こんにちは本間昭光です。今回は、このスタジオを作るに当たって、構想段階から相談に乗ってもらったACOUSTIC REVIVEの石黒謙、社長にお越しいただきました。前回登場いただいたEMC設計の鈴木洋さんを紹介してくれたのは石黒さんですし、そもそも知り合うきっかけになったのは、数年前のサンレコの機材レビューでした。そういったところからもいろいろな縁を感じるわけです。ACOUSTIC REVIVEは、読者の皆さんにはおなじみかと思いますが、オーディオ、電源などのケーブルをはじめとした、オーディオ・アクセサリーを取り扱う会社です。僕もサンレコの取材を機に、自分の作業環境におけるアップグレードを図るため、これまでも都度相談させてもらってきました。今回の新スタジオでも、以前から使っていたACOUSTIC REVIVEのケーブル類を活用していますし、新たに導入したアイテムもあるのですが、今回は機材の話だけではなく、僕のスタジオ造りを通して感じたことなどをお聞きしていこうと思います。
今月の1枚
今回のスタジオ造りはみんなが同じ方向を向いていたのが良かった
本間 僕はサンレコの取材を機に、ACOUSTIC REVIVEの製品をいろいろな場面で使っていますが、印象的なのは音の分離の良さです。さらにパワーが落ちない点が素晴らしいと思っています。分離が良くなる製品はいろいろあると思いますが、パワーが落ちないままバシッと前に出てくるというのは、ACOUSTIC REVIVEの特徴かなと。僕らミュージシャンが音楽を録音して再生する上で、音楽的にベストな鳴り方を、単に数値だけではなく、感覚的にも気持ち良く考えて作っていらっしゃるなと感じるのです。石黒さんは、作っている製品に明確な理由をお持ちなのだと思いますね。もちろんこれまでに商業スタジオからプライベート・スタジオまで、数々のスタジオ構築に携わっていて、いろいろな知見をお持ちだったので、今回僕が初めてのプライベート・スタジオを造ると決めたときには、まず石黒さんに構想をお話ししました。まだ物件も決まっていなかったのですが(笑)。
石黒 そうでしたね。本間さんがおっしゃるように、僕もこれまでいろいろなスタジオ造りに関わってきましたが、問題になるのは、スタジオの施工、デザイン、電源、機材など、各業者の方向性が異なってしまうこと。結果、デザインはすごく良いけど音が良くなかったり、コストがかかりすぎてしまったりするのです。もちろん、各業者の方針があるのは理解できますが、いちばん大切なのはクオリティの高い音で録音/再生ができて、素晴らしい音楽が制作できることですよね。そのためにはノイズをできるだけ除去するのが大事で、まず電源の取り方は絶対にしっかり構築した方が良いと。それでEMC設計の鈴木さんを紹介しました。さらに本間さんのつながりからいろいろなプロフェッショナルが集まり、同じ方向を向いて作業して完成させたのが、本当に良いスタジオになった理由だと思いますね。
本間 本当にそう思います。この連載の初回から言っていますが、その道のプロフェッショナルに任せることで、気持ち良く作業してもらえるし、その分、時間もかかりましたが、仕上がりは本当に良いものになると実感しました。僕のこだわりは居心地の良さと、床のヘリンボーンだけでしたから(笑)。
グラミー賞を目指せる楽曲を日本のスタジオでもその環境が作れる
石黒 僕が本間さんと知り合った当時、本気でグラミー賞を目指せるような音楽を作ろうという話をされていましたよね。そういう思いがある方がいる一方で、日本のスタジオや制作環境では無理だという人がいるのが、僕としてはとても残念なんです。確かに日本の電源環境を見てみると、世界最低なんですよ。100Vは日本だけで、台湾が110V、アメリカが117V、それ以外は200V以上。じゃあトランスで117Vに上げれば良いか?と言ったら、そんなに単純な話ではないんですよね。だから、スタジオを造る段階から構築するのが、一番良い結果となると思うんです。後から何かを足せばよいという話ではないんですよね。
本間 僕も今ほどいろんな検証ができていなかった当時は、トランスやホスピタル・グレードの電源タップなど、“音が良くなる”と言われていたものを使っていた時期がありました。でも結局は、聴き手の耳、作り手の耳は人間なので、感性というのが大事なんだなと思うんです。さらにポピュラー・ミュージックなら、歌詞もあるし歌い手の表情も見える。このサウンドはどんな演奏をしているのかという想像もできる。そういった総合的な芸術作品を生み出すには、単純に機材を数字的にクリアさせて使うだけでは、難しいんじゃないかと思うんですよね。何回かグラミー賞を見に行って肌で感じたんです。五感で感じる音楽を。そういう音楽を作るためのスタジオ造りの話を石黒さんから聞いて、機材もアップデートしていったら、自分の音楽の質も上がっていったと実感しました。それがどこまで聴き手に伝わっているか分からないですが、まず自分が作る音楽は、最善の環境を構築した上で、自分の持てる力を発揮させようと、日々、制作作業を行っているわけなんです。
石黒 本間さんの以前の作業部屋から知っているので、環境のアップデートは見てきましたが、日本でも、グラミー賞を狙える環境は作れますよと、提案したのを覚えていますね。環境が理由で、そういう音楽が作れないというのは違うと思っているので、今回は、最初からご一緒でき、本当にベストなスタジオが完成したのではと思っています。
本間 あとは、僕らがどんな音楽を生み出すかにかかっていますね。プレッシャーもありますが、このスタジオから、そういった作品を生み出せたらと思っています。
本間昭光
1964年生まれ。作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。これまでにポルノグラフィティへの楽曲提供、広瀬香美、浜崎あゆみなどの編曲、槇原敬之のライブ·アレンジやバンド·マスターを担当。近年は鈴木雅之、いきものがかり、天童よしみ、木村カエラ、岡崎体育、Little Glee Monster、降幡愛、関ジャニ∞など、様々なジャンルのアーティストを手掛ける。また、音楽番組へのゲスト出演やミュージカルの音楽監督を務めるなど、幅広く活動している