シトナユイ 〜デュア・リパに影響を受けたマルチインストゥルメンタリスト/アーティスト

シトナユイ 〜デュア・リパに影響を受けたマルチインストゥルメンタリスト/アーティスト

曲の始まりから終わりまでを通して、リスナーに映画1本見たくらいの感動を与えたい

今回登場するのは、3月に大阪音楽大学ミュージック・クリエーション専攻を卒業したばかりのアーティスト/作編曲家、シトナユイ。バイオリンやフルート、ギター、ベース、ピアノ、ドラムなど多数の楽器を操り、R&B、ソウル、ファンク、エレクトロといった音楽ジャンルを自由に行き来する。ここでは、3月に発売した最新EP『MUSEUM』の話を交えながら、彼女の制作環境やこだわりについて伺ってみよう。

【Profile】大阪を拠点に活動するアーティスト/作編曲家/マルチインストゥルメンタリスト。2023年3月に大阪音楽大学ミュージック・クリエーション専攻を卒業。幼少期からピアノやバイオリン、フルート、ギターのほか、バレエやストリート・ダンスなどを習う。洋楽の雰囲気を意識した楽曲制作が得意。

 Release 

『MUSEUM』
シトナユイ
(Trigger Records)

インスピレーションを得るためにZOOM V3を使う

■スタジオについて

 コロナ禍がきっかけで、それまで学校で受けていた授業をリモートでやることになり、レコーディングも行える音楽制作部屋を急きょ自宅に設けることになったんです。このとき、サンレコのプライベート・スタジオ特集に載っているさまざまなスタジオを参考にしました。また、各機材のセレクトは楽器店の店員さんにお薦めされたものを購入しています。このスタジオでは作曲/アレンジ/仮歌録りを行っており、EP『MUSEUM』のほとんどはこのスタジオで制作。ボーカルの本番レコーディングは、学校にあるスタジオで行いました。部屋の隅には電子ドラムのROLAND TD-07KVを置いていて、これでドラムのMIDIを打ち込むこともありますね。また壁面のうちの一つは鏡張りになっているので、ダンスの練習にも使っています。

APPLE MacBook Proをメイン・マシンとし、APPLE Logic ProとAVID Pro Toolsをインストール。ソフト音源はLogic Proに付属するもののほか、NATIVE INSTRUMENTS Kompleteを用いるそうだ。マスターにはIZOTOPE Ozoneを挿し、Master Assistant機能を参考にしているという

APPLE MacBook Proをメイン・マシンとし、APPLE Logic ProとAVID Pro Toolsをインストール。ソフト音源はLogic Proに付属するもののほか、NATIVE INSTRUMENTS Kompleteを用いるそうだ。マスターにはIZOTOPE Ozoneを挿し、Master Assistant機能を参考にしているという

スタジオの角に設置した電子ドラム、ROLAND TD-07KV

スタジオの角に設置した電子ドラム、ROLAND TD-07KV

■DAW

 DAWは、APPLE Logic ProとAVID Pro Toolsを使っています。学校ではPro Toolsを使っていましたが、ラフを書いたり、MIDIを打ち込んだりするような作業に関してはLogic Proの方が使いやすいと感じたので、これらを使い分けているんです。コンピューターはAPPLE MacBook Proを使用しています。Logic Proを導入することになった決め手の一つとしては、MacBook ProとLogic Proとの相性が良いという理由もありますね。現在はPro Toolsでレコーディングを行い、オーディオ・データに書き出したものをLogic Proに取り込んでからアレンジやミックスを行っています。

MIDIキーボードのM-AUDIO Oxygen 61

MIDIキーボードのM-AUDIO Oxygen 61

■オーディオ・インターフェースとマイク周り

 オーディオ・インターフェースはSTEINBERG UR-RT2で、ギターやボーカルなどを録っています。コンデンサー・マイクはAUDIO-TECHNICA AT2020です。当時、店頭にあるポップに“人気”と書いてあったので、それを信頼して購入しました(笑)。実際に使用してみたところ、自分の声との相性が良かったので満足しています。自分の声は女性としては低い方になるので、高域をしっかり録れるAT2020を用いることでバランスが取れるんです。デモ録りから本番録りまで使用していますね。また、アレンジの際はインスピレーションを得るためにボーカル・プロセッサーのZOOM V3を使うこともあります。コーラス・エフェクトや、ハーモニーを生成してくれるところがお気に入りです。

オーディオ・インターフェースのSTEINBERG UR-RT2

オーディオ・インターフェースのSTEINBERG UR-RT2

コンデンサー・マイクはAUDIO-TECHNICA AT2020を使用

コンデンサー・マイクはAUDIO-TECHNICA AT2020を使用

ボーカル・プロセッサーのZOOM V3

ボーカル・プロセッサーのZOOM V3

■モニター環境

 モニターは、もともと電子ピアノ用に使っていたスピーカーのYAMAHA MSP3を使用しています。友人の薦めで導入したAUDIO-TECHNICAのインシュレーターが効果的で、特に低域の音質が向上しました。ヘッドフォンはSONY WH-1000XM4と、MARSHALL Mid Bluetooth。WH-1000X M4は多くの人が所有しているモデルなので、これで作業すれば自分の意図する音像をしっかり伝えられると考えています。これら2つのヘッドフォンの使い分けについてですが、普段の制作やミックス・チェックにはWH-1000XM4を、ロックや生楽器が登場する曲のリスニングにはMid Bluetoothを用います。APPLE iPhoneに付属するイアフォンを、最終チェックに使うこともありますね。なるべく一般リスナーの環境で確認するようにしているんです。

モニター・スピーカーはYAMAHA MSP3。底面にはAUDIO-TECHNICAのインシュレーターを設置する

モニター・スピーカーはYAMAHA MSP3。底面にはAUDIO-TECHNICAのインシュレーターを設置する

左から、ヘッドフォンのMARSHALL Mid BluetoothとSONY WH-1000XM4

左から、ヘッドフォンのMARSHALL Mid BluetoothとSONY WH-1000XM4

曲の世界観や設計図をノートに細かくメモしておく

■インスピレーションと曲作りの手順

 自分は映画や本などからインスピレーションを得ることが多く、まずは曲のイメージを決めるためにリファレンスを探します。よく参考にするのはデュア・リパで、彼女はダンス・ミュージックからラテン・ミュージック、ディスコ、バラード、オーケストラ、ヒップホップまで幅広い音楽ジャンルを乗りこなしているからです。制作では、サビから作ります。サビのメロディを考え、それに合うコードを付け、ビートやアレンジを詰めていくんです。自分は、リスナーに1曲を通して、映画1本見たくらいの感動を与えたいと考えているので、毎回曲の世界観や設計図をノートに細かくメモしています。後々のアレンジやラフ・ミックスで方向性に迷ったときにこのメモを見返せば、曲を作り始めたときの自分はどんなことを考えていて、どんなことを表現したかったのかを思い出せるんです。迷ったら、常に原点に立ち戻るというのがモットーです。

■サンプル素材について

 自分の周りにいるクリエイターの中には、イメージに合うサンプルをSpliceで探す人も居ますが、自分の場合、探すよりも作った方が早いので、こういったサービスを使ったことがありません。頭の中に浮かんだ音は、実際に演奏して再現する方が圧倒的に早くて簡単なんです。

■グルーブのこだわり

 ビートをループ再生しながら、キックやスネアのMIDIノートの位置を、一日中調整していることがあります(笑)。ドラム・パーツの音色も、納得いくまでこだわっています。

■音源について

 基本的にはLogic Proに付属するソフト音源か、NATIVE INSTRUMENTSのソフトウェア・バンドルKompleteが多いです。これらでラフ・アレンジを作ったら、自分で弾き直すこともありますし、サックスやベースといった一部の楽器は専門のミュージシャンに演奏してもらうこともあります。特に今回のEPでは、プレイヤー起用を積極的にチャレンジしたことが新鮮でした。

■今後の展望

 国内だけでなく、海外の音楽シーンにも進出したいと考えており、特に台湾やマレーシア、韓国などアジア圏の音楽シーンに興味があります。また、アーティストのプロデュースや楽曲提供など、自分が中心に立たない形での音楽制作にも挑戦していきたいと考えていますね。

シトナユイを形成する3枚

「ニュー・ルールズ」(『デュア・リパ(デラックス・エディション)』収録)
デュア・リパ
(ワーナーミュージック・ジャパン)

 「当時、劇伴作曲家を目指していた私が、歌モノの世界に入るきっかけになったアーティスト。私の音楽のリファレンスです」

 

「ゴー・ウィズ・イット feat. ヴィック・メンサ」(『エゴ・デス』収録)
ジ・インターネット 
(ソニー)

 「彼らは、シンプルなアレンジの中で気持ちいいグルーブを出す天才です。“音の引き算”が必要なときに参考にしています」

 

「Cyberspace Love / WONK」(『MONK’s Playhouse』収録)
ヴァリアス・アーティスト
(ユニバーサル)

 「この曲は、音色や曲展開、コード進行などがツボに刺さります。モード・ジャズ的な要素がたまらない一曲です」

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