入魂の1曲をずっと作り続けるより、200曲作る方が絶対にいい
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、ミラノを拠点に活動するイタリア人DJ兼プロデューサーのピエゾだ。約10年前から少しずつダブステップなどUKベース・ミュージックの影響を強く受けた楽曲をリリース。2016年からは自身のレーベル“Ansia”を運営し、今年はフェスティバル『rural』の出演で初来日を果たすなど、活躍の場を広げているアーティストだ。
キャリアのスタート
10代の頃、連れて行ってもらったイタリアのレイブでバカデカいサウンド・システムやサブウーファーで音楽を“体感”することを知り、それは自分にとって魔法が起きたような体験でした。いわゆる“Freetekno”というムーブメントで、地元にそういう“トライブ”があったんです。そのシーンにものすごくのめり込んで、レイブでライブをするために160BPMくらいの4つ打ちの曲を作っていました。その後2009年にあるフェスティバルでDigital Mystikz(Mala & Coki)を初めて聴いて衝撃を受け、4つ打ちへの興味がサブベースに変わりました。同じ頃、大学でコンピューター工学を専攻し、オーディオのDSP(デジタル信号処理)などを勉強していたので、数学的にも音楽に関わっていました。卒業後、イギリスのブリストルにあるMODAL ELECTRONICSというシンセ・メーカーに就職して、2014~17年の間ブリストルに住みました。“Livity Sound”やKahn & Neekの全盛期で、それに刺激を受けて僕も自分のレーベルを始めました。
制作機材の変遷
ブリストルに住んでいた頃に一番大事だった楽器はDAVE SMITH INSTRUMENTS Tempestで、“Ansia”の最初の3枚は、もう丸ごとこの楽器の音です。ここ1年ほどは音のエディットによりこだわるようになったので、最近の数枚のレコードは、ほぼコンピューターだけで作っています。
ビート・メイキングの手順
ループやサンプルの巨大なコレクションがあるので、まずはランダムな音を使って何かしらビートを組んでみます。それを何かパターンが浮かび上がるまで繰り返す、いわばジャクソン・ポロックのスタイルですね。その形状/パターンから曲の完成イメージを描き、それに近づけていくんです。メロディ部分は不得意ですが、既存の西洋音楽的なアプローチから脱するためにものすごく長いエフェクト・チェインに通して原型を留めないくらい加工を施します。最近のAnsiaのリリースはすべてそうやって作っています。
ビート・メイキングのだいご味
やはり、“ゾーン”に入れることですよね。僕は神経痛持ちなんですが、ゾーンに入ると、そういう体の痛みなんかも忘れて、脳のいい部分が広がります。ある意味スピリチュアルな体験です。いつもそのゾーンに入れるわけではないですが、訓練を続けていれば、自分でその状態に近づけていくことはできると思っています。
自身の最新作や、制作面で特に印象に残っているトラック
最新作に収録の「Skinner」は、通常楽曲を仕上げるのに何カ月もかかる僕が、1週間ほどでものすごくスムーズに完成させることができた曲でした。ちなみに、今までで一番時間がかかった曲はAnsiaからリリースした『Odd Hooks EP』収録の「Sensory Overdraw」という曲で、2年半かかりました(笑)。
ビート・メイカーを目指す読者へのアドバイス
作るプロセスそのものを楽しむことができれば、その結果として出来上がる音楽も良いものになる、ということですかね。ありきたりですけど。あとは、とにかく数を作ってみるということですね。入魂の1曲をずっと作り続けるより、200曲作る方が絶対にいい曲ができます。それだけやれば、自分のプロセスを見つけられますから。
SELECTED WORK
『Cyclic Wavez EP』
Piezo
(Nervous Horizon)
「Skinner」は実はミラノの友人のレーベルから出す予定でしたが、TSVIがとても気に入って、Nervous Horizonから出すことになりました。