皆さん、こんにちは。音楽プロデューサー/DJのVLOTです。自分は普段からImage-Line FL StudioをApple MacBook Proで使用しており、ヒップホップやトラップなどのビートを中心に制作しています。連載の第3回は、昨年末にリリースされたばかりであるFL Studioの最新版=バージョン21.2で搭載された“ステム分離機能”を紹介しましょう。
2ミックスデータからドラム/ベース/上モノ/ボーカルを抽出
FL Studioは、永久的な無償アップデートを提供している数少ないソフトウェアの中の一つ。これはユーザーにとって大きな魅力です。もちろんマイナーアップデートだけでなく、メジャーアップデートも含みます。今回のアップデートは、バージョン21.1からバージョン21.2になったということでマイナーアップデートとなりますが、それでも目玉となる大きな機能が搭載されました。その中の一つがステム分離機能です。これは、Playlist上に貼り付けた2ミックスデータ(オーディオクリップ)からドラム、ベース、インストゥルメント(上モノ)、ボーカルといった項目に分類し、抽出できるというもの。抽出したデータは、オーディオクリップとしてPlaylist上で扱うことができます。ステム分離機能を使用することで、リミックスやマッシュアップ、サンプル作成などが容易になるため、音楽制作において大きな柔軟性を得ることができます。
それでは、この機能の使い方から解説していきましょう。まずはステム分離機能を施したい楽曲の2ミックスデータをPlaylist画面にドラッグ&ドロップ。例として、今回は私の楽曲「Wetter feat. JP THE WAVY & KENYA」を使用します。
次に、この2ミックスデータのオーディオクリップ左上に表示された波形マークをクリックし、メニュー内のSampleセクションにある“Extract stems from sample”を選択。すると“Drums/Bass/Instruments/Vocals”、そして“Limit CPU usage”というの5つの項目をセレクトできるExtract stems from sampleダイアログが表示されます。
今回は、2ミックスデータからドラム/ベース/インストゥルメント/ボーカルの4つをそれぞれ抽出してみましょう。同ダイアログからDrums/Bass/Instruments/Vocalsの4つの項目を選択し、同右下にある“Extract”ボタンをクリック。すると、選択した項目に該当するステムデータの書き出しが開始されます。もし、2ミックスデータからドラムのみを抽出したい場合はDrumsの項目のみ選択すればOKです。選択した項目の数が増えるほど、ステムデータの書き出し時間も長くなります。ちなみにLimit CPU usageは、直訳すると“CPUの使用量制限”という意味。尺の長い2ミックスデータから目的のステムデータを抽出するには数分間の時間を要することもあります。このLimit CPU usageをオンにすることで、 書き出し作業に用いるCPU使用量を制限することができます。つまり、FL Studioがステムデータを書き出している間にネットサーフィンしたり、動画を見たりといったほかの作業が並行して行えるようになるということです。
また同ダイアログの中段には“Mute source track”というメニューがありますが、これはステムデータ書き出し後、抽出元となった2ミックスデータのトラックをミュートすることができるというもの。もちろんミュートしない設定もできますし、抽出元となった2ミックスデータのトラックではなく“オーディオクリップ”をミュートすることも可能です。
さまざまなシーンで活用できるステム分離機能
ステムデータの書き出しが終わるとPlaylist上に新規トラックが作成され、それぞれのオーディオクリップが配置されます。今回はドラム/ベース/インストゥルメント/ボーカルを抽出したので、4つの新規トラック&オーディオクリップが出現しました。
Drumsトラックにはキックからパーカッションまでが、BassトラックにはRoland TR-808系キックベースとラインを担うベースが、Instrumentsトラックにはシンセパッドを中心とした上モノが、Vocalトラックにはボーカルやラップが見事に抽出されていて非常に驚きました。自分の楽曲なのでオリジナルのステムデータを持っているわけですが、それと比較しても、今回FL Studioに搭載されたステム分離機能の精度はかなり高いと言えるでしょう。
この便利なステム分離機能ですが、実際にどういったシーンで活用できるのか、幾つか例を挙げてみます。
①リミックスの制作:既存の楽曲をリミックスする際、ステム分離機能を使って特定の楽器やボーカルのみを抽出し、新たなトラックに組み込んだり、アレンジを加えたりすることができます。
②DJ用エディットの制作:ドラムやキックだけを抽出し、曲の前後に貼り付ければ、DJプレイ時につなぎやすくすることができます。またマッシュアップの制作にも大いに活用できそうです。
③リファレンス楽曲の解析:リファレンスとなる楽曲をステムに分離することで、各パートがどのようなフレーズや音色になっているかをより詳しく分析することができます。
④ライブ用音源の制作:文字通り、既存の楽曲をライブに特化したアレンジに再編成することも可能です。
これらのほかにも、2ミックスデータからドラム、ベース、ボーカルなどの特定部分を切り出し、サンプル素材として活用する際にも役立つでしょう。またボーカルを除去すれば、カラオケトラックの作成も簡単に行えます。さらには昔作った楽曲でプロジェクトがない場合にも、2ミックスデータから各楽器を抽出すれば、再びミックスし直すことも可能です。
私は、自分がプロデュースしたアーティストから確認用の2ミックスデータをよく受け取るのですが、場合によってはその2ミックスデータからボーカルのアカペラデータのみを抽出する作業をエンジニアの方に依頼することがあります。しかし、この機能を使えばすぐに自分で抽出することができるため、作業効率が大幅に向上しました。このように、ステム分離機能はさまざまな用途に活用できます。そして、それがFL Studioの標準機能として搭載されたことに喜びを隠しきれません!
次回もFL Studio 21.2の新機能と、その使い方について引き続きお伝えしていこうと思います。それでは、また次回お会いしましょう。
VLOT
【Profile】東京都出身のDJ/プロデューサー。2019年よりプロデューサーとしての活動をスタートし、ヒップホップユニットBleecker Chromeのメインプロデューサーを務める。KOHH、JP THE WAVY、YOUNG COCO、LEX、MIYACHI等、国内外問わず幅広いアーティストへ楽曲提供。
【Recent work】
『WHO IS VLOT (Complete Edition)』
VLOT
(bpmtokyo)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:22,000円|FL Studio 21 Producer:37,400円 |FL Studio 21 Signature:44,000円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:26,400円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:46,200円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル:28,600円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、intel CoreプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10/11以降(64ビット)intel CoreもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM