80KIDZ インタビュー 〜5年ぶりのフル・アルバム『ANGLE』のプロダクションを語る

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今は自分で素材作りから始めるモチベーションだったり
音質よりも“納得のいく音像が作れたかどうか”が大切だと思う

ALI&(写真上)とJUN(同下)からなる2007年結成のエレクトロ・ユニット=80KIDZ。さまざまな国内外アーティストとの共演やリミックスを手掛け、2020年にはミックス・テープ・シリーズ『RAW WNDS MIXTAPE』を4作品デジタル配信とカセット・テープでリリースして話題を集めたばかり。そんな彼らが、約5年ぶりとなるフル・アルバム『ANGLE』を2月17日にリリース。満を持して発表された同作は、ローファイな音像のハウスからグルービーなヒップホップまで幅広い楽曲を収録し、ゲストにはmabanuaやYonYon、AAAMYYYなどが顔を連ねている。シーンの垣根を越えて活躍を続ける彼らに、同作のプロダクションについて詳しく伺った。

Text:Susumu Nakagawa

 

2018年辺りから作り貯めていたデモと
2020年に作ったデモから幾つかを選曲

ーフル・アルバムとしては、前作『5』から約5年ぶりのリリースですね。

JUN 当初は2018年くらいからアルバムのデモ制作を行っていたのですがなかなか形にならず、2020年の初めにもう一度仕切り直してアルバム制作を始めたんです。なので、『ANGLE』は2018年辺りから作り貯めていたデモと2020年にあらためて作ったデモから幾つかを選曲し、まとめ上げたという感じになります。制作期間は長くなったのですが、結構納得がいくものができたなという感じです。

 

ー『5』ではアップ・テンポな楽曲が多かったのに対し、本作ではヒップホップ系のビートやミドル・テンポで落ち着いた雰囲気の楽曲が増えたように思います。

JUN そうですね。これまでとは少し雰囲気を変えたり、近年の音像に変えたりなどはありました。

ALI& 作り始めた当初はトレンドの影響も受けていたのですが、3年近く時間がたつにつれて何となくそれを意識することが無くなってきたんです。その結果、自分としてはかなり80KIDZタッチの作品になったんじゃないかなと思います。

JUN 僕は世間のトレンドというよりも“自分の中のトレンド”というものがあって、2018年ごろはライブでギターを弾くような“ロックっぽいエレクトロ”を作ろうと思っていたんです。だけど、近年は状況も変わってDJイベントもあまりできないし、そういう気分でもないなと……。そんな背景もあった中で、今の時代や世間が求めるような楽曲をセレクトしたというのも結構あったのかなと思います。

 

ー楽曲もですが、フィーチャリング・アーティストもバラエティに富む内容になっていますね。

JUN そうなんです。3年前はつながっていない人たちとも近年ではつながれたりして。そういう意味では、『ANGLE』は今の状況でしか完成できなかったアルバムだと言えます。

 

どの参加アーティストたちからも
予想以上のサウンドが返ってきた

ー「Glasses」ではmabanuaさんが参加しています。

JUN 去年の自粛期間中、origami PRODUCTIONSさんが発表したリミックス企画“origami Home Sessions”に参加したのがきっかけです。以前から何か一緒にできたらいいなと思っていて、今回「Glasses」のトラックがハマりそうだったのでお願いしました。ボーカルとメロディはmabanuaさん、作詞は同じ事務所のHiro-a-keyさんとなっています。ボーカル・データを送ってもらい、こちらでミックスしたのですが、中身はメインとダブル、そこに高域/中域/低域のハモリが各2本ずつの計8trくらいで、パンニングなどもしっかりされた状態だったためミックスしやすかったですね。イメージが明確に伝わってきました。

ALI& すごいなと思ったのは、mabanuaさんやHiro-a-keyさんの“理解力”です。プロデューサーとしても活躍されたり、いろいろな曲を聴いていらっしゃるからか、“僕らがこうしたい”っていうイメージに対するレスポンスが的確で、こちらの求める音楽のニュアンスを組み取る能力が非常に高いなと。その辺が、やっぱり今人気があるポイントだったりするんだろうなと感じました。

JUN 実際、今回のアルバムに参加してくださっているミュージシャンは皆そうなんです。そういった能力が高いし、センスも良い。僕らも音楽家なので、デモを待っているときに“こういう感じで来るかな”っていう予想はしているのですが、本作ではどの曲でもそれ以上のサウンドが参加アーティストたちから返ってきたのでうれしかったです。これまで以上に皆さんのファンになりました(笑)。

 

ー「Glasses」のイントロやAメロでは、フィルターが細かくかかったシンセが印象的です。

JUN これはポーランドのブランドPOLYENDのMedusaというシンセを使っています。グリッドという64個のパッド兼ステップ・シーケンサーが付いていて、自由にパラメーター設定などをアサインできるんです。細かいフィルターのオートメーションをこれらのパッドでコントロールして作りました。

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POLYEND Medusaは、64個のコントロール・パッドを搭載するアナログ・シンセ。パッドにさまざまなパラメーターをアサインして、複雑なモジュレーションを施せる

ーアウトロで“ピュンピュン”と鳴る有機的なシンセも耳を引きました。

JUN これはMOOG Minitaurです。フィジカル的にぐいぐいノブを動かして生まれた音を長めに録っておいて、後からおいしいところをエディットしてトラックに使っています。MOOG Minitaur Editorというソフトを使用することによって、ABLETON Live上から編集やプリセットの管理ができるので便利なんですよ。ちなみにこの曲のドラムは、サンプル素材で作っています。

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ベースに特化したアナログ・モノシンセMOOG Minitaur。専用のエディター・ソフト使ってコンピューターからコントロールすることもできる

チョッパーのゴースト・ノートが
グルーブに一役買っているのかもしれません

ー「Your Closet feat. YonYon」では、オリエンタルなシンセ・リードと野太いビートの組み合わせが新鮮です。

ALI& もともとこの曲はユアン・マクレーンやナンシー・ワン、LCDサウンドシステム辺りのサウンドがイメージとしてあり、そこに80KIDZのエレクトロ感を足したいなと思って作りました。おっしゃる通りオリエンタルなシンセで始まる曲だったので、日本語/韓国語/英語を使いこなすシンガー・ソングライターのYonYonちゃんがぴったりだと思ったんです。

 

ーラップ部分はとても耳に残りますね。

ALI& ラップやボーカルは、YonYonちゃんとスタジオでディレクションなどを挟みながら録りました。言葉の並びや強調する部分などを話合いながら決めていった感じです。

 

ー曲中では、ボコーダーのような音も登場します。

ALI& これはボコーダー風のシンセ・リードで、音源はSONIC ACADEMYのソフト・シンセANA 2。“Talker”というプリセットを少し加工して使っているんです。

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「Your Closet feat. YonYon」に登場するボコーダー風のシンセ・リードには、ソフト・シンセのSONIC ACADEMY ANA 2を使用(画面左)。そこにリバーブ・プラグインのWAVES TrueVerb(同右上)や、ジャック・ジョセフ・プイグ氏のシグネチャー・プラグインWAVES JJP Vocals(同右下)を用いて音作りをしている

ーラップとサビの部分では、ベースの音色が変わっていると思うのですが、いかがでしょうか?

ALI& そうですね。どちらもエレキベースではありますが、違う音色を使っています。ラップ部分では自分で弾いたベースの音を加工していますが、サビの部分ではベースのサンプル素材を切り張りして1つのフレーズを作っているんです。この曲では、ドラムにもサンプル素材を使っています。WebサービスのSpliceから生ドラムのサンプルをダウンロードして、キックだけ使ったり、スネアだけ使ったりという感じです。生ドラムはレコーディング環境や機材によって音が変わったりすることが多く、最終的にしっくりこない音になるケースもあるため、最近ではサンプル素材を使うことの方が多くなっています。

 

ー本作の中でも、とりわけこの曲はグルーブを感じます。

JUN 一度ステム・データをALI&君から聴かせてもらったことがあるのですが、生ベースが結構訳分からない不思議な音で鳴っているんですよね(笑)。恐らく、チョッパーのパーカッシブなゴースト・ノートがグルーブに一役買っているのかもしれません。実際その要素はあまり聴こえていないのですが、割と重要なのかもしれない。

ALI& あと、この曲は途中でキーが変更になったので、ベースを弾き直さずにLiveのトランスポーズ(移調)機能でオーディオ・ファイルを調整したんです。そのときにゴースト・ノートの質感が“良い意味”で不思議な音に変わったのかも。実は、その後ちゃんとベースを弾き直したファイルに差し替えたのですが、何かしっくりこなかったんですよ。だから、最終的には元のファイルにこっそり戻したんです。別に誰にも言わないし、絶妙なマジックの感じがするのでいいかと……結局サンレコで言っちゃったけど(笑)。結果として、このトランスポーズ処理もグルーブに良い効果を与えているのかもしれませんね。

 

ローファイなハウスを作りたいなと思い
あえて良い音を“使わない”ように工夫した

ー「Magic feat. AAAMYYY」はチルかつエモーショナルな雰囲気の楽曲ですが、軽やかな余韻も感じさせます。

ALI& この曲は、エモーショナルだけどふわっとしているような感じにしたくて、ボーカルはAAAMYYYちゃんにお願いしたんです。STUDIO SEEZEでマイクはNEUMANN U87AIを使って録りました。“一生解けない魔法で〜”というイントロのボーカルだけはあえてクリック無しで歌ってもらい、ヨレた感じのボーカル・アプローチで“グッ”と曲の導入部分を演出できたと思います。

 

ーサブベースがとても野太いなと思ったのですが。

ALI& あら、バレちゃいました? ANA 2とXFER RECORDS Serumのサブベースを同じ音高で重ねて、EQプラグインのFABFILTER Pro-Q3で処理した後、仕上げにWAVES Renaissance Bassでローエンドを増強しているんです。たまに“これ意味無いよ”ってJUN君から怒られるときもありますが、試してみたいんですよ(笑)。

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ALI&が、「Magic feat. AAAMYYY」などで多用したプラグイン。ノイズを除去するWAVES X-Noise(画面上)、コンプレッサーのWAVES CLA-2A(画面上から2番目)、マルチエフェクトのWAVES CLA Vocals(同左下)、音量のバラつきを自動的にならしてくれるWAVES Vocal Rider(同右下)が並んでいる

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ベース・エンハンサー・プラグインのWAVES Renaissance Bass。「Magic feat. AAAMYYY」ではサブベースに使用された

ー打って変わって「Welcome To My House」は、その名の通り“ザ・ハウス・ミュージック”となっていますね。

JUN ふと、ローファイなハウスを作りたいなと思い、あえて良い音を“使わない”ように工夫しました。ドラムは既存のサンプル素材を使わずに、自前の機材を駆使して“素材録り”から仕込んでいるんです。

 

ー具体的には、どのような機材を使われたのですか?

JUN キックやスネアにはTHE DIVISION DEPARTMENTのアナログ・シンセ、01/IVを使用しています。結構太い音が出るのですが、若干倍音を足したかったためBOSS BX-80という8chのアナログ・ミキサーに通しているんです。ヘッドルームが狭いのですぐに音がひずみます(笑)。シカゴ・ハウスのプロデューサーなどがよくBX-80を使っているのをInstagramで見て、こういう安価な機材でもユニークな使い方ができるんだなと思い自分も購入しました。

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ローファイなハウスのキックやスネアの音源としてJUNがチョイスした、アナログ・シンセのTHE DIVISION DEPARTMENT 01/IV

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8chの小型アナログ・ミキサー、BOSS BX-80。「Welcome To My House」では、キックやスネアに倍音を付加するために使用された

ー結果として、JUNさんが求めるローファイ・サウンドは実現できましたか?

JUN はい。現代では、音質を高めようとすれば幾らでも方法はあるじゃないですか。だけど、もうそこはポイントではなくて、自分で素材作りから始める“モチベーション”だったり、個人的に“納得のいく音像が作れたかどうか”が大切だと思うんです。それでできた曲が、最終的にクラブでかけて良い音で鳴るのかというと自信は無いけれど、今述べたようなことを今回やってみて強く感じましたね。

ALI& 以前からよく思っていたのが、高音質/高解像度になればなるほど、ノイズもより鮮明に分かるときもあるじゃないですか。そこに僕は矛盾を感じていて……大切なのは別のところにあるんじゃないのかなって。その結果、やっぱりJUN君のように“伝えたい音像”が明確にあり、それをそのまま伝えられることに意味があるんだと思います。

 

ーテクノロジーやツールの進歩によって、“選択肢が増えた”というとらえ方もできますね。

JUN そうですね。ローファイだけど、ある意味ローファイな音像をモダンな環境で作っているんです。本作の制作時に、ALI&君のお薦めでPro-Q3を導入してみたのですが、これがすごく便利で(笑)。キックとベースにおける帯域の分離を処理するときなどで使い勝手が良く、本作ではかなり使用しています。

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「Welcome To My House」で登場するシンセ・ベースには、ソフト・シンセのARTURIA CS-8を用いた。CS-8は、YAMAHAのアナログ・シンセCS-80をモデリングしたプラグインだ

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同じく「Welcome To My House」のシンセ・リードには、ソフト・シンセのARTURIA Mini Vを使用。1990年代辺りで聴くような電子音楽の雰囲気作りに一役買っていると、JUNはコメントする

今こそリリースはもったいぶらずに
たくさんやった方がいいなと思います

ーローファイと言えば近年ポップスでもシンセウェーブ・シーンが注目されていますが、「Object」の迫力あるキックやスネア、16分音符刻みのシンセ・ベースなどは、同シーンに通ずるように思います。

ALI& この曲はJUN君が作ったトラックですが、本作の中では“初期の80KIDZ感”が恐らく一番強いと思います。1stアルバム『This Is My Shit』(2009年)辺りのサウンドを“今の80KIDZっぽく”したようなイメージだと僕は感じました。それがちょうど昨今のシンセウェーブ感とマッチしたのかもしれません。

JUN シンセ・ベース/リードは、共にLENNAR DIGITAL Sylenth1を使用しています。以前からよく行う手法なのですが、リードはエフェクト&アンプ・シミュレーターIK MULTIMEDIA Amplitubeでひずませて80KIDZらしい音を作っているんです。ドラムには現代的なサウンドのキックやスネアに、ROLAND TR-707のサンプルをレイヤーして使っています。

ALI& こういうサウンドは以前からあるので、僕らにとってシンセウェーブは新しく聴こえないのですが、確かに最近ポップスでよく聴くようになった印象ですね。ちなみに前作『5』に収録の楽曲「In My Place feat. Capeson」は、シンセウェーブだと思って作っていました。だけど、今振り返って思うのは、ザ・ウィークエンドの功績が大きいんでしょうね。

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「Object」のシンセ・ベースやリードには、ソフト・シンセのLENNAR DIGITAL Sylenth1(画面左)を活用。シンセ・リードは、エフェクト/アンプ・シミュレーターに特化したプラグインIK MULTIMEDIA Amplitube(同右)でひずませている。JUNは「80KIDZらしいサウンド・メイキングの一つで、以前からよくやる手法です」と語る

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JUNがハマっているというモジュラー・シンセ群。『ANGLE』の収録曲にもところどころで使われている。また、近年JUNは自身のブランド=P4Lを始動し、3バンド・アイソレーター・モジュールのISO-001Eなどをリリース。多くのパフォーマーから好評を得ていると話す

ー昨今コロナ禍でイベントが減ったりしていますが、若いクリエイターやアーティストに向けて、“今これをやっておくべき”というようなアドバイスはありますか?

ALI& 僕個人としては、今こそリリースはもったいぶらずにたくさんやった方がいいなと思います。皆も出しているから逆に埋もれちゃう可能性もありますけど、その分リスナーもちゃんとチェックしてくれてると思うので。

JUN 今はレーベルだったり、メジャー/インディーズとかの垣根が無くなりつつあり、そしてアーティストもあまり気にしない時代になっていると思うんです。逆に言えば、自分次第で好きに動ける時代。だからこそ、何かやりたいならクオリティが追いつかなくても、どんどんアウトプットをしていく方がいいんじゃないのかな。

ALI& 80KIDZは初期のころから、もう本当にたくさんの数のリミックス・ワークやリリースをやっていました。その過程で得られる成長は絶対に有ると思います。“なかなか思うように行かないなあ”ということがあっても、止まらずに次々と作品を作り発表し続けちゃうのがいいかもしれません。逆に言えば、“動かない”っていうことがすごく良くないことだと思います。どんどんチャレンジしてみてください。

 

Release

Angle

Angle

  • 80kidz
  • エレクトロニック
  • ¥1833

『ANGLE』
80KIDZ
(PARK)

  1. Subject
  2. Don’t Stop(Rework)
  3. Glasses feat. mabanua
  4. Your Closet feat. YonYon
  5. Magic feat. AAAMYYY
  6. Welcome To My House
  7. Banane feat. Maika Loubté
  8. Object
  9. Grand
  10. Always On My Way feat. Na Polycat
  11. Waves

Musician:80KIDZ
Producer:80KIDZ
Engineer:80KIDZ
Studio:プライベート、SEEZE、他

 

80kidz.net

 

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