今月はサンレコの中でもこの連載を読んでくださる愛すべきマニアックな皆様と共有したい施設や展示のおすすめを紹介します。たくさん書きたいので、前置きはほどほどに!
YAU 有楽町アートアーバニズム
アーティストと街の交流によるプロジェクト
NPO法人大丸有エリアマネジメント協会、一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、三菱地所株式会社による、アーティストと街の交流からイノベーションを起こすプロジェクト“YAU”。現在制作中の新作舞台で制作を担当している村松里実さん(国際芸術祭『あいち2022』ではスティーヴ・ライヒの公演担当)のご紹介で、東京での打ち合わせ場所として村松さんが所属するYAU STUDIOをお借りした流れで初めて伺いました。
YAUを調べると、連携プログラムの中に『ソノ アイダ』が。美術家のyang02さんの滞在制作中に伺ったことがありました。YAUとかかわりのあるプロジェクトだったんだ〜と思っていたら、ブライアン・イーノ展の中の人だった磯谷香代子さんも、奈良県天川村での展示のキュレーターの林暁甫さんも、隅田川怒涛で和田永さんのライブの制作だった山本さくらさんも、みんなYAUの話をインスタにアップしてるじゃないか。
訪問時は、アート・文化的な視点と実践から“メンタルヘルス”に関する理解や対処、議論を根本的に問い直すことを目的にNY、ベンガルール(インド)、ベルリン、東京の4都市が連携する国際的な文化プログラム『Mindscapes』の成果展示をしていました。そしてちょうど、その広報でかかわっていた元VICE JapanのCEO佐藤ビンゴさんがスナックのママをしていました。打ち合わせ前飲酒不可避。そういえば昔VICEのパーティーで渋谷VISIONのエイドリアン・シャーウッドのライブを見に行ったなあ……。でも今、私とビンゴママはみんなと大都会有楽町のビルの10F。N高の高校生たちもいるし、同席していたYCAM伊藤隆之さんはほかの大人たちと話していて。現在のビルは秋に閉館予定だそうですが、期間限定という背景を持ちながらも無くならない何かが生まれていく様子を見せつけられました。民間である自由度もかなり感じて、採択された劇団は稽古場としてスタジオを占有して使用できるなど、本気で何かを生み出したいけど困っている人たちが相談したら聞いてもらえそうと思える空気を持って(重要)開かれているからこそ人が集まるのだなと、思います。
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
Tomo Kihara + Playfool「Deviation Game ver 1.0」
2023.3.4(土)〜3.26(日)
https://ccbt.rekibun.or.jp/fellows/307
浅見和彦+ゴッドスコーピオン+吉田山「Augmented Situation D」
2023.3.10(土)〜3.21(火・祝)
https://ccbt.rekibun.or.jp/fellows/279
SIDE CORE「rode work ver. under city」
2023.3.18(土)〜3.26(日)
https://ccbt.rekibun.or.jp/fellows/310
デジタル・クリエイティブの創造拠点
昨年10月末、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団が渋谷にオープンしたデジタル・クリエイティブの創造拠点。東京都歴史文化財団は東京都現代美術館や、東京の文化事業のフライヤー右下辺りにある青い三角ロゴでおなじみのアーツカウンシル東京などを運営する団体です。急に渋谷に出現したCCBT、実施されているプログラムや中の人たちを見ると、山口情報芸術センター[YCAM]を想起します。ついに東京にYCAMみたいな場所ができるのか、違うのか?え、ジョン・マエダ、ゴラン・レヴィンの基調講演? ぶっ飛ばしてるー! フェローにはSIDE CORE、吉田山、野老朝雄、一体どこにいくんだろう。先日開催された『ハロー!ラボラトリーズ!Vol.01:ラボで駆動する、世界の文化拠点』では、最近気になっていたアムステルダムのWaag Futurelabについて知れて良かった。創作活動自体だけでなく、社会における文化施設の役割についても理解を深められそうです。
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
毎年発行される歴史の教科書のような場所
耳タコで恐縮ですが、CCBTを紹介するならこちらも載せないと落ち着かない。ICCはNTT東日本が運営し、“コミュニケーション”を軸に科学技術と芸術文化の対話をテーマに活動する文化施設です。メディアの現在(あるべき姿のみならず、批判的な視点も)を知るために通いたい場所。私にとっては毎年発行される歴史の教科書のような場所。と言っても、思考停止してただ覚えるための歴史の教科書ではなく、今自分たちがどの視点にいて、どこに向かおうとしていて、ほかにどんな可能性があるのか、を体感するための基準点がある気がしています。理解できないものでも、現在地を把握する体感としてその感想を持ち帰ることができる。
ICCはさまざまな深さの沼の入り口が用意されている点が秀逸で、メディア・アートって何?という気持ちから入ることもできれば、あの作家はどんなことを考えていたんだろう?という深い疑問もアーティスト・トークで回収できる。HIVEという貴重なアーカイブ資料は、自分の視点をどこに持っていくべきか迷ったときによく見ていて、美大に行ったらこういう授業もあったのかなと思ってありがたく聞いています。ICC初期のアーカイブは、サウンド・アートのレジェンドたちがわさわさと出てきます! 例年6月頃から開催される『ICC アニュアル』、今年もあるといいなー!
アーティゾン美術館『ダムタイプ|2022: remap』
ダムタイプの新作を帰国展で紹介
昨年ヴェネチア・ビエンナーレまで見に行ったダムタイプの新作が、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展としてアーティゾン美術館に! ヴェネチアの日本館はコンクリのかたまりだったこともあり、現地よりも音の印象が強く感じられました。一部超指向性スピーカーも精細に聴こえたので、周囲を通り過ぎるほかの鑑賞者が自分に話しかけてくるような錯覚も……。詳細は対峙した印象を私の文章で方向付けてはよろしくないので気を付けたいのですが、サンレコだからスピーカーのことはつい……。でも、映像や音のクオリティの高さだけに気を取られてほしくない。私がダムタイプの作品を追うのは、作品が持つ社会への投げかけを、より強く伝えるための表現方法の一つとして技術が機能していると思うからです。ヴェネチア・ビエンナーレの会場の日本館(吉阪隆正設計)には会場床のど真ん中に正方形の開口部があり、作品の一部にもなっていたそのボイドの行方もぜひ会場でご覧いただきたいです。内覧会の最後の時間、偶然私一人だけがボイドと向き合う時間ができて、ヴェネチアで作品を見ていた自分をさらに俯瞰で見るような、不思議で大切にしたい体験をしました。ヴェネチアでの展示の様子は、高谷史郎さん、古舘健さん、濱哲史さんが登壇された報告会のYouTubeでご覧いただけます。展示のサウンドには、坂本龍一さんも携わっています。展示期間は5月14日まで(要WEB予約)、学生は入館無料。
私の活動としては、7月に、長野県立美術館で新作を発表するので、展示場所の音環境整備の様子を近々記録します。春なので、外に出たい! ではまた〜!
今月のひとこと:昨年パリでお世話になったチームにサンレコと日本のお菓子を送ろうとしたらフランスにはEMSで食品が送れずそのお菓子を少しずつ食べています
細井美裕
【Profile】1993年生まれ、慶應義塾大学卒業。マルチチャンネル音響を用いた空間そのものを意識させるサウンド・インスタレーションや、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、YCAM、札幌SCARTS、東京芸術劇場コンサートホール、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、羽田空港などで作品を発表してきた。