“less is more(少ないほうがいい)”という美学が大切
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、フランス出身で、現在はロサンゼルスを拠点に活動するキーボード・プレイヤーの、“Ghost”ことデイヴィッド・ジルバーマンだ。昨年、ブギー/ニューディスコのレーベル“Star Creature”から7インチ・レコードをリリースし、話題を呼んでいる。
キャリアのスタート
音楽的な家庭で、まず祖母に勧められて、5歳からクラシック・ピアノを9年間くらい学んだんだ。あるとき、西海岸のDJの影響でファンクの7インチを掘る現象がヨーロッパにも広まって、そこから僕は1970年代のRHODESのサウンドが大好きになった。ロイ・エアーズ、ハービー・ハンコックなどの影響でビンテージ・シンセに興味を持つようになって、10代の頃からジェームス・ブラウンなどのカバーを演奏するバンドで活動していたんだけど、その頃からクラシック・ピアノをやめて、DJやターンテーブリズムにもハマったね。
ビート・メイキングを始めた経緯
2013年にロサンゼルスに移住して、デイム・ファンクが主催していたFunkmosphereというイベントに遊びに行くようになった。そこから1980年代のファンクやブギーにのめり込んで、自分の制作でも1980年代のディスコ、ブギー、エレクトロのサウンドを取り入れるようになったんだ。フランスに住んでいた頃は、バンドで作品をリリースしたことはあったけど、ソロでトラックをリリースするようになったのは、LAに来てからなんだ。僕が最初にリリースした曲は、XLミドルトンとのコラボレーション「Can’t Help The Way I Feel」だった。2014年から、エジプシャン・ラヴァーのツアーとレコーディングでキーボード奏者として参加するようになったんだけど、彼から学んだことは多い。彼は1983年からずっとROLAND TR-808とJupiter-8、OBERHEIM Matrix-12などのハードウェア・シンセだけでトラック作りをしている。少ない機材を使って、大きな存在感のあるサウンドを生み出す方法を教えてくれたんだ。
ビート・メイキングの手順/使用音源
まずはNATIVE INSTRUMENTS Maschineでビートを打ち込む。土台ができたら、それをAPPLE Logic Proに移して、すべてのアレンジを詰めた後にシンセ・ベースを録音する。RHODES Stage Piano 73 Mark Iを使うときは必ずリバーブをかけているんだ。1980年代のサウンドの曲を作るときは、シンセ・ブラスの音色も大事。シネマティックな雰囲気を出すために、パッド、ストリングス、ホワイト・ノイズなどを使って味付けもしている。ソフト音源で気に入っているのは、GFORCE SOFTWARE Minimonsta、Oddity3、Virtual String Machineをよく使ってる。最近特に好きなのはAUDIOLOUNGE E Funk Synthで、1980年代のクラシックな雰囲気のシンセの音がたくさん入っているんだ。
ミックスのアプローチ
プラグインはなるべく少なくしていて、それぞれのトラックにコンプレッサーを使うことはほとんどない。マイケル・ジャクソン「スリラー」のエンジニア、ブルース・スウェディエンを尊敬しているんだけど、彼はなるべくコンプレッサーを使わないようにしていると聞いたんだ。
読者へのメッセージ
20年以上の音楽活動で、ある程度の知識と経験を積んだけど、まだまだ勉強中という気持ちなんだ。エジプシャン・ラヴァーから学んだのは、“less is more(少ないほうがいい)”という美学。シンプルなシンセの音色を重ねるだけで、予想できない複雑なサウンドにもなるし、最低限の必要な音を必要な場所に入れるようにすることで、新しいサウンドが生まれる。だから、僕はその美学を大切にしているんだ。
SELECTED WORK
『Cosmic Ride』
Ghost x MdCL
(Mashibeats)
マーク・ド・クライヴ・ロウと制作したGhost名義での作品。ブロークンビーツ、シネマティック・ファンクを融合させた宇宙的なサウンド。