シンガー・ソングライター/トラック・メイカー/シンセ奏者のAAAMYYYが2ndアルバム『Annihilation』をリリースした。TENDREやTondenhey(ODD Foot Works)、荘子it(Dos Monos)などゲストを招いた本作は、R&Bベース/ロック・ギター、エレクトロ/ヒップホップなど、異素材ながら隔たりを感じさせないコラージュが楽しい一枚。今回は彼女が新しく設えたプライベート・スタジオで、本作の制作について尋ねた。
Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
インタビュー前編はこちら:
エグい音が作れるシンセ、SEQUENTIAL Prophet-6
ー多くのシンセをお持ちですよね。例えば、音場全体に鳴っていてぼやけてはいるけれど、LFOで一定の周期の揺らぎがあるため輪郭は奇麗に見えるような音像とかだと、どのシンセを使って作ることが多いですか?
AAAMYYY そういう音は割と作るかもしれないです。私が持っているシンセだと、KORG Prologueにはそういった傾向の音色が多い気がします。あまり太くはないけれど、高音域に割と浮遊感があるんです。モダンな宇宙系の楽曲でよく見られる、フワッとしたシンセとかが欲しいときに便利です。KORG Minilogueをずっと使っていたので、お兄ちゃん的な位置付けで使いやすいんです。Prologueにはコンプなど内蔵エフェクトが多く搭載されていることと、ダンパー・ペダルも接続できるので、パッド系の音色が作りやすいなと思います。
ーあと「Elsewhere」で聴けるようなシンセ・リードはフィルターが閉じているのに、ひずみのアグレッシブさがかなり聴こえてくるのが印象的です。
AAAMYYY こういった音の場合は、SEQUENTIAL Prophet-6のMIXERセクションにあるNOISEツマミとDISTORTツマミの量をバランスよく調整して好きな音色を探しています。Prophet-6はディストーションがかなりふくよかな響きなのがポイントです。ローパス・フィルターもProphet-6内蔵のものを通しています。私のラフ・ミックスの段階では、実機のシンセの音作りについて、シンセ内蔵のエフェクトで完結させている場合がほとんどです。
ーお持ちの実機のシンセで、一番気に入っているものは何ですか?
AAAMYYY Prophet-6ですね。以前はモジュールの方を持っていましたが、ライブで使いたくなったので鍵盤の付いている方を購入しました。良い意味でも悪い意味でも音が太くて個性的なので、何にでも使えるというわけではないんですけど……オシレーターの音がとても良いのでエグいサウンドが作れます。ツマミが厳選されているので、音作りがしやすいです。指を離したときに作用するアフター・タッチの調整や、付加できる揺らぎの質感はProphet-6ならではだと思います。フィルターもいじりやすくて内蔵エフェクトもかなり豊富なので、これ一台でかなりいろいろな音が作れます。
ダブルっぽいボーカルは、WAVES CLA Vocalsで処理
ーボーカルのレコーディングはどのように?
AAAMYYY 楽器録音と同じタイミングで行っていて、エンジニアの小森(雅仁)さんとグレゴリ(ジェルメン)さんにお願いしました。恐らく全曲でNEUMANN U87を使っています。今のところ私の声に一番合っているマイクです。
ーそうして録音したデータはいったんAAAMYYYさんに渡されるのですか?
AAAMYYY 私がデータをもらうことはあまり無くて、そのままミックスしてもらうことがほとんどです。ボーカルにかけるリバーブやディレイはミックスの段階で“デモで作ったような感じに近付けて欲しい”という要望を小森さんやグレゴリさんに伝えました。実際にレコーディングでボーカルを重ねることもありますが、『Annihilation』はほとんどシングルで録っています。なので、ダブルっぽく聴こえる部分は、WAVES CLA Vocalsなどで処理してもらっています。デモでもよくやるのですが、Pitchのパラメーターを上げていくとダブルっぽくなってステレオ・ワイドに広がっていくんです。コンプがかかるので、ボーカルの発音や質感も一緒に上げることができます。便利なので、デモでは頻繁に使います。コーラスにはVALHALLA DSPのリバーブをよく使っています。ボーカル以外に使うリバーブ/ディレイでWAVES Abbey Road Chambersもよく使いますね。キックを持ち上げたいときはコンプのWAVES H-Comp、EQのScheps 73を使います。
ー歌い方について、『Annihilation』では強弱とか発音の響かせ方、発声での息遣いなどに至るまで『BODY』とは方向性が違うと感じました。
AAAMYYY 『BODY』は宅録重視であり、アルバムのコンセプトにも合わせてあまり抑揚の無い歌い方をあえてしているんです。というのも、当時は表現力に自信が無かったことが理由としてあります。でも、ライブにたくさん出演する中で、自分の歌の表現力はどんどん良い具合になってきている実感があったので、歌に顕著に現れているのではないかなと思います。『Annihilation』は人間味のあるものを作りたかったので、バンドの皆にもその相談をして制作していきました。自分の感情の高ぶりとか、そういったものを入れていくように作れたのがよかったんじゃないかなと思っています。
ーあらゆる面で、表現的な拡張を感じました。
AAAMYYY 私自身、新型コロナ前後ではさまざまなことの考え方が180度ぐらい変わって。その過去と今の感覚がせめぎ合っていることも、曲や詞として『Annihilation』に収められているんじゃないかなと思います。
インタビュー前編では、“DTM女子”のイメージから脱却し本格的なバンド・サウンドを取り入れたという本作のコンセプトや、多彩なゲストとのコラボについて聞きました。
Release
『Annihilation』
AAAMYYY
(ワーナーミュージック・ジャパン)
- Elsewhere
- 不思議
- Leeloo
- PARADOX
- 天狗(Ft.荘子it)
- FICTION
- Utopia
- TAKES TIME
- AFTER LIFE
- HOME
Musician:AAAMYYY(vo、syn、prog)、TENDRE(cho、b、syn)、Shin Sakiura(cho、g、prog)、荘子it(vo)、Tondenhey(cho、g)、加藤成順(g)、山本連(b)、澤村一平(ds)、石若駿(ds)、Margt(cho)、Cota Mori(cho)
Producer:AAAMYYY
Engineer:小森 雅仁、グレゴリ・ジェルメン
Studio:プライベート、他