表現したい音楽と相性のいいシンセが何かを知ることが大切
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのはシカゴ出身で、現在はロサンゼルスを拠点とするビート・メイカー/アーティストのジェレマイア・チュウだ。シンセ・サウンドをふんだんに使ったアンビエント・ミュージックを得意としている。近年はヴィオラ奏者マルタ・ソフィア・オノールとのコラボ作『Recordings from the Åland Islands』を発表し、話題を呼んでいる。
キャリアのスタート
子供の頃からピアノとバイオリンを習っていて、高校からギターを演奏するようになった。そのときの仲間がシンセやリズム・マシンを持っていて、それで電子音楽に興味を持つようになったんだ。あと、僕はシカゴで育ったから、トータスやザ・シー・アンド・ケイクなどのポストロック系バンドの存在も大きい。ほかにはマイルス・デイヴィスやスティーヴ・ライヒ、ポール・ジョンソン、ダフト・パンクも聴いていて、いつのまにかロック、ジャズ、エレクトロニックの境界線が曖昧になっていることに気付いたんだ。
機材の変遷
最初に入手したのは、CASIOのキーボード。僕がまだ子供の頃だ。マルチトラック・レコーダーを搭載していたため、それでレコーディングやオーバー・ダビングの基礎を学んだよ。その後、友人が持っていたROLAND MC-505で遊んでいるうちに、いつのまにか電子音楽に興味を持ち、KORG MS2000、ROLAND Juno-106、TR-606などを手に入れた。2013年には、友人からMAKE NOISEのモジュラー・シンセ・システムを購入した。当時、モジュラー・シンセに特化したブランドと言えば、MAKE NOISE、INTELLIJEL、DOEPFER辺りが有名だったと記憶しているよ。それ以降、僕はモジュラー・シンセの世界にのめり込み、モジュラー・シンセを使ったライブ・パフォーマンスの機会も増えたね。モジュラー・シンセはコンパクトながらも、多彩なサウンドを作り出せるところが気に入っているよ。
現在のスタジオにある機材について
ROLANDが作るシンセの音色やフィルターの効き具合が特に気に入っている。このスタジオにある機材の中で“ビンテージ・シンセ”と呼ばれるものについては、大抵僕が高校生のころに購入したもので、当時ROLAND Juno-60やJuno-106は、150〜200ドルくらいで入手することができたよ(笑)。今は値段がとても高騰しているよね。今このスタジオには、僕が本当に好きな機材だけを置いている。もちろん、中には売ってしまって後悔しているものもあるけど。僕は、自分がどんなサウンドが好きなのかを分かっているし、自分が表現したい音楽と相性のいいシンセが何かを知っているんだ。だから、数ある機材の中で何をキープしておくべきかが明確なんだよ。
音楽制作のメイン機材
ELEKTRON Digitakt DDS-8とOctatrak MKIIがメインで、主にMIDIシーケンサーとして活用しているよ。サンプルはスタジオにあるシンセや生楽器を録音したもののほか、自分でフィールド・レコーディングしたものなどを使うんだ。もちろん、モジュラー・シンセを取り入れることもある。最終的にはABLETON Liveで編集するんだけど、基本的にはハードウェアで曲作りする方が好きだね。Liveでは打ち込みをしないし、ソフト・シンセもほとんど使わない。ただし、自分でミックスするときはLiveの付属プラグインを使っているね。
読者へのメッセージ
良い楽器/機材というのは、人によって違う。高価なものを所有しているからといって、必ずしも良い結果を生み出すことができるわけじゃない。実際に触れてみて、その使い方を理解し、なおかつ自分自身の音楽性と親和性が高いかどうかが大切なんだ。
SELECTED WORK
『Recordings from the Åland Islands』
ジェレマイア・チュウ&マルタ・ソフィア・オノール
(International Anthe)
オーランド島での即興演奏を録音し、その素材をアレンジして作った作品。その島での体験とストーリーが、この一枚に凝縮されているんだ。