ある程度、可能性にリミットがあった方がクリエイティブになれる
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、ベルリンを拠点に活動する謎に包まれたプロデューサー、プリティー・スニーキー。2017年、バナナの皮が目印の“スタンプ系”レーベルとしてリリースを開始。ダビーでローファイかつ変則的なビートが話題となり注目を集める。今年9月には、フィールド・レコーディングを多用した共作アルバム『Koldd』を発表したばかり。
キャリアのスタート
キャリアと呼べるものが始まったのは、初めてレコードを出した2017年です。14歳の頃からバンドでギターをやったり、ヒップホップのビートを作ったりと、音楽制作そのものはもう30年近くやっています。10代の頃はスケーターだったのですが、けがをきっかけに高校の授業で習ったSTEINBERG Cubaseでビート・メイキングを始めたんです。その後SAEインスティテュートでエンジニアリングを学び、2009年にハンブルグのレコーディング・スタジオで働きはじめましたが、そこが閉鎖したことを機に2011年にベルリンに移住しました。ベルリンのクラブでも、裏方として数年間働きましたね。
制作機材の変遷
最初に触れてから、しばらくCubaseを使い続けていました。2011年頃、コンピューターの使いすぎで腕がけんしょう炎になったため、ハードウェア中心の制作に移行し、それからはSAEで学んだAPPLE Logic Proを録音/編集用に使っています。自分で構築したサンプル・ライブラリーを用いたDAW上での制作もさんざんやりましたが、コンピューター上では“やれること”が多すぎて、何をやっているのか自分でも分からなくなるんです。それもあってだんだんと生演奏に近い方法で制作するようになり、ある程度可能性にリミットがあった方がクリエイティブになれるということが分かりました。2011年から少しずつ機材を買い集め、今は自分がやりたいことに必要なものはそろったと感じています。
制作の手順
まず、異なる長さのビート・シーケンスを複数組みます。それらのループを同時に再生することでランダムなフレーズを作り、少しずつほかの要素を足していきます。その際、録音時にどんなメロディを乗せられるかイメージしながら肉付けしていきます。基本的な要素が準備できたら、そのループを走らせながらメロディ部分を演奏し、ワンテイクで録音します。それを聴き直してみて、一番良いフィーリングがあった部分を切り抜いて楽曲として完成させる、という手順ですね。こういうやり方だと、生々しくラフな感じになるのですが、その雰囲気が好きなんです。僕は、完璧に洗練された音楽はあまり好きではありません。スキなく作り込まれたものより、予測不可能な部分が残っている方が、そのカオスの中に魔法のような瞬間が生まれたりすると思うからです。何かしらの“ハプニング”が起こるので、自分も飽きないですしね!
自分のビートで特にこだわっているところは?
既成の音は使用しないということですね。自分で生成した音か録音した音、もしくはエフェクトを加えて加工したサンプルしか使いません。すべて自分が作った音だと、自然と曲に個性が出ますし、出来上がったときの満足度が違うんです。
ビート・メイカーを目指す読者へのアドバイス
最初のうちは、何を使うかであったり、どういう方法で作るのかはあまり気にせず、身近にある楽器でジャムってみることがお勧めです。そうやって音楽を演奏しているうちに、“自分の感情が音楽を通して伝わる”という手応えが得られるときが来るでしょう。そこからが長い道のりになりますが、このタイミングで自分がどういう方法でどんな音を使うべきかということを考えていけばいいと思います。自分の得意なことや長所が徐々に分かってくると思うので。また、使用する音をイチから自分で作るということもお勧めです。
SELECTED WORK
『Pretty Sneaky』
Pretty Sneaky
(Private Stress)
今年の7月にリリースした、ソロ作品としては最新の4曲入りEPです。100%このスタジオで制作しています。