ガイ(写真左)とハワード(同右)のローレンス兄弟から成るロンドン発のデュオ=ディスクロージャー。2013年にリリースされた「ラッチ feat. サム・スミス」はあまりにも有名で、以降もザ・ウィークエンドやグレゴリー・ポーターら多数のアーティストとコラボレーションしながら、ハイセンスなハウス・ミュージックを生み出してきた。そして、今年8月にリリースされたニュー・アルバム『エナジー』では、アフロやブラジリアンを取り入れた新機軸のサウンドを披露。アンダーグラウンドからメジャーまで、あらゆる音楽ファンを納得させるであろうクオリティだ。LA滞在中のガイとコンタクトが取れたので、ビデオ・チャットでのインタビューを敢行。アルバム制作をはじめとするプロダクションの方法論について伺った。
Text:Tsuji. Taichi Interpretation:Mariko Kawahara
Photo:Hollie Fernando(メイン・カット)、Ronan Park(Sleeper Sounds Studio)
今まで以上にアフリカの音楽を吸収し
特にフェラ・クティから影響を受けた
ーあなたたちの作品はアンダーグラウンドなハウス・ミュージックからコマーシャルなEDMのリスナーまで、幅広い層をうならせるものだと感じます。両者のバランスは意識するところでしょうか?
ガイ それができていることは十分に自覚しているけど、意図的にやったことは一度も無い。僕たちは自分たちが作る音楽にとても正直なので、なるようになっているだけだよ。そしてラッキーなことに、僕らの音楽は君が言うような人たちの需要にバッチリ合っているようなんだ。でも、そうしようと思ってやっているわけじゃないし、やろうと思ってできることでもない気がする。意図的にやったら、しくじると思う。自分に正直な音楽を作らないといけないんだ。
ーアルバムの制作にインスピレーションを与えた音楽があれば教えてください。
ガイ ハウス・ミュージックは常に基盤だね。1980~90年代のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノ、それからUKガラージも。そして今回は、初めてアフリカの音楽を今まで以上に掘り下げたんだ。「ドウハ(マリ・マリ)」で歌ってくれたファトゥマタ・ジャワラはマリ出身だし、「スネパ」にはカメルーン出身のブリック・バッシーも参加している。その理由は、僕もハワードもアフリカの音楽が大好きだから。例えばナイジェリア・ラゴスの70'sディスコとかね。2017年にはノンストップで聴いていたよ。ただ、これというものを挙げるなら、過去のどのアルバムよりもフェラ・クティに影響された。さっきも話したように、自分に対して正直な音楽を作れば否が応でもインスピレーションが忍び込んでくるものさ。
ーちなみに日本のアーティストで好きな人は居ますか?
ガイ 見付ける機会が無いんだ。インターネットがあるにせよ、そこには山のような数の人たちが居るから、誰かに教えてもらう必要がある。日本の70'sディスコのレコードは何枚か持っているし、探そうとした時期はあったんだけどね。何しろ僕が使っているマシンには、日本製のものがあるんだから!
ー楽曲は、どのように作っているのでしょうか?
ガイ 僕とハワードにはそれぞれ強みがあるから、互いの役を担っている。僕の強みはドラムのプロダクションとミキシングだ。ハワードは、最終形というよりは基本的なアイディアを出してくる。例えばコードやメロディ、歌詞とかね。でも、その段階ではまだ普通の曲なんだ。シンガー・ソングライターが書くようなもので、ディスクロージャーのダンス・サウンドには聴こえない。だから僕の仕事は、それをディスクロージャーたらしめることだね。
ー具体的に何から着手するのですか?
ガイ 普段はドラムから始めるけど、ハワードが僕の部屋に来てコードやメロディを提示してくれる場合は、それらを起点にして僕がドラムを付けていく。肝心なのは、リモートではやらないってこと。必ず同じ部屋で作業するんだ。誰かとやるときには“自分の定番アイディア”から始めることはまず無い。絶対に“今、何を考えているの?”といった話をする。作業の前に相手のことを理解できると素敵だし、真のコラボレーションが実現するんだ。
TR-8SやJuno-106がキーとなる楽器
オーディオではなくMIDI主体で制作する
ーガイさんはドラムの制作が得意とのことですが、どのような音源を使っているのでしょうか?
ガイ 実は、僕は根っからのドラマーなので、普通にたたけるんだよ。でもディスクロージャーの曲は、すべて打ち込みだ。例えばROLAND TR-8S。TR-808やTR-909のサウンドが入っていて、それらがディスクロージャーの基本的なパレットになっている。何せハウス・ミュージックの根幹を成す音だからね。TR-808やTR-909の音を使わないで作った曲なんて思い出せないな。スネア1つでも入っていないとハウス・トラックが完成しないと思うし、ほとんどフェイクという気もする。このマシンを追求してクラシックなサウンドを出すと同時に、フレッシュな音楽にもしなければならないんだ。ソフトではNATIVE INSTRUMENTSのBattery 4が気に入っている。プリセットをよく使うけど、好きなサンプルを取り込んでエディットすることもあるね。
ードラム・サンプルはどういったものを?
ガイ Spliceで調達したものとか。かなりクールだね。シェイカーやタンバリンの音をよく使う。なになに、サンプリングはどこからしているのかって? 主にディスコからだね。ディスコをよくネタ使いしているよ(笑)。
ーオーディオ・エディットでドラム・パターンを作ることは無いのでしょうか?
ガイ あまりやらない。MIDIで賄うのは、最終段階でも変更が利きやすいから。ドラムのオーディオ化は好きじゃなくて、とにかく最後の最後まで、すべてをフレキシブルにしておきたいんだ。マスタリング・スタジオへ向かう車中で聴いて“ここにハイハットを加えたい”と思ったら、マスタリングの直前であってもそうする(笑)。
ーベースや上モノには、どのようなツールを?
ガイ ROLAND TB-03が気に入っている。最近手に入れたものではNOVATION Peak。ベースにもコードにも合うので、ちょっと値は張るけどお薦めの素晴らしいシンセだよ。そしてROLAND Juno-106。これは僕らにとって基本の一台で、ほぼすべての曲で使っていると思う。逆に、買ったものの往生しているのはALESIS Andromeda A6。素晴らしいシンセなんだけど、操作系が超複雑なんだ。正直、使い方がよく分からない。ソフト・シンセだとNATIVE INSTRUMENTS Monarkをよく使っている。MOOG Minimoogの再現版だからベースにマッチするし、僕はベースに関しては超オールドスクールでね。MassiveやXFER RECORDS Serumといったモダンなシンセは一切使わない。僕に必要なベース・サウンドはビンテージ・スタイル・オンリーだ。
ーソフトウェアはもちろんハードウェアも積極的に取り入れているのが、あなたたちの音楽からは伝わってきます。
ガイ ハードウェアに関しては、さして積極的に使っているわけではない。APPLE Logic Pro Xの音をアウトボードに出して戻すようなことはしないし、それよりも手早く作業したいんだ。だからこそ、楽器に関してはよく使うものが手の届くところにある。手の届く範囲に無いものは、使わないことが分かったしね。素晴らしいシンセを持っていても、向こうの部屋にあったら多分あまり使わないだろう。だって制作中は、あっちには行かないんだもの。でも、歌録りに素敵なアウトボードを使うのは好きだね。プリアンプはNEVEで決まりだ!
Sleeper Sounds Studio
シンガー・ソングライターのガイ・チャンバーズが主宰する西ロンドンのスタジオ、Sleeper Soundsにて楽曲制作を行うディスクロージャーの2人。AVID Pro Tools|HDXシステムに接続されたEMI TG12345コンソールを有する環境で、悠々とプロダクションを楽しむ様子がうかがえる。ハワードの奏でるグランド・ピアノは1920年代のSTEINWAY。ガイがプレイするROLAND Juno-60のラックには、VP-330やSEQUENTIAL Prophet-6、N.V. EMINENT String-Ensembleなども用意されている
アルバムのために書いたのは全200曲
頭の中のものを次々と具現化していった
ー曲の展開は、どのようにして作っていくのですか? 最初に大まかな構成を組んでから細部を詰めるのか、始まりから終わりまで順に積み上げていくのか、どちらでしょう?
ガイ 両方だね。僕がまっさらの状態から始める場合、大抵は頭の中に何かが浮かぶ。恐らく、何かしらのサウンドから発想したものだ。例えばシンセを使うときは、しばらく触って2つのコードを弾いたりする。すると曲全体のイメージがわいてくるので、それとコンピューターでやっていることがマッチするまで、ひたすら作業するのみだ。でもハワードや作詞家と一緒にやる場合は、曲を仕上げるまでに少し時間がかかる。方法はその都度違うので、決まりは無い。
ーオーディエンスたちを踊らせ続ける曲にするため、どのような点に気を配っていますか?
ガイ もちろん気を配ってはいるんだけど、ダンサブルなのは、やっぱり意図的なものではないんだ。マジで、ただスタジオで頭の中にあるものを作っているだけで。それが多くの場合ダンサブルなので、うまく行っているんだ。ちなみに今回のアルバムのためには200曲も書いたから、ダンス・フロア向けじゃないものもたくさんできた。エネルギッシュでアップビートな作品にしたいことは分かっていたけど、僕らは常に頭の中で曲作りをしているから、すべてを吐き出すためには次々と具現化しなければならない。スローな曲ができる日もあったけど、それはそれで良いんだ。今回のコンセプトに合わなかっただけで、いつか世に出るかもしれないし。
特定のパートをソロで聴き続けるより
全体像を見ながらミックスした方が良い
ーガイさんはミキシングも手掛けていますが、音作りにおいて大事にしていることや信条はありますか?
ガイ ミキシングの際には、確かにその時々で何かしらの要素に専念しなければならないんだけど、僕は1つのものだけを10分以上も聴き続けるという行為から抜け出そうとしている。なぜなら全体像が見えなくなって、曲の中で何が起きているのか分からなくなってしまうから。多くの場合、ボーカルもコードもすべてオンにして、そこから最も重要な部分に取り組むんだ。以前はハイハットだけに10分も15分もかけて全部を完ぺきにしようとしていたけど、今では曲作りしながらミキシングするのが好きだね。そうやって5~6割の完成度にして、最終段階では幾つかのトラックを一緒に鳴らして全体像を維持するようにしている。だって、キックやハイハットを単体で聴かれる機会なんて滅多に無いだろ?
ーご自身の楽曲について、クオリティの是非というのは、どのような部分でジャッジしているのですか?
ガイ 分からないな(笑)。とても難しい質問だ。でも、そう尋ねる気持ちは分かる。僕も画家が絵を描いているのを見て、“この部分にもう一筆必要だな”とか言っているのを聞くと“何がもう一筆だよ! それでいいじゃないか!”って思うもの。音楽作りも同じだよ。フィーリングだ。長い間やり続けて鍛錬していれば分かるようになる。個人的な秘けつは“加え続けないこと”だ。『エナジー』のアイディアは、その場、その瞬間をとらえることだった。収録曲の大半は20分から1時間で出来上がったので、バージョンが10個とか、ミックスが5種類とかあるようなものじゃない。すべてが“ジャム”を基本にしていたんだ。とは言え、10も20もバージョンを作って、そこから1つだけを選べる人たちを僕はリスペクトしている。どうすれば、そういう頭になれるのか分からないからね。曲を作ってみて、良くなければ別のものを作ればいい……これが僕の発想だ。
ー最後に、日本で活動するミュージシャンにメッセージをもらえませんか?
ガイ 今は、あまりお金をかけなくてもやれることが山ほどあるし、テクノロジーも発達しているから利用しない手は無い。僕たちの1stアルバムがLogicだけで作られたことを忘れないでおくれ。純正のプラグインのみで、ほかは何も使わなかったんだ。あとは自分の得意なものをプレイして、不得手なものがあれば、それが得意な人とやればいい。自分の美点を磨けば、多くのチャンスが訪れることにきっと驚くよ。
Release
『エナジー』
ディスクロージャー
Island Records/ユニバーサル:UICI-1156
※M12~20=ボーナス・トラック
- ウォッチ・ユア・ステップ feat. ケリス
- ラヴェンダー feat. チャンネル・トレス
- マイ・ハイ feat. スロウタイ
- フー・ニュー? feat. ミック・ジェンキンス
- ドウハ(マリ・マリ)feat. ファトゥマタ・ジャワラ
- フラクタル (Interlude)
- スネパ feat. ブリック・バッシー
- エナジー
- シンキング・バウト・ユー (Interlude)
- バースデイ feat. ケラー二 & シド
- レヴァリー feat. コモン
- エクスタシー
- トンド
- エクスプレシング・ワット・マターズ
- エトラン
- ゲット・クロース
- ノウ・ユア・ワース
- トーク
- バースデイ(Disclosure VIP Remix)
- バースデイ(MJ Cole Remix)
Musician:ガイ・ローレンス(prog)、ハワード・ローレンス(prog、cho)、ケリス(vo)、チャンネル・トレス(vo)、スロウタイ(rap)、アミーネ(rap)、ミック・ジェンキンス(vo)、ファトゥマタ・ジャワラ(vo)、ブリック・バッシー(vo)、ケラーニ(vo)、シド(vo)、コモン(rap)、他
Producer:ガイ・ローレンス、ハワード・ローレンス
Engineer:ガイ・ローレンス、イラ・グリラック、チャド・ゴードン
Studio:プライベート、イースト・ウェスト、他
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