第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ヨンシー『シヴァー』、デフトーンズ『オームズ』です。
重たく響くシンセなどを筆頭にした
内向的な雰囲気の音作り
ヨンシーは、アイスランドの代表的なポストロック・バンド、シガー・ロスのボーカリストです。その彼が10年ぶりで2枚目となるアルバムをリリースしました。本作はA.G.クックとの共同プロデュースで、ミキサーにはジェフ・スワンを起用しています。
前作『Go』は、明るくリズミカルで前向きな楽曲が多かったのに対して、本作は重たく響くシンセなどを筆頭に内向的な雰囲気の音作りがされています。ただ、シンセとボーカルに深めのリバーブをかけることで独特な浮遊感を出すスタイルは『Go』に通じるものがあります。また本作は曲によって、シンセの直接音のみで収録レベルが+10VUまで振る部分があります。プレイバックのレベルには気を付けながら(笑)、楽しんで聴いてみてください。
楽器よりも歌が奥の方に感じられる
オーセンティックなロック・バンド・バランス
4年ぶりとなるデフトーンズの新譜は、テリー・デイトがミキサーとプロデューサーを兼任した共同プロデュース作品です。ヘビー・メタルの王道的音質をしたリズム隊とギターは、エフェクトがかかった高めのボーカルとうまくすみ分けられています。レベルは大きめですが、各パートの分離と奥行きを保った入れ具合で窮屈(きゅうくつ)に感じさせない点がさすがです。
洋楽でも歌のレベルが大きいロックが増えていますが、本作では楽器よりも歌が奥の方に感じられるオーセンティックなロック・バンド・バランスになっている点と、マスタリング・エンジニアとしてハウィー・ウェインバーグのクレジットを久しぶりに見られたことがうれしかったです。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア
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