ハウスやUKガラージを手掛ける京都のプロデューサー、Stones Taro。2017年にScuffed Recordingsからデビューして以来、Time Is Now RecordsやLost City Archivesなど英国の有力レーベルを中心にリリースを重ねてきた。また、YonYonのリミックスを務めたりと国内のポップ・シーンにも名をとどろかせている。レーベルNC4Kを主宰し、世界のアンダーグラウンド・ダンス・ミュージック界隈から今、最も注目されている日本人の一人だろう。
Text:Tsuji. Taichi Photo:kenchan
Stones Taro【Profile】京都在住のプロデューサー。ハードコアなどのバンド・サウンドをルーツに持ち、2014〜15年からハウスやUKガラージの制作を開始。Time Is Now RecordsやLost City Archives、Breaks 'N' Piecesなど英国の優良レーベルから多数リリース。レーベルNC4Kを主宰。
Release
『Yakusugi』
Stones Taro
(Breaks 'N' Pieces)
ハウスにせよジャングルにせよハードコア・パンクに通じるものを感じる
トラック・メイクを始めたきっかけ
大学時代はバンドをやっていて、ハードコアやメタルコアといったバンド・サウンドに触れる機会が多かったんです。卒業後は大学院に進んだのですが、周りは就職するわけで、一人で音楽をやろうとなったときにDJやトラック・メイクに関心を持ちました。2014年ごろの話ですね。それで当時、関西で活動されていたSeihoさんたちの音楽を聴いて、見よう見まねでトラックを作り始めたんです。転機になったのは、Clock Hazardという覆面ダンス・ミュージック・レーベルとの出会い。彼らのDJや曲に感化されて、ハウスを作り始めました。そのころはフューチャー・ベースやトラップが新しい音楽でしたが、僕は90'sハウス……特にStrictly RhythmとNervousにやられたんです。この2つのレーベルって“ストリート”だと思うんですよ。NYのストリート・カルチャーから生まれたものというか。またNC4Kを共同運営しているLomaxから2ステップやジャングルをシェアしてもらうようになり、それらと90'sハウスに同時にハマるという時期がありました。いずれも1990年代中〜後期の音楽だし、僕の中では同じような感覚なんです。
なぜ“90'sのダンス・ミュージック”なのか
ハウスにせよジャングルにせよ、ハードコア・パンクに通じるものを感じるんです。例えばピアノの音でも、空間系エフェクトで飾り立てるとかではなく、もう少し素朴でイノセントに表現しているというか。そのエモーションの度合いや音の質感に引かれました。あと世代的に、ローファイ・ハウスから影響された部分もあったと思います。和声やリズムをメインに音楽を聴いていたのが、一気に“音色”を意識するようになったというか。例えば同じ“ド”の音でも、どういう音色でドを出すか、みたいな視点です。ただ、ローファイ・ハウスは往々にしてコンプレッションが強く、リズムのアタックがなまっているため、クラブで聴くと踊りにくい……だから同様のイナタさを持ちつつもダンス・ミュージックとして機能的な90'sのハウスなどが自分にはしっくりくるんですよね。
海外レーベルからのリリースについて
2015年ごろにウィルというイギリスのDJ(編注:DJネームはWager)から連絡があり、僕がSoundCloudに公開していた曲を彼のメディアで紹介したいと言われたんです。その後、ウィルがScuffed Recordingsを立ち上げる際に作品リリースのオファーをもらったので、作っていたものを提供しました。当初は大きなレーベルにデモを送ることもありましたが、その戦法じゃダメだと分かってきて。規模の大きくないレーベルからでもリリースを重ねて多くの人に名前を見てもらうとか、営業っぽい関係構築ではなく、ちゃんと友人同士になるとか、そういう関係性や信頼性を築かないとなかなかシーンに入っていけないなと。だからトップ・レーベルにデモを送るようなことはしなくなって、もう少し新興のレーベル……まだファンは多くないけどハイクオリティな作品をリリースしていたり、“今っぽい音”というのを心得ているところにアプローチし始めました。そういうレーベルを見付けられたのは、自身がDJとして日々、新しい音楽を探しているからだと思います。
“音楽は自由”とは言えマナーもある。それが顕著なのはベース・ラインの音域
現在の制作環境
バンド時代はSTEINBERG Cubaseを使ってレコーディング・ベースで制作していたのですが、トラック・メイクを始めるにあたって周りのプロデューサーに質問したり、ネット上でTipsを集める中でABLETON Liveのユーザーが多いことに気付きました。分からないことがあったら知り合いに聞けるというのが大きくて、ハウスを作り始めたころからLiveを使うようになったんです。最近、アナログ・シンセのKORG Minilogue XDを買いましたが、リリース済みの曲は全部イン・ザ・ボックスで作っています。ドラムはSpliceやサンプル・パックの音、Liveの付属素材などで組み立てていて、ベースはシンセ系の音をLENNARDIGITAL Sylenth 1、生音っぽいサウンドをU-HE Divaで鳴らしたり。上モノに関しては、LiveのシンセWavetableを最近よく使います。適当に音作りしてもまとまりやすいし、あまり過剰にならない感じが好みなんです。僕がやっている音楽は“斬新な音色”とかよりも、なじみのある音で新しいスタイルを作るジャンルだと思うので。
モニター環境
以前はSENNHEISERのヘッドフォンHD 25-1 IIをメインにモニターしていましたが、環境を整えようと思い、ADAM AUDIO T5Vを買いました。周囲のUKガラージ・プロデューサーにもユーザーが多い機種なので、これを基準に作っておけば問題無いだろうというのがあったんです。あとYAMAHAのサブウーファーYST-SW010を1台、追加しています。あると無いでは全然違いますね。以前は、定期パーティを開催している京都のWest Harlemで曲の鳴りを確かめていたんですが、YST-SW010での低音モニタリングをかなりつかめたので、最近はやらなくなりました。。出力の大きなサブウーファーなので、自宅では最大音量の10%くらいしか出せないものの、十分に低域が見えますね。
低域作りのポイント
気を配っているのは、ベースのフレーズの作り方です。最も低い音が44Hz辺り……LiveのMIDIノートで言うとF0辺りになるようパターンを組んでいます。F0を選んだのは、どんなハコでもよく鳴る印象があったからで、それより下の帯域になるとものすごくローエンドまで出るところで鳴らしても、あまり腰にこないんです。周波数が低いかどうかではなく“低く感じるかどうか”がポイントだと思うので、最も低く感じられて大きなインパクトを持つのがF0という気がします。でもずっとF0を鳴らしていると低く感じられなくなるから、基本的にはC1前後でパターンを組み、特定のタイミングでF0をドーンと鳴らすという感じです。“音楽は自由”とは言え、ジャンルごとに“どの辺りの音域でベースを作る”というのにはある程度のマナーがあると思うので、それを知るためにリファレンスの曲を周波数アナライザーに通してチェックしたりもしますね。
今後の展望
今、NC4Kではアナログ・レコードのラインを準備しているんです。レコードを世界流通でコンスタントに売って、海外の有力レーベルと勝負したいですね。“日本に居てもイギリスに居ても、できることは同じ”という状態にしていきたいし、日本に居ながらイギリスなどと同じフォーマットやディストリビューションをもって活動できたら、海外から日本のクラブ・ミュージックに興味を持って遊びに来てくれる人も増えると思うんです。なので僕自身にはロンドンやベルリンに移住するって発想は無くて、日本から発信することに意味を感じています。
Stones Taroを形成する3枚
『American Football』
American Football
(Polyvinyl Records)
「90's半ばのエモの名盤で、ハードコアをやっていた学生時代に出会って何度も聴き返している一枚。分かりやすい形ではないにせよ、確実に影響を受けています」
『The Compilation』
V.A.
(Nervous Records)
「DJピエールやトッド・テリーなどNYハウスの要人が数多く参加したNervous RecordsのコンピレーションCD。ストリートっぽい格好良さを強く感じる一枚です」
『Is This Real』
Sunship
(Filter)
「UKガラージの名盤。ハイクオリティなポップさとガラージのビートが見事に融合していて、ドラムの音色チョイス、スネアの位置、グルーブなど参考にしています」
Stones TaroのNo.1プロデューサー:Soichi Terada
国内ハウスの草創期から活躍する伝説的なプロデューサーです。主宰するFar East Recordingからの作品、香港KLASSE WRECKSより再発されたSUMO JUNGLE名義のジャングル、僕が小学生のころハマったゲーム『サルゲッチュ』への提供曲、そしてこの12月に発売されたアルバムなど、ジャンルとシーンと時代の3つを横断する稀有な存在だと思います。フロアに2〜3人しか居ないような時期の僕らのDJで踊ってくださったこともあり、根っからの音楽好きなんだろうなと。寺田さんのような音楽人になりたいです。