中3のとき、初めて音楽制作の楽しさや作品が完成したときの喜びを実感しました
LDH RecordsとサンレコのコラボでPSYCHIC FEVER「Highlights」を題材曲にリミックス・コンテストを開催。ここでは、コンテストの審査員長を務めるEXILE SHOKICHIのインタビューをお届けしよう。自身の音楽的ルーツや作曲について、そしてマイクやスタジオ機材のこだわりなどを語っていただいた。
バンド以外の時間はストリートでアコギを弾き語り
——そもそもSHOKICHIさんが、音楽制作に興味を持ったきっかけは何ですか?
SHOKICHI 中学2年生のときに始めたバンド活動ですね。メンバー5人くらいでバンドをやっていたんです。当時はX JAPANのギタリストHIDEさんにとても影響を受けていて、ハードロック系の音楽をコピーしていました。
——そのときのSHOKICHIさんの担当パートは?
SHOKICHI ボーカルです。カラオケに行ったとき、みんなから“うまい!”って言われて“あ、そうなんだ”って(笑)。そこから自然な流れで“自分はボーカル”みたいな感じになっていきました。
——音感などはあったのですか?
SHOKICHI どうですかね……ちょっとはあったかもしれない。高いキーの歌も歌えていたので、周囲の友人たちよりも多少は歌えていたのかも。
——声変わりは?
SHOKICHI 中2の頃には終わっていたと思います。僕、小学校の頃から身長が175cmくらいあって、成長が早かったんですよ。
——作曲を始めたのは、いつ頃でしょうか。
SHOKICHI 中3かな。そもそもアコギを弾いていたのでバンド活動以外の時間はストリートで弾き語りとかしていて。僕たちの時代は19(ジューク)さんやゆずさんたちのようなフォーク系の音楽が全盛期だったので、バンドとは別にそういった音楽もやっていたんです。それで、何となく“そろそろオリジナル・ソングが欲しいよね”みたいな話にバンド内でなって。これは僕の勝手なイメージなんですが、バンドの曲はギタリストが作るものだっていうのが当時あって、ギタリストに曲作ってよってしつこく言っていたんです。でも一向に曲が上がってこないから、“もういい俺が作る”みたいになって(笑)。そこから積極的に曲作りを始めました。
バンドのみんなでお金を出し合ってMTRを購入
——当時はどのように曲作りを?
SHOKICHI 簡単なコードを並べ、そこにメロディを乗せていました。それからバンドのみんなでお金を出し合って6trくらいのMTRを購入したんです。“夏休みは合宿だ!”なんて言って、みんなで曲作りしていましたね(笑)。
——音源の記録媒体は何でしたか?
SHOKICHI CD-Rだったような記憶があります。その当時、MTRからダイレクトにCDを焼くことができたんですよ。初めてのオリジナルCDが出来上がったときは、もう絶世の神曲が生まれたような気分でしたね。“これめっちゃ良くね?”みたいなことを自分たちで言い合っていました。今思うと簡単なコードに変なメロディが乗っているだけなので、絶対良い曲じゃないのは確かなんですけどね(笑)。でも当時の僕らには、とてつもない作品が誕生したような感じで盛り上がっていました。そのときに初めて音楽制作の楽しさや、完成したときの喜びみないなものを知りましたね!
——レコーディングは、どのようにしていたのですか?
SHOKICHI マイクが1本しかなかったので、ボーカルはもちろん、ドラムの録音もそれでやってました(笑)。当時、僕らは“ツー・バスこそが正義”“チャイナ・シンバルは絶対”だと思っていたのですが、ドラムに関してはかなり妥協して録っていた記憶があります。ギターはアンプからMTRに入れていて、MTR内でミックス・バランスを取っていました。
メロディ制作時はAVID Pro Toolsを活用
——現在SHOKICHIさんはボーカルやパフォーマンスだけでなく、作曲やトップ・ラインの制作なども行われていますが、普段はどのような方法で作業されているのですか?
SHOKICHI 制作方法に関してはあまりこだわらないタイプなので、毎回いろいろなアプローチで曲を作っています。例えば先日LIL LEAGUE from EXILE TRIBEの楽曲を作ったときは、音楽プロデューサーのT-SKさんに来ていただいて、ここでステージ・ピアノのNORD Nord Grandを弾きながら一緒にコード進行やメロディを作っていきました。
——スタジオ・セッションしながら作る、というやり方ですね。
SHOKICHI あるときは事前にプロデューサーさんと打ち合わせをしてイメージに合うようなトラックを作ってもらい、そこにメロディや歌詞を乗せていくというケースもあります。はたまたライティング・セッションといって海外の音楽プロデューサーの方を数人お招きして、トラックを選んで一緒にメロディや歌詞を作っていくときもありますね。
——基本的にはコライト形式が多いのでしょうか?
SHOKICHI もちろん、一人でギターやキーボードを弾きながら曲を作るといったこともやっています。なので、曲の作り方は本当にさまざまです。
——スタジオにいないとき、例えば移動中などで良いメロディが浮かんだときはどうしていますか?
SHOKICHI 以前はそれこそICレコーダーを何本も購入して、常に回しっぱなしにしてたこともありましたが、今はAPPLE iPhoneのボイス・メモ機能を使ったりしています。
——スタジオ・セッション時は、どのような録音環境で?
SHOKICHI Nord Grandを弾きながらメロディを考えるんですけど、そのときマイクはTELEFUNKEN M81を使っています。赤色が好きなので一目ぼれでしたね。AVID Pro Toolsのセッション上にいろいろなテイクを録りためていき、“ここはこっちのテイク”“あそこは誰々のテイクを使おう”といった具合に適切なメロディ・ラインを選んでいくんです。
——セッション上だと複数のテイクを比較できますね。
SHOKICHI はい。それに、例えば“Aメロのテイクをアウトロに持ってきたらどうだろう” といったことも自由に試せるのでかなり便利です。視覚的にも分かりやすいですし。
——制作にPro Toolsを導入したのはいつごろでしょうか。
SHOKICHI 2013〜14年くらいかな。このやり方を教えてくれたのが、現在ユニバーサルで楽曲のプロデュースをしていらっしゃるHIRO DOIさんという方でした。彼のおかげで初めて海外の作家チームとのソングライティング・セッションに参加することができ、それがきっかけで現在の制作方法にだんだん移行していったんです。HIRO DOIさんのスタジオではキーボードを向かい合わせにしてセッションを行っていて、その方法が非常に取り組みやすかったので、僕のスタジオでも再現しているんですよ。
サビには最低一つ以上のファルセットを入れる
——曲制作では、主にどの部分から作り始めますか?
SHOKICHI サビから作るときもありますね。でもAメロから作るときもあるし……奇麗に半々だと思います。特にこだわってはいません。
——ご自身が制作に携わられた楽曲、例えばEXILE「BE THE ONE」やEXILE THE SECOND「瞬間エターナル」などでは、特にサビのセクションにおいて地声とファルセットの中間辺りを狙ったようなメロディ・ラインが特徴的です。
SHOKICHI それはかなり意識していますね。特にサビでは、絶対一つはファルセットを入れるようにしています。これは僕なりに分析した結果なんですが、サビが後半で転調し、必ずどこかにファルセットが入っている曲がヒット・ソングに多いんです。
——曲のクライマックス感が演出されるように思います。
SHOKICHI その通りです。とりわけ日本人は、サビで地声とファルセットを行ったり来たりするメロディが好きだと思うんですよ。だから僕が作るメロディには、どこかしらにファルセットを入れていると思います。
——メロディを作る上で、SHOKICHIさんが影響を受けた方はいらっしゃいますか?
SHOKICHI それこそ、ボーカル・ディレクションをよくしていただいているプロデューサーのmichicoさんにはかなり影響を受けていますね。パーセンテージで言うと80%くらいはmichicoさんのやり方かも(笑)。
——具体的には、どのようなところに影響を受けていますか?
SHOKICHI シンガー目線でのメロディ制作です。例えばトラック制作を主とする音楽プロデューサー/クリエイターの方は、メロディに関してあまり細かなリクエストをされないんですよ。でもmichicoさんは、“伸ばす音のビブラートは4回じゃなくて3回にしたい”とか“歌い終わったあとの息の漏らし方もこれくらいで止めたい”といった、シンガー目線での注文が多いんです。
——確かにシンガー目線でのディレクションですね。
SHOKICHI そうなんです。発声の仕方やノウハウ、知識を踏まえた上でメロディを作る方なんですよ。なので近年は、そんな感覚でメロディを細かく考えていますね。ソロでもグループでも、他人の曲でもそれは同じです。
担当するシンガーたちが無理なく歌えるように作る
——LDHのオーディション企画『iCON Z ~Dreams For Children~』ではプロデューサーとして参加されていましたが、グループの楽曲を想定してメロディを制作する際は、ボーカリストの振り分けなども考慮されている?
SHOKICHI はい。なので、たまに当て書きさせてもらうときはボーカリストA/B/C/D/E/Fみたいな感じで振り分けをしています。“Aメロの前半4小節はボーカリストAが歌う、後半4小節はボーカリストBが歌う、BメロはボーカリストCが歌うから低めのメロディ・ラインにしよう”といった感じで、セクションごとにイメージして作れるようになってきましたね。こうすることで、シンガーは無理なく歌えるので後々の修正作業も少なくなるんです。
——合理的なやり方ですね。
SHOKICHI 昔はアドリブで作っていたんですが、最近はこれまでに得た経験や知識をフル活用して作っています。例えば“サビの最初のコードはGだから、始まりの音はここで”みたいな感じ。ちなみにLDHでは社内コンペが基本なんですが、僕が応募するときは名前を伏せて出しているんです。
——声でSHOKICHIさんだと分かるのでは?
SHOKICHI なので、コンペの時は僕だと分からないような仮歌を入れて出すんです。“SHOKICHIさんから提案されたからこれは絶対使わなきゃな”みたいな環境は絶対に作りたくないので。良い曲だなと思ったら、実はSHOKICHIさんの曲だった”の方がいいじゃないですか。僕はメロディを聴いてもらって選ばれたいんですよ。
C-800Gは僕の声をスッと吸収してくれる
——このスタジオは、いつ設立されたのですか?
SHOKICHI 3年前くらいですかね。それまでも僕なりに制作環境を整えてはいたのですが、さまざまな人たちとセッションして曲を作ることも増えたので、より本格的なスタジオを作ったんです。
——真っ赤な壁やインテリアが印象的ですね。
SHOKICHI 音楽スタジオって割と内装はウッディというか、木材を多用するじゃないですか。そんな中、僕は映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』に登場したデス・ロウ・レコードのスタジオをイメージしたんです(笑)。いつかはこんなスタジオを造りたいなあと憧れていたので、めっちゃ満足していますね。スペース的にラージ・モニターは導入できなかったんですけれど。
——ボーカル・ブースは特注ですか?
SHOKICHI いいえ、YAMAHAの防音室Avitecsです。表面だけ別の素材を貼り付けている感じですね。
——本番のボーカル・レコーディングもここで?
SHOKICHI はい。少なくとも僕の作品はすべてここで録っています。大体そのときはprime sound studio formの太田(敦志)さんにオペレーションしていただいてますね。
——お気に入りのマイクは何ですか?
SHOKICHI これについてはもう何年もあれこれ試した結果、5周くらい回ってSONYのコンデンサー・マイクC-800Gに落ち着きました(笑)。
——1周ではなく5周もですか!
SHOKICHI 僕の声との相性もありますが、結論から言うと、いろいろな点でバランスがいいんです。特に癖のないサウンドは気に入っています。理由は、ミックスにおいて自由に変化させることができるからです。あと、倍音の感じも強すぎず弱すぎずでちょうどいいですね。僕の声をスポンジみたいにスッと吸収してくれるようなイメージです。
——子音についてはいかがでしょうか。
SHOKICHI これもバッチリ。別のマイクだと、モニター・スピーカーで聴いたらめっちゃいいのにiPhoneのスピーカーで聴いたら子音が耳に刺さるときがあるんですが、C-800Gで録ると適度な出音になるんです。なので、レコーディング時のメイン・マイクについてはいろいろ変えてきましたが、今はC-800Gがしっくりきています。
——ほかには、どのようなマイクが好きですか?
SHOKICHI パワー感が欲しいときはMANLEY ReferenceCardioidですね。金色のReference GoldやビンテージのNEUMANN U 47も使っていた時期があります。
コアなSHOKICHIサウンドもお楽しみに
——今年はSHO HENDRIX名義で、4年ぶりのソロ活動をスタートされたそうですね。
SHOKICHI EXILE SHOKICHI名義におけるやりたい音楽っていうのは、ここまででもいろいろやれてきたのかなと考えています。ここら辺で心機一転、EXILE SHOKICHIの持つポップな感じではなく、もっとカジュアルでフットワークの軽い感じ……例えばジャズ・クラブに行ってパッと弾き語りできるような、そういった曲をたくさん出したいなと思っていますね。
——“EXILE SHOKICHI”とはまたひと味違った、新しいサウンドがSHOKICHIさんから期待できそうです。
SHOKICHI やっぱりEXILE SHOKICHI名義だとポップなイメージがあると思うので、一度それを取っ払い、新たな音楽にチャレンジしたいと考えているんです。人生一度きりなので、思い切って新しい名義でチャレンジしてみたいなって。
——それこそ、7月にはSHO HENDRIX名義でリリースされたソロ曲「草花と火山の物語」は、ジャジーなRHODESを軸としたR&Bでした。
SHOKICHI しっとりした曲ですよね。NAOtheLAIZAさんとRyuichi Kurehaさんと一緒に制作しています。現在ソロ・アルバムを制作中なんですが、多分みんなびっくりするくらいポップではないです(笑)。キャッチーな曲はプロデュース・ワークとしてもやっているので、こっちでは思いっきり逆方向に振ってみたいなと。なので、コアなSHOKICHIサウンドも楽しみにしていてください。
——今後はEXILE SHOKICHIとしての活動もありつつ、SHO HENDRIXとしてのソロ作もリリースしていくということですね。
SHOKICHI はい。SHO HENDRIX作品も続けつつ、プロデュース・ワークもめちゃくちゃ頑張っていきたいなというふうに思ってます。昔から音楽プロデューサーっていう存在に強く憧れがあって、特に松尾潔さんはそうですね。ああいう方になれたらいいな。
——SHOKICHIさんは、松尾さんのどのようなところに憧れているのでしょうか。
SHOKICHI 松尾さんとお話ししていると“文化人”というか、めちゃくちゃしゃれの効いたワードがたくさん出てくるんですよ。例えば“ヒップホップの現場がクラブだとすると、R&Bの現場はベッド・ルームだ”っていう(笑)。あと、T.Kuraさんとmichicoさんにもずっと前から憧れています。頭の中の音楽を自在に具現化し、それがヒットになっていく様は素晴らしいです。またアトランタにも移住するなど、生き様もカッコいいですよね。なので、将来そういった存在になりたいなあっていうイメージはあります。
——卓越した音楽プロデューサーになる上で大切なポイントは、何だと考えますか?
SHOKICHI これはT.Kuraさんからいただいた言葉なんですが、“優れた音楽プロデューサーになりたいんだったら、とにかく1曲でも多く作ること”だそうです。とにかく作る。作って作って作って、毎日自分自身をアップデートしていくこと。いまだにその言葉が強く印象に残っていますね。だから僕も曲を作って作って作って、歌詞も書いて書いて書き続けています。そうするうちに、その部分に関するアンテナがどんどん伸びていくんですよ。すると身の回りのあらゆるところに曲や歌詞のヒントがあふれていることに気付くようになります。大げさに言うならば、空中に音符が浮かんでいるのが見えてくる感じ(笑)。もう、すべてが音楽になっていくんです。皆さんも、ぜひ音楽漬けの毎日を送ってください。