優れたハーモニーと隙間(スペース)を作ることが重要です
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、オランダ出身で現在はベルリンを拠点にDJ兼プロデューサーとして活躍するコンドゥクだ。2018年にアルバム・デビューし、そのトリッピーで個性的なリズム展開のテクノ・サウンドが評価され、ドナート・ドジー主宰のSpazio DisponibileやDJ Nobu主宰のBittaなどのレーベルから作品を発表。来日も複数回果たしている。
キャリアのスタート
音楽を始めたのは、両親の影響が大きいです。父はもともとトルコの民族音楽家で、ダンサーだった母と出会ったのちにオランダへ移住し、ジャズをやるようになりました。ですから私の家族は音楽を重要視していて、私も子供の頃からピアノを習っていたんです。しかし、楽譜を読んだり教わった通りに弾くのがあまり得意ではなく(笑)、10代でベースを始めてバンド活動もしていました。そのうち、ロックよりも電子音楽に興味を持つようになり、18歳からDJをやるようになるんです。このときABLETON Liveを初めて触り、ビート・メイキングにだんだん取り組むようになっていきました。2017年、私は大学院で写真を学んでいたのですが、その頃にはすっかり電子音楽にのめり込み、2018年にデビュー・アルバム『Kıran』をオランダのNous'klaer Audioからリリースしたんです。
ビート・メイキング・ツール
ビート・メイキングの主役はLiveです。最近は8ボイスのデジタル・ポリフォニック・シンセ、ELEKTRON Digitoneをシンセ・リードやパーカッションなどに使うこともありますが、基本的には全プロセスをコンピューター上で行います。コンピューターで制作することに慣れているせいか、コンピューターのキーボードとトラック・パッドがあれば十分で、MIDIコントローラーの必要性を感じたことがありません。昨年ABLETON Pushを購入しましたが、これはどちらかというとライブ・パフォーマンス向けで、ビート・メイキング時になくても私の場合は問題ないですね。ちなみに、最近導入したのはNEUMANNのモニターKH 120 Aです。
ビート・メイキングの手順
テンプレートはなく、ほとんどの場合はまっさらな状態から始めます。まずドラム・パターンを組み、その上に上モノを乗せていくという順番です。最終的にはドラム・パターンを変えることもあります。同じことを繰り返したくないので、毎回決まって使うソフト音源というものはありません。EP全体のイメージや方向性をあらかじめ決めることはありますが、それ以外はほとんどアイディアを持たずに作業に取り掛かることの方が多いですね。一方、私はDJとしても活動しているため、DJセットに組み込むためのトラックを作る場合もあります。最近だと、テクノからドラムンベースへ移行する際のつなぎ用のトラックを作りました
ビート・メイキングのこだわり
各要素を高域/中〜高域/中〜低域/低域ごとにバランス良く配置すること、そして優れたハーモニーと隙間(スペース)を作ることが重要です。そのため、楽曲全体のバランスを見て余分な要素を取り除いていくプロセスを踏みます。また、アレンジをシンプルにとどめつつ各要素を豊かに、そして伸びやかに仕上げることが私の音楽の強みだと思いますので、そういった意味ではエフェクト処理も重要です。ディレイだけでも新たなメロディが生まれることもありますから。
ビート・メイカーを目指す読者へのアドバイス
1曲の中にたくさんの要素があると混乱してしまいますし、人間の脳はそんなに多くの要素を一度に把握することができません。大体の楽曲は、5つほどの要素で成り立っています。アレンジをシンプルにすることで楽曲の本質が見いだせるでしょう。
SELECTED WORK
『Glimmer』
Konsudd
(Amenthia Recordings)
アー・スッドというアーティストとパンデミック中に共同制作したEP。彼の強みは、モジュラー・シンセを使って変わった音を作り出すことなんです。