DMC JAPAN FINALレポート
技術の高さと個性でネクスト・レベルへ
8月24日に渋谷WOMBLIVEで開催された『DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIP 2024 FINAL supported by Technics』(以下DMC)。ターンテーブリストの熱い戦いを審査員としてジャッジしてきたのでレポートします。
DMCは、1人6分間ずつのプレイで順位を付けるシングル部門と、トーナメント形式で優勝を決めるバトル部門に分かれています。
まずはバトル部門。強力なベテランたちが優勝候補として名を連ね、そこにルーキーたちが挑戦していく構図でした。やはりベテランは強いですね。リズム・キープ力で明らかに差が出ました。4人の優勝候補たちが順当に準決勝へ。かなり際どい準決勝でしたが、決勝はDJ Bahn VS DJ NOLLI。エレクトロをビート・ジャグリングとスクラッチで奇麗に再構築していくBahnに対し、ヒップホップ中心にさまざまなテクニックで展開するNOLLI。どちらも優勝と言えるほどの互角でしたが、僅差でNOLLIの優勝となりました。この2人は個人的には、NOLLIの技術の幅広さと玄人でも次の展開が予測しにくいオリジナリティに軍配が上がったように思いました。
オリジナリティ、つまり個性というのはDJに限らず全アーティストにとって最も重要なこと。既存の技術の高さに個性が合わさった瞬間、ネクスト・レベルが生まれると思います。
シングル部門は初出場&初優勝の偉業
続くシングル部門は、初出場のDJが多く、誰が勝っても初優勝という状況。10代や20代も多く、次世代の才能たちが躍動しました。
その中で優勝を勝ち取ったのは、なんと“初出場、初優勝”という日本では20数年振り?の偉業となったDJ SORA。慣れないバトルの現場でミスしていくDJが多い中、彼の6分は非常に安定していました。お客さんを楽しませるためにプレイしたと話していた通り、あおる仕草や表情も含め、完全に自分のゾーンに入り会場を巻き込んでいました。初出場でここまでのプレイは素晴らしいです。
本番1発勝負でミスをしないというのは本当に難しいこと。場数をこなしてメンタルを鍛えるのも大事ですが、SORAのプレイは構成的なうまさもありました。ミスしにくい比較的ベーシックな技術でうまくグルーヴを作り、構成していく能力に長けていたと思います。
2位のヒラテマリノや3位のDJ Kaedeも高難易度の技術で素晴らしかったし、3人のポイント差は6点以内の僅差なので、誰が優勝してもおかしくない名勝負でした。
WORLD FINAL(世界大会)は10月にパリで開催。日本代表となったSORAとNOLLIには存分に楽しんできてもらいたいです。あそこはターンテーブリストの夢の舞台だから。
テクニック解説
クロスフェーダーで音をオン/オフ
今回はクロスフェーダーを使用した基本的なスクラッチを紹介します。ミキサーの手前真ん中にあるクロスフェーダーですが、基本機能として、左右のターンテーブルの音を切り替える機能があります。
例えば左のターンテーブルでスクラッチする場合、クロスフェーダーを右端に振り切ると音はオフとなり、その状態を“クローズ”と呼びます。そこから左に動かすと音が出るようになり、これは“オープン”と呼びます。このオープンとクローズの状態を使い分け、レコードのスクラッチ・ノイズと掛け合わせることで非常に複雑なスクラッチができるのです。
クローズ
↓
オープン
クロスフェーダーを使った最も簡単なスクラッチが、フォワード・スクラッチとスタブ・スクラッチです。レコード側の手は前回のベイビー・スクラッチとほぼ同様の動き。ベイビー・スクラッチには押す音と引く音がありましたよね。この引く音のときにクロスフェーダーをクローズ状態にし、押す音のときにはオープンの状態になるようにすると、フォワード・スクラッチやスタブ・スクラッチになります。
前後に動かすだけの超基本スキル
ここで重要なのがクロスフェーダーの使い方です。まず、親指で音がクローズになるようクロスフェーダーのつまみを押さえます。次に中指と人差し指を使ってつまみの反対側からフェーダーがオープンになるようにたたきます。人差し指はなくても良いですが、中指は1番力が強いので必要です。
このとき、親指側は常にクローズ側へ軽く力がかかるようにしてください。そうすることにより、オープン側へたたいたつまみが勝手にクローズに戻るようになります。このつまみをたたく動作を、ベイビー・スクラッチの押すときに当てはめれば、フォワード・スクラッチやスタブ・スクラッチになります。
クロスフェーダーの押さえ方
フォワードとスタブは、レコード側の押しのとき、手を離すか離さないかの違いで、手を離すとフォワード・スクラッチ、離さないとスタブ・スクラッチになります。通常ベイビー・スクラッチは押しも引きも手を離さないので、最初はスタブ・スクラッチを覚えてみましょう。
フォワード・スクラッチでは手をレコードから離す“リリース”という動作が加わるので、少し難易度が上がります。
そして音にも違いが現れます。フォワードはリリースするので、使っているスクラッチ・ネタ本来の音になるのに対し、スタブは手をついたままなのでスクラッチ音になります。これは実際やると音の違いがよく分かるので、動画をぜひ見てみてください。うまい人はこのフォワードとスタブを自分のタイミングで使い分けたりもします。
いざ挑戦!実践のヒント
組み合わせで複雑なフレーズを構築
フォワード&スタブとベイビーを組み合わせるといろいろなフレーズを作ることができます。例えば、スタブから入り、途中からベイビーに切り替え、またスタブに戻るなど。
このコンビネーションのとき、レコード側の手はずっと一定の動きであることが重要です。クロスフェーダーの変化でベイビーやスタブを切り替え、レコードの押しのとき、手を離せばフォワードになり、ここへさらにベイビーの倍速なども加わると、より複雑なフレーズを生み出せるようになります。こちらも動画にいろいろなコンビネーションを載せたのでチェックしてみてみてください。
練習はベイビーと同様、遅めのBPMから8分音符でスタートし、慣れたら速くしていきます。90BPM以上で倍速ができると、めちゃくちゃカッコいいです。
今回紹介したフォワード&スタブはかなり古くからある基本技ですが、非常に使用頻度が高く、上級者に使われたり、DJバトルでも多用されます。ターンテーブリストになるためにはぜひとも極めておきましょう。
今月のまとめ
クロスフェーダーで音のオン/オフを操る
技の組み合わせで複雑なフレーズに挑戦
動画でチェック
今回紹介したテクニックを、DJ IZOHの実践動画でチェック!
【DJ IZOH Profile】ヒップホップ・スタイルにこだわるターンテーブリスト。世界大会入賞歴多数。2012年世界最大のDJバトル『DMC World Final 2012』優勝。第28代世界チャンピオンに輝く。DJスクール講師、プロ・バスケット・チーム“群馬クレインサンダーズ”アリーナDJとしても活躍中。