【Profile】グローバル版Spotifyのプレイリスト“New Music Friday”へのピックアップを機にブレイクした3人組ヒップホップ・クルーCIRRRCLEのプロデューサー/DJ。近年ではChara+YUKIやSIRUP、FLEURなどへの楽曲提供/リミックスも行っている。
『BESTY』
CIRRRCLE
(Suppage Records/SPACE SHOWER MUSIC)
東京とロサンゼルスを拠点に活動する、3人組ヒップホップ・クルーCIRRRCLE。2019年には“Red Bull Music Festival Tokyo and 88rising present: Japan Rising”への出演を果たし、近年ますます注目を浴びている。グループのビート・メイカー=A.G.Oは、ヒップホップやトラップのビートに、ファンキーかつブルージーなギターやシンセの上モノが展開するサウンドを得意としている。今回は、そんな彼へのインタビューをお届けしよう。
Soulectionの音楽に衝撃を受けて
ビート・メイカーになろうと思った
■キャリアのスタート
音楽を始めたのは、中学2年生のころ。学園祭がきっかけでロック・バンドを組むことになり、ギターを買ったんです。もっとうまくなりたいと思って『ギター・マガジン』を読み、ブルースやファンク、ハードロックなどの音楽ジャンルにもチャレンジしました。しかし、大学1年目の学園祭でダンスに魅了されてからは、4年間ダンスに明け暮れる生活になりましたね(笑)。卒業後は、仕事の傍らファンクや90'sヒップホップのDJをやっていました。ビート・メイカーになろうと思ったのは2013年辺り。SoundCloudで曲をディグっていたら、たまたまSoulectionの音楽に出会ったんです。Soulectionは、ロサンゼルスを中心とするプロデューサーやDJたちが立ち上げたコレクティブ/音楽レーベルなんですが、彼らが手掛けたゴールドリンクのアルバム『The God Complex』を聴いて“めちゃくちゃ音が格好良い!”と衝撃を受けました。それから一気に音楽制作に関するソフトや機材を買い、YouTubeを見てビート・メイクを勉強し始めたんです。
■ターニング・ポイント
2016年の秋に、アンダーソン・パークが初来日したのでコンサートを見に行きました。そこで友人からAmiide(vo、rap)を紹介され、お互い音楽の趣味が合ったので仲良くなったんです。そしたら、彼女がSoundCloudに上げていた自分のインストゥルメンタル・トラックに歌を乗せてくれて、それがとても良くて驚きました。その後、Amiideの友人であるJyodan(rap)もそこにラップで参加し、それから3人で曲を作っては音楽配信サービスのTuneCore Japanを通じてリリースをするようになったんです。最初にCIRRRCLEが世の中に大きく知られるようになったきっかけは、2018年に「Fast Car」という曲がグローバル版Spotifyの“New Music Friday”というプレイリストにいきなり載ったこと。そこから一気に注目され始め、現在に至ります。
■機材の変遷
バンドを始めたときは、FENDER Stratocasterにギター・アンプはMARSHALL、エフェクト・ペダルはBOSSという感じです。ちなみにオリジナル曲は、8trデジタルMTRのBOSS BR-600で録っていました。ビート・メイカーを目指したときに買ったのは、オーディオI/OのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Audio 6、ビート・メイク用のNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK2、モニター・スピーカーのYAMAHA MSP5 Studioです。DAWはABLETON Liveで、割と早く使えるようになりました。
■モニター環境
スタジオは半地下物件で窓は二重なので、昼夜問わず音漏れは心配ありません。メイン・モニターはYAMAHA HS7で、サブウーファーのYAMAHA HS8Sも使っています。購入したきっかけは、ロサンゼルスに住むあるプロデューサーに、“HS7で格好良く鳴らせないなら、どのスピーカーで聴いてもだめだ”と言われたから。ときどき開放型ヘッドフォンのSENNHEISER HD650でモニタリングもします。外で音楽を聴いたり作ったりするときは、インイア・モニターのSHURE SE846を使いますね。これは音が群を抜いて良いんです。
ビートとして成立するなら何でもあり
それがビート・メイクの面白いところ
■ビート・メイクのインスピレーション
アイディアが降ってきますね(笑)。めちゃめちゃいっぱい曲を聴くことが大事なんです。そうすると“そういえばあの曲のあの音良かったな”ということを、寝る前や入浴中によく思い出すので、そこから曲に発展させていきます。
■CIRRRCLEにおける曲作りの手順
大きく分けて2つあります。僕が作ったビートをAmiideとJyodanに送るパターンと、彼らが適当なビートに乗せて録音した歌やラップを受け取り、それらを元に僕が曲に発展させていく手法です。どちらかというと後者はリミックスみたいな感じ。既に歌詞があるので、いろいろなアイディアが湧きます。
■ビート・メイクの醍醐味
音作りが自由なところ。例えばドラムをやっていた人だと、まずドラム・セットを前提にしてパターンを考えると思いますが、そもそもビート・メイクではその観念がありません。ドラム・キットの中に、ノイズや変な音が入っていてもビートとして成立すれば問題無いので、自由な発想でビートが作れるんです。ここがビート・メイクをやっていて一番面白いところですね。
■サンプル選びのコツ
基本的にドラムとサブベースには、サンプルを使います。キックのサンプル選びの際によくやるのは、サブウーファーに手をかざすこと。空気の振動を手のひらで感じることで、ローエンドがどのくらい出ているかどうかを“体感”で確認するんです。EQの周波数特性グラフを見るのもいいですが、体感も参考になります。サンプルはWebサービスのSpliceのほかに、自動マスタリングWebサービスで有名な、LANDRが手掛けるサンプル・パックもハイクオリティなのでお薦めです。
■使用ソフト音源とプラグイン
SPECTRASONICS TrilianやOmnisphere 2を、生ベースやシンセ・ベースに使います。また、パッド・シンセにはNATIVE INSTRUMENTS Massive、リード・シンセにはXFER RECORDS Serumを用いますね。リバース・サウンドを収録したソフト音源OUTPUT Revは、非常にインスピレーションを与えてくれるので好きです。ブラスやストリングスは、NATIVE INSTRUMENTS Kompleteでばっちりですね。ミックスでよく使用するプラグインは、ステレオ・イメージャーのIZOTOPE OzoneのImager。扱いやすく、ふわっと空間を広げてくれるので、上モノやマスター・チャンネルに挿しています。
■サブベースのこだわり
サブベースにおける音作りの鍵はサチュレーションです。これを施すことによって倍音が持ち上がるので、APPLE iPhoneのスピーカーや付属イヤホンでもしっかりサブベースが聴こえます。またEQでは、サブベースのローエンドを生かしたいのでキックの40Hz辺りにローカットを入れることが多いです。
■グルーブの秘けつ
キックとスネアはジャスト、ハイハットや上モノはヨレヨレに打ち込むのがポイント。あとは、ラップと一緒に聴いて微調整を行います。元ダンサーだっただけに、グルーブ感は最もこだわる中の一つです。皆の体が自然に動き出すようなビートを作ることが、僕のモットーなんですよ。
■今後の展望
CIRRRCLEの活動はもちろん、個人としては国内外問わずさまざまな人たちとコラボレーションしていきたいです。
A.G.Oを形成する3枚
『The God Complex』
ゴールドリンク
(Squaaash Club)
「Soulectionの名だたるメンバーが、プロデュースで参加している作品。フューチャー・ビートとゴールドリンクのバウンシーなフロウが、当時はとても新鮮に感じました」
『blkswn』
スミノ
(Zero Fatigue LLC/Downtown)
「チャンス・ザ・ラッパーなどシカゴのヒップホップ・シーンが盛り上がる中、その良いところが凝縮されたような一枚。サンプルの使い方やリズムの作り方が自由なんです」
『Good Love EP』
ブラストラックス
(Brasstracks)
「飽和気味だった当時のフューチャー・ベースに、エモいブラスを組み込んだサウンドが斬新でした。ホーン・セクションのアレンジにおいて、影響を受けています」
自分のNo.1プロデューサー
ルイ・ラスティック
Twitterより:https://twitter.com/louielastic
マルーン5やゴールドリンクをはじめ、ザヴィエル・オマー、ヴァンジェスなどの楽曲を手掛けるプロデューサー。彼の作風は、ファンクやディスコよりのテンポ感の中に、J・ディラ的なグルーブが垣間見えるのが特徴的です。そして、そこに乗る近未来感漂うシンセ・アレンジも素晴らしいですね。2015年にリリースされたソロ・アルバム『Soulection White Label: 015』では、とても自由なリズム感を持つビートが展開されていますが、ノれること間違いなしなので、ぜひ聴いてみてください!