ディストーション・ギターとヒップホップのリズムでビッグな音像を提示する「No Pressure」。Novel Coreのメロディックなボーカル表現を十二分に引き出した仕上がりで、アルバム表題曲としての存在感を放っている。プロデュースを手掛けたUTAは、これまでに三浦大知やBTSなど数多くのアーティストに楽曲提供してきた敏腕。彼のコメントから「No Pressure」の制作工程をひも解いていくとしよう。
Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki
同じ歌でも聴こえ方を変えるアイディア
ーどのようなテーマのもとでプロデュース・ワークを開始したのですか?
UTA 「No Pressure」という楽曲タイトルだけは事前に聞いていたんですが、そのときは歌詞の方向性がまだ分からなかったので、まずは音楽の方向性に関して、スタジオに入って話し合いながら作っていこうとなりました。真っさらな状態からスタジオに入って、というやり方だったので、トラック先行で制作しましたね。当日はCore君がサビのトップ・ライン(歌メロ)のアイディアを出してくれて、それを元に後日、僕もトップ・ラインを作って仮歌を入れて、Core君に送りました。その後リモートでやり取りし、僕のアイディアの中から幾つかをピックアップしてもらって、まとめの作業をCore君に委ねたんです。
ーだから、作曲者にNovel CoreさんとUTAさんのお二方がクレジットされているのですね。トラックは、どのような要素から生み出されたのでしょう?
UTA “エレキギターのフレーズを入れた楽曲が作りたい”というリクエストがあったので、まずはギターを弾きながら、コード進行やフレーズをイントロの部分から作っていきました。その後はドラム、ベース、ほかの上モノという順です。
ーコード進行をイントロから作っていったということは、楽曲の構成も早い段階で決まったのでしょうか?
UTA いや、初日はワンコーラス分だけで、トラックのラフ+サビのトップ・ラインという内容だった気がします。ただ、サビが何となくできていたので、リモート作業でトップ・ラインなどを追加する際に構成も作りました。“どこかでみんなが一緒に歌えるブロックを作りたい”という話もあったから、2番目のサビの後に入れようかな?と話し合ったりしているうちに、すぐ決まりましたね。ちなみに最後のサビの後(2:52辺り~)には歌が入っていますが、当初はトラックだけにしていたんです。ちょっとビートを抜いたりして、少しだけ遊んで終わろうかなと。でもレコーディングのときにCore君が“ここにもサビの歌を入れたらどうだろう?”とアイディアを出してくれたので、トライしてみることにしました。結果、同じ歌や言葉でも、ひずませてラジオ・ボイス的にしたり、トラックのパターンを変えたりすることで違う聴こえ方になったので、とても効果的だったと思います。
ーBメロがブレイクのような役割を果たしているのも特徴的です。日本のポップスでは珍しい構成だなと。
UTA 海外産トラックにおいては、プリコーラス(Bメロ)でビートを抜いてコーラス(サビ)で戻すというのは、ごく一般的だと思います。僕も普段からよく使う手法なので、一曲通してメリハリを付けようとしたときにこうなりました。
自身のラフ・ミックスをリファレンスに
ーそのBメロのボーカルには、ピッチを揺らすエフェクトがかかっているように聴こえます。先程のラジオ・ボイスしかり、ボーカルの音色が場面によってさまざまです。
UTA PLUGIN ALLIANCE Black Box Analog Design HG-2とNATIVE INSTRUMENTS Supercharger GTという2種類のサチュレーター・プラグインを全ボーカル・トラックにかけているので、単にひずんでいるだけでなく、少し面白い揺れがあるのかもしれません。サビではボーカル・トラックを複製して1オクターブ上げ、それをさらにドライブさせたりしています。こうした処理をエンジニアのD.O.I.さんに伝えてプラグインのスクリーンショットを共有し、同じエフェクトをかけてもらったんです。
ーひずみと言えば、サブベースにも施していますよね?
UTA ベースに輪郭を持たせるべく中域を持ち上げすぎるとローが物足りなくなったりするので、中域のブーストは量感がギリギリ残るくらいまでにとどめつつ、ある程度ひずませています。音源は、FAW SubLabのプリセットのアタックやリリースをエディットしたものですね。さらに、輪郭を補うためのレイヤーをSPECTRASONICS Omnisphere 2で作りました。スーパー・ローに関しては、最終的にD.O.I.さんに調整してもらって良い感じにまとまっています。
ーD.O.I.さんには、ミックスでの音作りについて、どのようなオーダーをしたのでしょう?
UTA 最近は自身のラフ・ミックスを限りなく理想に近づけて、それをリファレンスにしてもらうことが多く、今回も同様でした。その上で、ドラムとベースのローを奇麗にしてほしい、声をさらにブライトにしてほしい、みたいなリクエストを伝えて。だから基本的には、ラフ・ミックスをブラッシュアップしてもらったイメージです。この曲では、とにかく歌もトラックもパワフルにしたかったんですが、特に歌は耳に痛い帯域をしっかりと抑えつつ、洋楽の質感のようにミッドローの厚みを持たせたくて。その辺りをD.O.I.さんにハンドリングしていただきました。
曲の各場面に“主役”を作ることが大事
ーサビではサブベース、キック、ローポジションのディストーション・ギターといった低音の要素が同じようなタイミングで鳴っています。ややもすると低域過多に聴こえてしまいそうですが、全然そうなっておらず、“ローの塊感”が心地良いと思いました。
UTA 本当ですか? 僕は全くそこは気にせずに、気持ち良いままに打ち込んだり、ギターを弾いたりしていました(笑)。 きっとD.O.Iさんが、すごいんだと思います。ただ、音色を1つ重ねるたびにEQなどの処理を変えていくので、それも効いているのかもしれません。
ーギターは、本チャンもUTAさんの演奏なのですね。
UTA はい。自分で弾いたものをエディットして使っています。音作りについてはプラグインを使うこともたまにありますが、最近はギター・アンプ・プロファイラーのKEMPER PowerRackにお気に入りのプリセットが幾つかあって、今回もそれを使用しました。ギターを全面に押し出す曲の場合は、パソコン上のプラグインだと少し音やせしてパワーが無くなってしまうのが物足りなくて。
ー楽曲全体の音数がさほど多くないからか、ギターの迫力が際立って感じられます。
UTA 音数が少なかったりスペースに余裕があったりすると、音の一つ一つやそれぞれのキャラクター、そして声がよく出てきますよね。それに「No Pressure」は、サビのトップ・ラインと言葉の持つ力が強いので、トラックはなるべくシンプルに聴こえるよう意識しました。各ブロックにしっかりと主役がいて、そこに意味を持たせることができれば、聴く人もきっと退屈しないんじゃないかなと思います。でも実はこの曲、トラック数は60くらいあるんです(笑)。
ー最後のサビでは、ギターへトップ・ノートを加えるかのようにシンセ・リードが鳴っています。どのようなシンセをご使用になったか教えてください。
UTA 同一のフレーズを4つのレイヤーでユニゾンさせていて、REFX Nexus 4とXFER RECORDS Serumを2系統ずつ使用しています。どちらも動作が軽い上に、気に入った音色をすぐに呼び出せるので、よく使っているんです。また両方とも、ABLETON Liveのプラグインでひずませています。
ー「No Pressure」は、アルバムのタイトル・チューンになりました。仕上がりについては、いかがですか?
UTA 全体的に、とても満足しています。何よりきっと、Core君はいつ、どんな音楽スタイルをやろうと、その言葉でたくさんの人たちに寄り添うだろうし、今は前を向けない人たちにも生きる希望を与え続けるだろうと思います。そんな作品作りを今回もまた一緒にできたことが、僕にとってもすごくうれしいです。
UTA
【Profile】音楽プロデューサー。東方神起、AI、三浦大知への提供曲でレコード大賞、BTSの楽曲でiTunesワールド・チャート首位、Billboard Japan Hot 100の8位を獲得。「THANKS, ALL MY TEARS」(2021年)などNovel Core作品も手掛けてきた。
Release
Musician:Novel Core(vo)
Producer:Novel Core、Ryosuke “Dr.R” Sakai、MATZ、KM、Yosi、KNOTT、UTA、Aile The Shota、Matt Cab、Yuya Kumagai
Engineer:Ryosuke “Dr.R” Sakai、HIRORON、MATZ、D.O.I.、SHIMI from BUZZER BEATS、Da.I (KNOTT)
Studio:STUDIO726 TOKYO、magical completer、HLGB、他