今回はタイム・マーカーについて解説していきます。小節番号の下にラベルを配置することで楽曲の構成やテイクの管理をしやすくする機能で、例えるなら本に挟むしおりのようなもの。それだけ聞くと“え、マーカーの話?”と思われるかもしれませんが、FL Studioのマーカーは一般的なラベル機能以外にさまざまな機能を持ち合わせているのです。使いこなせば制作作業だけでなく、ライブ・パフォーマンスでもFL Studioを活躍させることができますよ。
再生順序をスムーズに変えられる Performance mode
まずはタイム・マーカーを置く方法について解説していきます。タイム・マーカーを置きたい地点に、再生されている場所を示すプレイ・ポジションを移動し、プレイリスト左上にある三角形のオプションからTime Markers>Add Oneを選択。すると文字を入力できる小窓が現れます。ちなみにAlt(Macはoption)+Tでショートカットも可能です。ここに任意の名前を入力すると、トラックと小節番号の間にタイム・マーカーが表示されます。
再生およびレコーディング中の目印としてすぐにタイム・マーカーを置きたい場合は、Ctrl(MacはCommand)+Tで“auto”と名前の入ったタイム・マーカーが設置できます。名前は右クリック・メニューからRenameを選択すれば変更できるので、ひとまずタイム・マーカーを置いて後で名前を付けてもよいでしょう。一つでもタイム・マーカーを設置した状態であれば、タイム・ライン上の右クリック・メニューからもタイム・マーカーの追加が可能です。タイム・マーカーはドラッグして移動することができ、移動単位は磁石アイコン=Snap to gridのスナップ値に従います。
再生の有無を問わずタイム・マーカーをクリックすると、タイム・マーカーまでプレイ・ポジションが飛びます。ダブル・クリックすると次のタイム・マーカーまでが選択状態となり、ループ再生が可能です。デフォルトの設定で再生しながらタイム・マーカーをクリックすると即時にプレイ・ポジションが移動しますが、先ほどもアクセスしたプレイリストのオプションからPerformance mode(Ctrl+P)を有効にすると、再生中の小節が終わってからクリックしたタイム・マーカーへプレイ・ポジションがジャンプします。このモードでは曲のテンポを乱すことなく、プレイ・ポジションの移動が行えるのです。
タイム・マーカーは、このPerformance modeを利用した制作時にも役立ちます。例えば楽曲構成に迷っていたり、幾つかパターンを作って試したい場合、曲の構成に合わせて順序良くタイム・マーカーを押すことで、パターンを入れ替えずに楽曲構成を確認できるのです。
この機能が生きるのがゲーム音楽の制作。ゲームの進行状況に合わせてプログラムで楽曲の展開構成を変えるBGM=インタラクティブ・ミュージックでは、さまざまなパターン展開や時間調整のためのループなど、複雑な流れをプレビューしながら制作する必要があるので、自在にパターンの組み合わせを変えられるPerformance modeがあると役に立ちます。
反復再生を行うMarker Loop
一時停止できるMarker Pause
タイム・マーカーは右クリック・メニューの設定から、幾つかの便利な機能を持たせることが可能です。この設定を覚えると、よりタイム・マーカーを活用できます。
Loopはループの開始地点を指定する機能。右クリック・メニューの上から3つ目にあるPlace loopでも同様の設定が可能です。ゲーム音楽はループ再生する曲もあるので、イントロに続くループ部分をこの機能でマーキングして繰り返すことがあります。
Marker Loopは、設定したタイム・マーカーから次のタイム・マーカーまでの間をループできます。ほかのタイム・マーカーをクリックするまでループは続き、曲中に何個でも設置できます。
Marker Skipは設定されたタイム・マーカー区間を再生せず、次のタイム・マーカーへジャンプします。楽曲展開が複数存在することもあるインタラクティブ・ミュージックでは、簡単に楽曲の分岐操作ができるのが便利です。MAGIX Sound Forgeなどの波形編集ソフトでWAVを開くと、FL Studioで指定したマーカーがそのまま利用できるので、その後のループ設定や編集にとても役立つ機能ですね。
Marker Pauseはその名の通り、マーカーの先頭で一時停止されます。次に再生する際にはMarker Pauseを設定したタイム・マーカーからスタートするので、いったん停止させてから何かのきっかけでポン出ししたい、といったシーンで役に立つ機能です。
こういった設定と先述のPerformance modeを併用すると小節の切れ目でタイム・マーカーが機能するようになるので、テンポを崩さずにさまざまな再生方法を試せます。制作での使用例を挙げてきましたが、ライブのバック・トラックをタイム・マーカーと合わせて配置すれば確実な進行管理が行えますし、舞台演劇などで演者とタイミングを合わせた音楽の再生が必要な場合にも有効です。まさにパフォーマーのためのPerformance modeと言えます。
ここまでタイム・マーカーで曲全体の再生順序をコントロールすることで、制作時のプレビュー補助などを行ってきました。その中で紹介したPerformance modeですが、実はもっと奥が深い機能を備えています。トラック名の右クリック・メニューから設定できるPerformance Settingsを駆使すると、楽曲全体ではなくトラックごとにクリップの再生をコントロールすることが可能です。
各クリップをグリッド・コントローラーに割り当てて、ライブのように曲を組み上げるというフローにも使えますし、完成した楽曲を分解してライブ向けDAWに負けないパフォーマンスを行うこともできます。グリッド・コントローラーを持っている方はぜひ、メニューからTOOLS>Macros>Prepare for performance modeを実行してみてください。このマクロはグリッド・コントローラーに配置しやすいテンプレートを用意してくれます。
残念ではありますが、私によるFL Studioの解説は今回で最後です。この先もまたどこかでFL Studioについてお話しできたらと思います。全4回、お付き合いいただきましてありがとうございました。
大久保博
『リッジレーサー』シリーズや『エースコンバット』シリーズなど、数多くのゲームのサウンド・デザインおよびトラック・メイクを担当してきた、バンダイナムコのサウンド・クリエイター。その一方でアーティストとしてもハウス·ミュージックを軸に楽曲制作を行い、多くのタイトルに参加している。またハウスDJとしても活動しており、自らクラブ・パーティを主催することもある。Twitter@ookubon