DJ IZOHが教えるベイビー・スクラッチ 〜基礎とその魅力を解説|ターンテーブリストへの道

ターンテーブリストへの道 by DJ IZOH

 初めまして、ターンテーブリストとして活動しているDJ IZOHです。ターンテーブリズム=ターンテーブルとDJミキサーを駆使して演奏するDJテクニックは、理解が難しい技術も多く、何をやっているか分からないという声も昔から耳にします。この連載では、謎多きターンテーブリストの技術や魅力が少しでも多くの方に伝わればと思っています。

テクニック解説:ベイビー・スクラッチ

前後に動かすだけの超基本スキル

 今回紹介するスキルは“ベイビー・スクラッチ”です。これはレコードをシンプルに前後に動かすだけのすべてのスクラッチの基本となる技術。初心者の方でもすぐにできるようになる反面、しっかりできないと、より上級のスクラッチはできません。DJミックスで曲をつなぐ際にもよく使われるので、どんなタイプのDJでも覚えておいて損はありません。

 最初は利き腕側のターンテーブルで試すとやりやすいですが、これくらいの基本は両方できないといけません。レコードにタッチする指は親指以外の4本がよいです。レコードにフィットして滑りにくくなります。

 使う音はドラムでもワード・フレーズでもなんでもOKです。フレーズの先頭、つまり音の出始めを手で押さえ、レコードを前に押し出し、今度はフレーズの頭までしっかりレコードを引きます。押すのは簡単ですが、その後の同じ頭まで引いてくる時に注意が必要です。フレーズの頭まで到達していないとか、頭を通り越して無音部分や違うフレーズの部分まで引いてしまうと次の押し出しの音が奇麗に出ません。必ず押したときと同じポイントまで戻るということが重要です。

 ❶基本スタンス 

①レコードは親指以外の4本指でタッチ。2〜3本で触れるよりも、レコードにフィットして滑りにくくなる

①レコードは親指以外の4本指でタッチ。2〜3本で触れるよりも、レコードにフィットして滑りにくくなる

 ❷フレーズ頭を押さえる 

②右はDJミキサー画面で、中央のラインが現在の再生位置。まずはスクラッチをするフレーズの先頭を手で押さえる

②右はDJミキサー画面で、中央のラインが現在の再生位置。まずはスクラッチをするフレーズの先頭を手で押さえる

 ❸フレーズを押し出す 

③続いて、レコードを押さえたまま前に押し出して、フレーズを鳴らす。スクラッチに使う音はドラムでもワードでもOK

③続いて、レコードを押さえたまま前に押し出して、フレーズを鳴らす。スクラッチに使う音はドラムでもワードでもOK

 ❹フレーズ頭まで戻す 

④押し出したあとは、手前に引き戻す。このとき奇麗な音を出すためには、押し出す前と同じ位置まで戻すのが重要だ

④押し出したあとは、手前に引き戻す。このとき奇麗な音を出すためには、押し出す前と同じ位置まで戻すのが重要だ

ビートなし→遅いビート→速いビート

 すべてのスクラッチ練習で言えることですが、最初はビートを流しながらではなく、スクラッチの動作だけをゆっくり練習するのがお勧めです。ビートなしで慣れてきたら、次に、もう1台のターンテーブルで60〜70BPMくらいの遅めのビートを流しながら、そのビートに合うように、1小節の中で8往復(1拍で2往復)、つまり8分音符のタイミングで前後に動かしてみます。さらに慣れてきたら少しずつ速いBPMのビートで練習していきます。

 いきなり速いビートで練習してしまい、逆にゆっくりな速度でうまくできないということがありますが、スクラッチはどんなBPMでもできなければ意味がありません。例えば、140BPMでできれば70BPMのビートで倍速のベイビー・スクラッチができることになり、緩急の付いたプレイが可能になります。

いざ挑戦!実践のヒント

リリースのタイミングが最重要

 スクラッチ終わりは必ずリリースをします。リリースとは、レコードから手を離して曲やスクラッチネタを再生し聴かせることです。つまりDJの基本中の基本動作ですね。本来フレーズをカッコよく聴かせるためにスクラッチをするので、基本的にスクラッチだけして終わるのはNGです。

 リリースのタイミングも重要です。何回擦り、小節の何拍目でリリースするのが良いかよく考え、自分の狙った位置で正確にフレーズを再生できるよう練習してください。特にDJミックスの曲のつなぎ目でスクラッチを入れる場合、このリリースのタイミングが超重要で、ずれるとフロアがシラケてものすごく恥ずかしい思いをします。DJはリズムキープが命なのです。

 難易度の高いスクラッチやビート・ジャグリングでは、リリースがより一層難しく、超上級者や世界チャンプクラスでも、リリースは常に最も重要な技術なのです。

肘関節を使って前腕だけ動かす

 レコードを動かす腕の使い方は、自然にすぐできる人もいればなかなかできない人もいます。レコードを前後に動かすときに使う関節は、基本“肘関節”です。肘関節を使い、肘より先の前腕を動かす意識をしてください。

 腕は肘から前を動かす 

レコードを前後に動かすときは、基本的に肘関節を使い、肘より先の前腕を動かすように意識をすると、素早くスクラッチを行うことができる。肩を軸にしてしまうと、腕を動かすためにより大きい力が必要になってしまい、スクラッチのスピードが出にくくなってしまうので、気を付けよう

レコードを前後に動かすときは、基本的に肘関節を使い、肘より先の前腕を動かすように意識をすると、素早くスクラッチを行うことができる。肩を軸にしてしまうと、腕を動かすためにより大きい力が必要になってしまい、スクラッチのスピードが出にくくなってしまうので、気を付けよう

 ベイビー・スクラッチのスピードが上げられない人は大体この肘関節ではなく肩関節をメインで使ってしまい、前腕より重い腕全体を前後に動かそうとしてしまっています。それだとスピードが出にくいです。これは速いベイビー・スクラッチをするのにとても重要なこと。ちなみに上級者は指の関節も使ったりもしますが、これは結構変態レベルです。

手を動かす幅で音の高低を調整

 手(レコード)を前後に動かす幅の差で音の高低に変化をつけることができます。同じBPMの場合、狭い幅で動かせばスクラッチの音は低くなり、広い幅であれば高い音になります。この調整は初心者の方には少し難しいですが、低い音のスクラッチ音はビートに乗せたときにはっきり聴こえません。

 なので最初は幅をやや広めに動かし、聴いていてちょうど良い音高のスクラッチ音になるように調整して練習してください。

 手を動かす幅と音の高低 

スクラッチの際、レコードを前後に動かす幅の差で音の高低に変化をつけることができる。同じBPMの場合、狭い幅で動かせばスクラッチの音は低くなり、広い幅であれば高い音になる

スクラッチの際、レコードを前後に動かす幅の差で音の高低に変化をつけることができる。同じBPMの場合、狭い幅で動かせばスクラッチの音は低くなり、広い幅であれば高い音になる

 そしてBPMが速くなるほど幅を狭くしていきましょう。BPMが速いのに遅いBPMのときと同じ幅では音が高すぎて聴こえづらくなり、手も疲れてしまいます。音の高低を自在に操れるようになると、同じ技でもよりパンチの効いた音にすることができます。

スクラッチ・ノイズを楽しむ

 こんな感じで今回は基本中の基本、ベイビー・スクラッチを紹介しました。単純な技なので誰でも挑戦できるし、腕の使い方だけなら機材がないところでも練習できます。初心者の方が、人生で初めてスクラッチ・ノイズを鳴らす瞬間は感動するはずです。まずはそのノイズ音を楽しみながら遊んでみてください。

 次回はクロスフェーダーを使ったスクラッチの基本を紹介していこうと思います。

 今月のまとめ 

ベイビー・スクラッチはすべての技の基本
腕の動かし方と動作幅が演奏の良しあしを決める

 

 動画でチェック 

今回紹介したテクニックを、DJ IZOHの実践動画でチェック!
下の動画にアクセスしてぜひ挑戦してみてください。

 

【DJ IZOH Profile】ヒップホップ・スタイルにこだわるターンテーブリスト。世界大会入賞歴多数。2012年世界最大のDJバトル『DMC World Final 2012』優勝。第28代世界チャンピオンに輝く。DJスクール講師、プロ・バスケット・チーム“群馬クレインサンダーズ”アリーナDJとしても活躍中。

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