僕の音楽的ルーツであるアニソンやボカロ曲、R&B/ヒップホップなどを自由に組み合わせています
2番手のリミキサーは、ケンカイヨシ。ぼくのりりっくのぼうよみのプロデュースをはじめ、これまでにCHEMISTRYや星街すいせいなどの楽曲を手掛けてきた。そんなケンカイヨシによる「Highlights」リミックスは、サンバ/ラテン系のアプローチで幕を開けたかと思いきや、ワブル/グロウル・シンセ・サウンド→80'sディスコ・ビート→ジャズ・アレンジなど、実にリスナーの耳を飽きさせない展開となっている。
「Highlights」にはLDH魂が込められている
——題材曲「Highlights」を聴いた際、どのようなリミックスのイメージが浮かびましたか?
ケンカイヨシ 原曲は最近のアップトゥデートなヒップホップという感じで、ジャージー・クラブのビートを取り入れているんだなあと思いました。原曲を聴いて浮かんだのは“霊界から現世に迷い込んだ魑魅魍魎が踊りまくっている情景”です。あと、「Highlights」という曲のタイトルからは、“輪廻(りんね)転生する命”というインスピレーションを受けました。僕は子供の頃からEXILEさんの熱心なリスナーで、それこそT.Kuraさんが作曲されたEXILE「FIREWORKS」のMVのワンシーンが浮かびました。LDH関連のアーティストの方々は、定期的に“西洋の楽曲に日本人としてのアイデンティティを取り入れた音楽”に挑戦されている印象があります。そして、それはLDHが持つ音楽魂の一部なのかなと思っているんです。だから今回の「Highlights」も、アメリカの最先端なダンス・トラックを取り入れつつ、日本人をレペゼンするような“LDH魂”がしっかりと込められているんだと勝手に解釈しています。
——ご自身による「Highlights」リミックスの音楽的テーマは?
ケンカイヨシ 冒頭で述べた情景やインスピレーションを軸に、僕の音楽的ルーツであるアニソンや電波ソング、ボカロ曲、R&B、ヒップホップなどを自由に組み合わせたサウンドになっています。
——まさに、ご自身のサウンドが全開ということですね。
ケンカイヨシ 例えば編曲は、何よりもまずボーカルを最優先する職人仕事になるんです。しかし今回はリミックスなので、この場合、僕はリミキサーが“主役”だと考えます。つまり編曲では僕がボーカルの世界観に寄り添う感じですが、リミックスだと“ボーカルが僕の世界に来てもらう”みたいな感覚なんですよ。
シンセ・リードに合わせてスキャットを重ねる
——セクションごとに次々とアレンジが展開されていきますが、事前に構想を考えているのですか?
ケンカイヨシ まったくないです。直感とひらめきで次のアレンジや展開を決めています。一つ言えるのは“イントロで爪痕を残せ”ということ。耳を引くイントロを作りましょう。
——冒頭00:20〜では独自のイントロが挿入されています。
ケンカイヨシ ボサノバ/サンバっぽいところですよね。シンセ・リードはCASIO MT-210です。このリフに合わせて僕自身のスキャットを録音していて、さらにディストーションをかけたマリンバの音をソフト音源で鳴らしています。何と何の音を重ねていくか、といったところのアイディアをひらめくまでにすごく時間がかかりました。またスキャットとマリンバは、SYNCHRO ARTS VocAlign Ultraを使ってシンセ・リードのタイミングに合わせています。簡単にタイミングやピッチ補正をしてくれるのでお気に入りです。
——00:45〜のAメロではグロウル・シンセが登場します。
ケンカイヨシ 最近、カラー・ベースっていうダブステップのサブジャンルにハマっていまして、現在「人マニア」がヒット中のボカロP、原口沙輔君からIMAGE-LINE Vocodexを薦められたんです。以来、僕はVocodexにすっかり夢中になってしまい今回のリミックスでも使用しています。モジュレーターはワブル・ベースのサンプルで、キャリアはXFER RECORDS SerumとREFX Nexusの2つを同時に鳴らしているんです。Serumではノイズ、Nexusではソウ・シンセという役割分担で、複雑な音色を作っています。
——ビルドアップ後のセクションでは、電子ドラムとスラップ・ベースが印象的です。
ケンカイヨシ ドラムはサンプルです。ソフト・サンプラーのNEW SONIC ARTS Viceで鳴らしています。スラップ・ベースはSPECTRASONICS Trilianで、今回はバチバチな音にしたかったので細かいアーティキュレーションやベロシティは一切調整していません。“デジタル・ファンク”のようなサウンドにしたかったんです。
——ストリングスも良いアクセントになっていますね。
ケンカイヨシ 最近始めたばかりの電子バイオリンをライン録りして、ROLAND SD-50内蔵のストリングスと混ぜているんです。僕の電子バイオリンは“ドヘタ”なのでタイミングやピッチがランダムになるんですが、逆にそれが隠し味になっていると思います。さらに今回はデジタル感を演出したかったので、複製した電子バイオリンのオーディオのピッチを±12オクターブしてレイヤーしました。
原曲へのリスペクトをリミックス中で表現
——2番の頭でジャズ・アレンジになったのが新鮮でした。
ケンカイヨシ ピアノはソフト音源のNATIVE INSTRUMENTS Alicia's Keysで、ウッドベースはTrilian、キックとスネアがXLN AUDIO Addictive Drumsです。生っぽさを追求したかったので、このセクションでは一切MIDIノートをクオンタイズしていません。
——02:15〜はジャージー・クラブをあえて取り入れた?
ケンカイヨシ はい。03:06〜のアウトロもそうですが、僕自身、ジャージー・クラブが好きなので。同時に原曲へのリスペクトも表現したんです。それまで自由にリミックスしたので、後半にはそういったメッセージを入れています。
——全体的に中〜高域の楽器が多く登場しますが、ボーカルは聴きやすいですね。
ケンカイヨシ レゾナンス・サプレッサー/ディエッサーのOEKSOUND Soothe2が大きな役割を果たしています。ごちゃごちゃしたところを自然に、かつガツッと減らしてくれるんです。操作も簡単なので、ビギナーにもお薦めできます。エンジニアのコレナガ タクロウ君に教えてもらいました。
——最後に、リミックスの面白さとは?
ケンカイヨシ リミキサーが主役になれるので、原曲のイメージから脱線しても割と面白ければ許してもらえたり、“カッコいい”ってなるところです。その間口の広さがリミックスの面白さだと思います。オケが変わることで歌詞の解釈も変わることがありますしね。だから、原曲と真逆の発想やアプローチをすることが、リミックスの成功のコツだと思います。
ケンカイヨシのリミックス・アドバイス
▶ イントロで爪痕を残せ! 耳を引く部分を作ろう
▶ リミックスはリミキサーが主役。独自の世界観を持て
▶ 原曲と真逆の発想やアプローチをすることが成功のコツ
ケンカイヨシ
音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoのほか、花澤香菜、CHEMISTRY、Da-iCEなど多数のアーティストへ楽曲提供している。