豊かな音楽表現を可能にするピアノロール。その活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が基礎から解説。ここでは“モジュレーション・カーブ”を駆使して、複雑な音色を作る方法についてレクチャーします。
まずはシンセの設定から
先ほどの“ベロシティでフィルターを開け閉めする”に続いて、今度は次のような音作りをやってみましょう。対象はシンセ・リードのフレーズです。
- シンセのモジュレーション・ホイールでフィルター・カットオフの開き具合を変える
- シンセのLFOでオシレーターのピッチを変える
いきなり難しそうですね。これらもモジュレーションという音作りの手法で、効果の度合いをピアノロールからコントロールできます。まずはモジュレーションをかけていない状態(♪10-1)とかけた後(♪10-2)を聴き比べてみてください。後者の方が、複雑な音色に聴こえますね?
使用したソフト・シンセES2を見てみましょう❶。1つめのモジュレーション・マトリクスではモジュレーション・ホイールをSource(ソース)、フィルター・カットオフをTarget(ターゲット)に設定。これは“モジュレーション・ホイールでカットオフを動かしますよ”という意味です。実機のシンセをイメージすれば分かりやすいでしょう。カットオフのノブを手でグリグリ動かすのではなく、モジュレーション・ホイールを使って動かすのと同じです。結局、ホイールを動かさなくちゃいけないんでしょ?と言われそうですが、via(ヴィア)をモジュレーション・ホイールに設定すれば、ピアノロールのモジュレーション・カーブを使ってコントロールできます。
2つ目のモジュレーション・マトリクスは、LFOでオシレーターのピッチを動かす設定。ざっくり言うと、シンセの音の高さが常に揺れるような効果を得られます。
Knowledge:そもそもモジュレーションとは?
モジュレーションとは、あるシンセ・モジュールもしくはパラメーターで、別のパラメーターを動かす手法。例えばLFO(低周波を発するモジュール)でオシレーターのピッチを動かすと、LFOの音波の周期に合わせて、音の高さが“うい~ん、うい~ん”という感じに上下します(図を参照)。
また、この場合LFOをモジュレーターやモジュレーション・ソース(=モジュレーションをかける側)、オシレーター・ピッチをキャリアやデスティネーション(=かけられる側)といいます。Logic ProのES2では、キャリアをターゲットと呼んでいます。
効果の深さを時間軸上で変えていける
ピアノロール下部にモジュレーション・カーブを書いて、先述のモジュレーションの度合いをコントロールします❷。カーブが高い位置へいくほどに、フィルターが開いて明るいトーンになり、同時にピッチの揺れが激しくなります。スクリーンショットを見ながら、音を聴いてみると分かりやすいでしょう。このように、モジュレーションを使うとシンセの音色を時間的に変化させることができるため、元が単純な音でも面白みを加えられるのです。
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おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。