今回登場するのは、東京を拠点とするビート・メイカー/DJのSam is Ohm。倖田來未「Hush」のリミックスをはじめ、KEN THE 390やZEN-LA-ROCKなどへ楽曲提供するなど、ヒップホップからR&Bまで幅広く手掛けている。今年7月には4人組ユニットB-Lovedのメンバーとして、デジタル・シングル「FURIN」を発表。本作では曲制作のほか、レコーディングやミックスも担当するSam is Ohmに、音作りのこだわりなどを聞いてみよう。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki
より存在感とアナログ感を出したいときは、SSL Sixのバス・コンプに通します
モニター環境
制作時はニアフィールド・モニターのADAM AUDIO A7Xを、ミックス時はSOUNDWARRIOR SW-HP10Sという国産の密閉型ヘッドフォンを使用しています。SONY MDR-CD900STと比べると、より耳に痛くない高域を再現しつつ、程良い解像度を併せ持つような印象です。一般コンシューマー向けヘッドフォンに近い鳴りもするので、最終的なサウンドをイメージしながらミックスすることができます。信号はオーディオI/OのANTELOPE AUDIO Discrete 4 Synergy Coreから、コンパクト・アナログ・ミキサーのSSL Sixを経由してA7Xに出力されるようになっていますが、SW-HP10SはDiscrete 4 Synergy Coreから直でモニターしていますね。またA7Xのスタンドの下には御影石を敷いているんです。こうすることで、音の立ち上がりが速くなった感じがします。今の環境で改善できそうなことは、すべてやっておきたいんです。
曲作りで気を付けていること
内声の響きを大事にしているので、一度PRESONUS Studio Oneで曲のコードやメロディなどをMIDIデータにして確認するようにしています。まずはこの段階で良い響きをしっかり作れていないと、個人的には音楽としてのクオリティが低くなると考えているからです。たとえオーディオ・サンプルを使っていたとしても、一度MIDIデータにしてチェックしていますね。ちなみにビート・メイキングの手順は毎回バラバラで、基本的には曲のモチーフとなる部分から始めます。
ドラムとベースに使用する音源
ドラムは、WebサービスのSpliceからイメージに近いサンプルをひたすら探します。ダウンロードしたサンプルは、直でプロジェクト画面に張り付け。その理由は視覚的に作業しやすいからです。最終的に各ドラム・パーツのタイミングを微妙にずらして調整するときに、この方が目視できるので分かりやすいんですよ。ベースのソフト音源はFUTURE AUDIO WORKSHOP SubLab、SPECTRASONICS Trilian、ARTURIA Minimoog V Originalがトップ3。ヒップポップ/トラップ・ミュージックならやっぱりSubLabが一番使い勝手が良く、サブベースとしても使えます。普通に弦が欲しいときはTrilianで、シンベだとMinimoog V Originalですね。より存在感とアナログ感をサウンドに出したいときは、Sixのバス・コンプに通します。こうすると、トラックによくなじむようになるのでお勧めです。
上モノに使用するソフト音源
基本はソフト・シンセのXFER RECORDS Serumで、場合によってはSpliceのサンプルも使います。サンプルはMIDIデータに変換してSerumで鳴らしたり、サンプルとSerumの音をレイヤーしたりすることもありますね。解像度の高いSerumとレイヤーすることによって、サンプルが持つオーディオ臭さを解消するという狙いもあるんです。あとはSPECTRASONICS Omnisphere 2、ARTURIAのバンドル製品V Collection、IZOTOPE Iris 2など。Iris 2はシンセ・パッドやFXサウンドが作りやすいですね。RHODES系の音色なら、PREMIER SOUND FACTORY Suitcase Premier Gが最強だと思います。ほかのブランドの音源はオケに埋もれがちなのですが、Suitcase Premier Gはそうではありません。オケに埋もれず、しかも自然なサウンドで鳴らせるのは僕の知る限りこれだけですね。
解像度の高い音源を選ぶことや、プラグインの挿し過ぎに気を付けることが大事
高密度な音へのこだわり
自分の目指すサウンドは海外寄りのものを目指しているのですが、こういったサウンドは高密度な音を使うことによって近付けるという認識しています。一つ一つの音を高密度にするためには、やはり音源を選ぶことが大切です。いかにコード・ワークやメロディ・ラインが奇麗だとしても、音自体がスカスカだと自分の好みではありません。なので、先ほど述べたようなソフト音源を厳選して使っているんです。
ジェイムス・ブレイクのサブベース
衝撃を受けたのが、ジェイムス・ブレイクのサブベース。20〜30Hz辺りのローエンドをトレモロで細かく揺らしているんです。なんとなく聴いていると気になったのでアナライザーで確認したら、やっぱりそうだったんですね。それからは、自分もそういった部分までしっかりと作り込もうと思いました。ローエンドの処理の仕方は海外だと全然違うな、というのを感じます。アナライザーは、Studio One付属プラグインのSpectrum Meterをよく使っていますね。
ミックスのこだわり
意識しているのは、プラグイン・エフェクトを挿し過ぎないということ。その理由は、挿せば挿すほど解像度が下がると考えているからです。なので基本はボリューム・フェーダーの上げ下げやパンニングで調整しています。なるべく素材の音を、そのまま生かすようなミックスを心掛けているんです。レコーディングでは良い音で録ることはもちろん重要ですが、ソフト音源が主流の現代では、既にお話ししたような解像度の高い音源を選ぶことや、プラグイン・エフェクトの挿し過ぎに気を付けることが大事だと考えています。お気に入りは、プラグイン・コンプのWAVES MV2。自然に音を大きくできるので、どのパートにも使っちゃいますね。
ビート・メイキングのポリシー
“ノリで始めてノリで終わらない”ということ。いつもノリでビート・メイキングを始めるんですが、絶対に“これでいいや”っていう妥協ポイントを作らないようにしているんです。例えば内声の響きだったり、ドラム・パーツのチューニングだったり、ピッチ補正ソフトのCELEMONY MelodyneとANTARES Auto-Tuneの使い分け方だったり……とにかく細かいところまで妥協せずに仕上げるということを意識しています。最後はきっちり詰めてから終わるということです。
MelodyneとAuto-Tuneの使い分け
Melodyneは、なんと言っても使いやすいので仕事が速いです。しかし、若干ナチュラルさに欠けた質感になる印象ですね。一方、Auto-Tuneは効き具合が自然。ですので両者の使い分けに関しては、結構意識しています。
今後の展望
自分が音楽に目覚めたきっかけは洋楽のR&Bだったので、海外サウンドに負けない楽曲を自分でも作りたいです。あと、ずっと前から“サンレコに出たい”と考えていたんですが、今回夢が叶ってうれしいですね。熱意を持って音楽をやっていれば、いつか結果は絶対に付いてくると信じているので、読者の皆さんと一緒に、これからも頑張っていきたいなと思っています。
Sam is Ohmを形成する3枚
『アナザー・レヴェル』
ブラックストリート
(ユニバーサル)
「1990年代R&Bの名盤の一つ。初めてこのアルバムを聴いたとき、“なんでこんなに音数が少ないのに格好良いの? 俺も作りたい!”と衝撃を受けたことを覚えています」
『Galaxy 2 Galaxy A Hi-Tech Jazz Compilation』
ギャラクシー・トゥ・ギャラクシー
(Underground Resistanceほか)
「歌詞の無いインストゥルメンタルなダンス・ミュージックでも、リスナーを感動させることができるんだ!と気付かされた一枚」
『月の光 Ultimate Edition』
冨田勲
(日本コロムビア)
「まだシンセが一般的に普及していない時代に、実験的ではなく普遍的な楽曲を発表したところに感動。自分も普遍的かつ新しい音を意識して制作するようになりました」
Sam is OhmのNo.1プロデューサー
マイク・ウィル・メイド・イット
— MADE-IT (@MikeWiLLMadeIt) May 27, 2021
マイク・ウィル・メイド・イットのTwitterより
トラップ・ミュージックを代表するアトランタ出身のヒップホップ・プロデューサー/ラッパーで、これまでにカニエ・ウェストやドレイク、リル・ウェインなど数多くのビッグ・ネームの楽曲を手掛けています。彼の傑作中の傑作は、ケンドリック・ラマーの『ダム』。これまでのケンドリック・サウンドとは違う方向性を提示し、アーティストの新たな一面を開花させました。そんなマイクの高いプロデュース能力を見習いたいです。
Sam is Ohm
【Profile】新潟県出身のDJ/音楽プロデューサーで、4人組ユニットB-Lovedのメンバー。10代はダンサーとして活動し、その後ビート・メイキングを始める。KEN THE 390やZEN-LA-ROCKなどの楽曲のほか、テレビCMやファッション・ショーのBGMなども制作している。
【Release】
『FURIN』
B-Loved
(スペースシャワー)
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