こんにちは、DJ/作曲家のPharienです。今回は僕が自分の楽曲で行っているミックスとマスタリングについてです。前回まではFL Studio標準搭載のプラグインに絞って解説してきましたが、今回はサード・パーティ製プラグインも交えつつ、パートごとにどのような処理をしているのか紹介していこうと思います。
最前段はマルチバンド・コンプOTT
キックとベースはモノラルにする
厳選した少ない種類のプラグインでミックス/マスタリングを行うのがPharien流です。“多くのプラグインを目的ごとに使い分けた方が良い”という方も居るかと思いますが、個人的には汎用性の高いツールを使い続け、手になじませていくスタイルの方が好みですね。高価なプラグインだけではなく、フリーでも使いやすかったら積極的に使っています。“無料はそれなりの品質”という先入観はもったいないです。
それではミックスの手法からお話しします。僕がミックスで最も意識していることは、目立たせたいパートがしっかり聴こえるようにすること。次に各パート間における周波数帯域のかぶりを排除することです。ミックスは楽曲に生命を吹き込むような作業だと考えていて、各パートがクリアで抜けの良い音色になるまで丁寧にミックスすることを心掛けています。
以前お話ししたように、FL Studio標準搭載のプラグインはFruity Parametric EQ2やFruity Reeverb 2などをよく使っています。サード・パーティ製で重宝しているのは、マルチバンド・コンプのXFER RECORDS OTT。多くのトラックの最上段にインサートして、ダイナミクスを整える下処理的な役割で使っています。FL StudioにもFruity Multiband Compressorというプラグインが標準搭載されているので、両方試して好きな方を使ってみてください。どちらも3バンドとなっていますが、Fruity Multiband Compressorはアタック/リリース・タイムが個別に搭載されていたり、ニーが設けられているなど、OTTより詳細にパラメーターを変更することができます。
それではシンセから解説していきます。最前段でOTTを挿し、その後段にひずみ系エフェクトをインサート。ここで倍音を付加して、サウンドを前に出す狙いです。僕の場合はSOUNDTOYS DecapitatorやCAMEL AUDIO CamelCrusher、FABFILTER Saturnといったプラグインをよく使っていますね。
こうして迫力のあるサウンドになったら、パート間での周波数帯域の干渉を排除するためにFruity Parametric EQ2を使います。楽曲によって細かな数値は変わってきますが、リードは170Hzより下、ベースは90Hzより下、サブベースは200Hzより上をカットすることが多いです。僕の場合ソフト・シンセで音作りを追い込むので、ここでの積極的なブーストは行いません。
その後、空間系エフェクトを必要に応じてかけます。空間系エフェクトはセンド&リターンでエフェクト音と原音のバランスを調節しながら使うのがセオリーですが、オートメーションを描きたいトラックにはインサートしていますね。リバーブはかけ過ぎると迫力が損なわれるので注意しましょう。最後にサイド・チェイン・コンプをかけて終わりです。
リード・シンセにはFL Studioに標準搭載されているマキシマイザー/エンハンサーのSoundgoodizerを使うこともあります。ワンノブの手軽な操作で、その名前の通り“良いサウンド”にしてくれるんです。FLユーザーの間で、人気の高い純正プラグインです。プリセットがAからDまで4種類の中から選べるのですが、僕はDを選ぶことが多いですね。
続いて、ドラムについても解説していきましょう。基本的に前に出して聴かせたいパートなので、埋もれてしまわないように細心の注意を払っています。まずキックはモノラルにしてからスタート。低域を担うパートはモノラルにすることで、左右の空間に余裕を持たせるのが目的です。僕の中では1カ月前からやり始めたホットな手法で、ベースも同じくモノラルにしています。キック特有のプラグインは、KSHMR Essential Kick。キックに特化した複合的なエフェクトで、アタック感やサブの帯域などを調節していきます。ほかのパートでも言えることですが、単体で聴きながらミックスするのではなく楽曲全体を再生して、ほかのパートとの兼ね合いを確認しながら調節しましょう。特にキックとベースのすみ分けは、楽曲のパワーに直結しますので慎重に。
高域を担うクラップやハイハットは、EQで低域をカットし、高域を少しブーストするのみです。シンプル・イズ・ベスト。後は自然な配置になるようボリュームを調節します。クラップは空間系エフェクトで立体感を演出することもありますね。シンセにひずみ系プラグインを挿しているため、リードなどと高域がぶつかる場合にはEQで調節します。
マスタリングにディエッサーを活用
音圧は数値を気にせず感覚で
マスタリングの手法についても公開します。エフェクト・チェインはOTT→Fruity Parametric EQ2→FABFILTER Pro DSのみ。2ミックスの段階で大部分を仕上げているので、マスタリングですることがあまり無いのです。良い2ミックスは、マスタリングではさほどエフェクトをかけずとも良い作品になります。僕はこの手の話題になると“ミックスは調理、マスタリングは盛り付け”と例えて話すんです。味がイマイチな料理は、奇麗に盛り付けてもおいしくなりませんよね? それだけミックスは大切ということです。マスタリングがうまくいかない場合は、ミックスに立ち返ってみるとよいでしょう。
それでは実際にこのエフェクトで何をしているか解説します。OTTはデフォルトの設定をベースに、通常のコンプのレシオにあたるDepthノブを15%にしてコンプレッションを行います。その後、Fruity Parametric EQ2で微調節をしますが、楽曲によっては使わないこともありますね。ディエッサーのPro DSは、耳に付く嫌な高域を取り除く役割。EQで高域を削るより、ディエッサーを使った方がスムーズな効果が得られます。音圧はRMS値-6dBほどになっていることが多いですが、数値は気にしていません。
僕が行うミックス/マスタリングの手法は変わっているとよく驚かれますが、それが悪いことだとは思っていません。大事なのは過程ではなく結果です。読者のみなさんも自分に合ったテクニックを見付けてくださいね。
Pharien
【Profile】21歳の日本人DJ/作曲家。17歳のころにFL Studioを使った作曲を初め、2年後にはDJのハードウェルが主宰するRevealed Recordingsより「Nightfade」を発表。その翌年、オランダのArmada Musicより「Tell Me The Truth」をリリースする。2019年夏にはSpinnin' Recordsと日本人初となる専属契約を結び、同年冬にはSpinnin' Recordsが中国で開催したオフィシャル・イベント、Spinnin' Sessionsへの出演を果たした。
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