自分のアイデンティティを見つけ出せれば君が望むシーンで有名になれる
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、ニューヨークはブルックリンを拠点に活動するプロデューサー/ビート・メイカーのメルトンだ。メロウでローファイなヒップホップを得意とし、ラッパーの楽曲からインスト・トラックまで幅広く手掛けている。
Interview:Keiko Tsukada Photo:Omi Tanaka
キャリアのスタート
きっかけは、中学生のときに両親が買ってくれたコンピューターに付属するシーケンサー・ソフト。興味があって遊んでいたら、クラスメイトがIMAGE-LINE Fruity Loops(現在のFL Studio)のことを教えてくれたんだ。音楽制作を本格的に始めたのは2009年で、大学生のとき。ニューヨークにあるヒップ・ホップ専門のレコード・ショップ、ファット・ビーツで働いていた店員たちがラップ・グループを結成し、彼らのためにビートを作るようになった。それからは彼らのソロ・プロジェクトでもビートを提供したし、インスト作品もやったね。
機材の変遷
最初に手に入れたのは、16個のパッドが付いたAKAI PROFESSIONALのコントローラーとターンテーブルだった。現在のメイン機材は、リズム・マシンのELEKTRON Digitakt。ABLETON Liveで作ったドラム・サンプルをこれでアレンジすることもある。MODAL ELECTRONICS Skulptsynth SEは、サウンド・デザインの理解を助けてくれるシンセだね。コントローラーはARTURIA KeyStep 37を使っているよ。
尊敬するビート・メイカー/プロデューサー
DJプレミア、ピート・ロック、J・ディラ、マッドリブ……特にマッドリブについては語っても語り切れないくらいだよ。僕が聴いた中で、彼は最もクリエイティブなビート・メイカーだ。
お気に入りのプラグイン
僕はARTURIAの大ファンで、V Collectionをよく使っている。ビンテージ・シンセのサウンドが好きなんだ。ソフト・シンセのARTURIA Pigmentsはプリセットが豊富で素晴らしいね。そしてテープ・シミュレーターのARTURIA Tape Mello-Fiは、ローファイ・サウンドを作るのに最適だ。それからIZOTOPEのプラグインも持っている。ボーカル・プロセッサーのNectarは、各トラックからマスターまで活用しているよ。
ビート・メイキングの手順
僕はKeyStep 37をDigitaktにつなげて、DigitaktはLiveを立ち上げたラップトップに接続している。ELEKTRON Overbridgeというソフトを使うことで、DigitaktをVSTプラグインとしてLive上でも操作できるようになるんだ。ビート・メイキングのほとんどは、レコードをかけて“面白い”と思う部分をDigitaktでサンプリングするところから始まる。それからDigitakt上でドラム・パターンとパーカッションの制作に取り掛かり、必要なサウンドがあればそこに足していく。最終的には、全パートをLiveに録音してミックスするんだ。必要であればベースも演奏するよ。
ビート・メイキングで気を付けていること
ヘビーかつローエンドまで伸びた迫力のあるキック……もちろん音割れには注意しないとね(笑)。全体的なサウンドとしては、どちらかというと少しローファイな感じのテイストが好きなんだ。僕はリスナーが温かい気持ちになったり、散歩しながら聴きたいと思うような音楽を作りたいと思っている。音楽制作の過程で大切なのは、新しいことを発見したり、試したりすること。例えばサンプリングするなら、今まで誰も使ったことのないネタを使ってみるんだ。
読者へのメッセージ
かつてないほど、今は音楽制作が簡単にできるようになった。スマホにアプリをインストールすれば、サンプリングからビート・メイキングまですぐに始められる……これはすごいことだよね。最高の時代だよ。そんな中で重要になってくるのが“自分らしさ”だ。自分のアイデンティティを見つけ出せれば、君が望む音楽シーンで有名になることができる。リスナーは君のアイデンティティに集まってくるのだから。
SELECTED WORK
『Select Screen』
メルトン
(Brooklyn Audio Research)
基本的にはサンプリングを中心とした制作手法だったんだけど、この作品からシンセを取り入れたんだ。また、ミックスもエンジニアに頼らず、自分で行った最初のアルバムだね。