豊かな音楽表現を可能にするピアノロール。その活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が基礎から解説します。ここでは、ジャストで打ち込んだパターンにノリ(グルーブ)を与える方法の第一歩をレクチャー。
どこを強く、どこを弱くすればいいか
僕は普段から、よくノートのベロシティ(強さ)を調整してノリを作ります。グリッドにジャストで打ち込んだ後、ベロシティをいじるだけでもノリが出てくるので、その効果を幾つか例示しましょう。
まずは、ジャストで打ち込んだドラム・パターン❶(♪2-1)をいじってみます。各ノートのベロシティに強弱を付けて音に抑揚を与える作業ですが、どのノートを強くするか/弱くするかは、曲のノリやジャンル感によってさまざま。ロックの生ドラムのようにしたい場合は、“表拍のノートを強くして、裏拍のノートを弱くする”のが基本だと思います。こういう強弱の付け方は、生身のドラマーが演奏するニュアンスをイメージしています。
“どこを弱くするか”でノリが変わる
というわけで、表拍にあるハイハットとスネア、キックを強く、裏拍のハイハットとスネアを弱くしてみます❷(♪2-2)。これだけでも随分、ノリが出たと思いませんか? ポイントは裏拍のノートを弱くしたこと。ハイハットは8分裏、スネアは16分裏を弱くしています。
ハイハットは8分音符で刻んでいるパターンで、強(ベロシティ127または100)/弱(40)の繰り返し。これはロックっぽい8分音符刻みのベースにも応用できます。
さて、試しにハイハットのベロシティを強/弱の繰り返しから“弱/強”の繰り返しに変えてみましょう。すると、裏拍が強調されてダンサブルになりますね❸(♪2-3)。このように、少し変えるだけでもノリに影響するのがベロシティなのです。
Knowledge:表拍と裏拍
表拍とは拍の頭のことで、4/4拍子の曲であれば“1、2、3、4”と手拍子を打ったり、メトロノームが鳴る位置。ダンス・ミュージックの4つ打ちキックが入るところ、と言えば分かりやすいでしょう。裏拍は表拍以外の位置で、表拍から8分音符前/後ろを8分裏、表拍から16分音符前/後ろを16分裏と呼ぶことがあります。4つ打ちキックに対する裏打ちのハイハットは8分裏というわけですね。
ゴースト・ノートで弾むようなノリを
16分裏のスネアを弱くしたのは、ゴースト・ノートとして聴かせたかったからです。ゴースト・ノートとは、ごく小さな音量で演奏される音のことで、スネアの場合は16分裏に入れると弾むようなノリが出せます❹。
マルチサンプルのドラム音源では、ノートのベロシティを弱くしたとき、自動的に“弱く演奏された音”が鳴る場合があります。強くたたいたスネアと弱くたたいたスネアでは、音量だけでなく“音色”も違うので、ベロシティを弱めたノートに弱く演奏された音が割り当てられることで、よりゴースト・ノートらしく聴かせられます。
ベロシティ連動の音色変化を活用!
ベロシティを変えることで音色まで変化させる、という調整をシンセ・ベースにも加えてみましょう。ここで使用するシンベの音色は、ベロシティの強弱によってフィルターの開き具合が変わります。ベロシティを強めるほどにフィルターが開いて明るいトーンになり、ベロシティを弱めていくとフィルターが閉じて暗いトーンになります。その結果、音色の面でも抑揚を付けることができるのです。
これは、シンセのプリセット音色の中で“モジュレーション”というのが組まれているからなのですが、詳しくは後述しましょう。また、シンセやプリセット音色によって、ベロシティと連動する音色の変化はさまざまです。
このシンベでは、1拍目の頭のベロシティを強く(127)、そのほかを弱め(88)にするのが基本的な設定です❺(♪2-4)。僕は、ベーシストの指の動きをイメージしながら表拍を強く、裏拍を弱くすることが普段からあるのですが、まさにそういう設定になっていますね。
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※MIDI素材は、トラックのスタンダードMIDIを書き出したものです
おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。