常盤:VICL-65460、アナログ盤VIJL-60310)
- BEHIND THE MASK
- Boy
- Strange man
- 純風
- Lucky Cat Blues
- 魔法のオルゴール
- シグナル
- レインダンス
- 木枯らし1号
- 一緒なふたり
- 2020 DIARY
- ぐるぐる
<初回限定盤付属DVD>
スタジオ・ライブ&ミュージック・ビデオ収録
Musician:斉藤和義(vo、g、b、ds、k、syn、他)、平里修一(ds)、朝倉真司(ds)、山口寛雄(b)、真壁陽平(g)、藤井謙二(g)、崩場将夫(k)、愛太朗(sax)
Producer:斉藤和義
Engineer:桑野貴充、斉藤和義
Studio:Jive、ネコスタ、ホテルニュー世田谷、FREEDOM STUDIO INFINITY、Sound City Setagaya
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