R&Bやヒップホップ、ダンス・ミュージックまで幅広くカバーするマルチクリエイター、T-SK。繊細な旋律と迫力のあるビートを武器に、安室奈美恵「Love Story」や三浦大知「IT’S THE RIGHT TIME」など数々の人気曲を手掛けている。今回は、彼のプライベート・スタジオで話を聞いた。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki
演奏表現にこだわり
単純なフレーズを生き生きとしたサウンドにする
キャリアのスタート
3〜4歳のころ、姉がピアノを習っていたので自分も始めました。クラシックがあまり好きではなかったようで、3年くらい続けて辞めたのですが、この期間に先生が音感トレーニングをしてくれていたため、現在でもある程度の音感が残っています。作曲に興味を持ったのは中学生のころに、ASAYANというテレビ番組に小室哲哉さんが出演している映像を見たのがきっかけ。それ以来、家にあったピアノで弾き語りをはじめ、テープ・レコーダーでカセット録音したりしていました。当時はhideやGLAY、LUNA SEAなどが人気で、同級生たちとバンドも組みましたね。初めてやったカバーは、ミスター・ビッグの「トゥー・ビー・ウィズ・ユー」。シンセサイザーはYAMAHA EOSシリーズやKORG Trinityなどを使っていました。ビート・メイクをはじめたのは、高校で現在R&Bシンガーとして活躍するCIMBAと出会ったのが大きな理由です。彼はヒップホップやR&Bが好きだったので、そういう音楽を一緒にやろうという話になったんですよ。
機材の変遷
最初のころはAPPLE Power Mac G5に、MOTU Digital Performerをインストールしていました。オーディオI/OはMOTU 828MK2、モニターはM-AUDIOのスピーカー、そのほかワークステーション・シンセのROLAND Fantomや音源モジュールのYAMAHA Motif-Rackなども持っていましたね。
モニター環境
近年、作業は日中に行うことが多いのですが、家全体が振動するくらいの爆音で制作しています(笑)。室内で音が反射するのでじゅうたんを敷いたところ、ちょうど良い部屋鳴りになったので吸音材は設置していません。これまで何度か防音設備が整ったスタジオを作ろうとも考えたのですが、今の環境で十分作業できているためその必要はまだ無さそうです。メイン・モニターはFOCAL Shape 50で、バランスがとても良い印象。以前はADAM AUDIO A3Xを使っていましたが、それと比べて音が柔らかい感じがして好きですね。
ビート・メイクのこだわり
演奏表現です。自分はピアノが弾けるのが強みなので、特にピアノをMIDIキーボードで打ち込む際は感情が伝わるような演奏を心掛けます。一つ一つのノートの長さやタイミング、強弱などを意識することで、単純なフレーズを生き生きとしたものにすることができるのです。良いフレーズなのに“弾き方がもったいないな”とならないよう気を付けています。
ドラムやベースに使用するソフト音源
基本的にドラムは、WebサービスのSpliceなどからダウンロードしたサンプルをPRESONUS Studio One付属のソフト・サンプラーImpact XTに読み込ませてパターンを構築します。場合によっては、キックに特化したソフト音源のD16 GROUP Punchboxや、SONIC ACADEMY Kick 2も使いますね。これらは微調整ができるのも魅力的ですが、とにかく太い音が出せるところが一番のポイントです。シンセ・ベースはSPECTRASONICSのOmnisphereで、サイン波を軸としたサブベースのサウンドがめちゃくちゃ好きですね。MOOG系の音色が欲しいときはSYNAPSE AUDIO The Legend。これも音が太いので最高です。実機との比較動画を見ましたが、ほとんど差が見られませんでした。
上モノに使っているソフト音源
上モノは音楽ジャンルにもよりますが、一時期ハマってたのがINITIAL AUDIO Heat Up 3。海外のトラップ系プロデューサーが多く使っているので導入しました。プリセットが充実しているのが好印象で、自分は浮遊感のあるシンセ・パッドやプラック・シンセなどによく用います。ヒップホップ、トラップ、R&Bなどで使える音色が多いので、そういったジャンルを手掛ける音楽クリエイターにお薦めです。あと、アコギにはPETTINHOUSE AcousticGuitarを10年くらい愛用しています。たまたま見つけたソフト音源だったのですが、ほかの作家さんたちから“T-SKのアコギ良い音だよね”と言われることが多く、これは掘り出し物でした。とても良い音がするので、ぜひ試してみてほしいです。
自分が音楽を始めたころと比べて
現代はチャンスの幅が広がっている
お気に入りプラグイン・エフェクト
最近ハマっているのは、EQやフィルター、リバーブ、コーラス、フランジャーなどさまざまな効果を一度に施せるマルチエフェクト・プラグイン、KYLE BEATS Dripです。いろいろなYouTube動画でも“Dripを挿しておけばOK”と話題になっており、気になって購入してみました。20種類のプリセットからどれか1つを選び、画面中央に並んだ4つのノブ“SHAPE/HEAT/SPICE/DEPTH”で微調整するだけで、“今っぽい”雰囲気のあるサウンドにすることができます。ワークフローはとても簡単なので、ストレスフリーで使えるプラグインです。インスピレーションが浮かばないときに、Dripのプリセットを試してみるのもよいかもしれませんね。自分はこのDripをソフト・サンプラーのOUTPUT Arcadeに挿して使ったり、オケ中で音を後ろの方に配置したいときに用いています。
最新作について
11月にシングル『Diamond Dance(T-SK Piano Self Cover Ver.)』をリリースしました。もともと三代目J SOUL BROTHERSのRYUJI IMAICHIに提供した楽曲で、今回あらためて自分でピアノ・カバーをやってみたのです。YouTubeで一般の方が自由にカバーを作って投稿しているのを見て、自分も何かクリエイティブなことができれば良いなと思ったのがきっかけですね。細かいニュアンスまでこだわった楽譜もあるので、ピアノが弾ける方はぜひ楽しんでもらえるとうれしいです。この曲をいろいろな形で皆さんと共有できればと思います。
これから音楽制作を始める人たちへのアドバイス
これまでメジャー・アーティストの楽曲がメインだった国内の音楽シーンですが、SNSやストリーミング配信がより活発になってきたためか、名も無いインディーズ・アーティストの作品がいきなりランキングに入ることも増えたように感じています。極端に言えば、実績のあり/無しにかかわらず“曲が良ければOK”という時代。このことは、自分が音楽を始めたころと比べるとチャンスの幅が広がっていると言えます。制作に関する機材やプラグインもものすごく進化しているので、これから音楽制作する方はよりクリエイティブな部分にフォーカスすれば、明るい未来が待っているかもしれません。あと、より良い機材を買ったり必要な知識を勉強するなどして、なるべく自分に投資するのも効果的。自分に投資すればするほど、振り返ったときに自分の成長を実感できます。他人と自分を比べるのではなく、過去と現在において“自分自身がどれだけ成長したか”を意識することが上達の秘けつだと思いますね。
T-SKを形成する3枚
「R&Bにハマるきっかけになった一枚。このアルバムに出会わなければ、今の自分の音楽スタイルは、またほかのものになっていたかもしれません」
「たくさん聴いた音源の一つ。このアルバムはどちらかと言えば打ち込みではなく、ギターなどの生楽器が多く使われています。当時はそこに引かれたのだと思いますね」
「全曲プロデュースした作品。これまでCIMBAの曲は100以上作ってきました。アルバム全体を手掛けることは、幅広い音楽スタイルを身に付けるのにも役立ちます」
T-SKのNo.1プロデューサー
アンダードッグス
アンダードッグスは、ハーベイ・メイソンJr.とデーモン・トーマスからなるR&Bプロデューサー・デュオ。タイリースをはじめ、クリス・ブラウンやオマリオンなどの楽曲を手掛けています。音楽を始めたころは、アルバムのクレジット欄に彼らの名前があると、必ずと言っていいほど購入し、研究していました。エレピを軸とした曲を作るときは、確実に彼らの影響を受けていると思います。
T-SK
【Profile】R&B/ヒップホップ/トラップ/ポップス/EDM/ロックなど、さまざまな音楽ジャンルの制作を行うマルチクリエイター。安室奈美恵や三浦大知、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、JUJU、倖田來未、DA PUMP、東方神起、BoAなどの楽曲を手掛けている。
【Release】