第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、サミー・ヘイガー&ザ・サークル『Lockdown 2020』、テイラー・スウィフト『エヴァーモア -デラックス・エディション』です。
リモート録音とは思えない骨太の音色
タイトやワイドなどさまざまに変化させた音場で楽しく聴ける
サミー・ヘイガー&ザ・サークルは、サミー・ヘイガー(vo)とマイケル・アンソニー(b)、ヴィック・ジョンソン(g)、ジェイソン・ボーナム(ds)からなるロック・バンド。新型コロナによる外出自粛中に“Lockdown Sessions”と銘打ち、リモートでカバー曲をセッション、YouTubeに公開してきたものを音源にしました。録音は各自がしていますが、ミキサーには彼らの1stアルバム『Space Between』を担当したジェイメソン・ダーが起用されています。
リモート録音とは思えない骨太の音色は、ミックスでタイトやワイドなどさまざまに変化させた音場で楽しく聴くことができます。収録曲はヴァン・ヘイレンはもちろんのこと、ザ・フーやデヴィッド・ボウイの楽曲のカバーもあり、ロック好きにはうれしい一枚です。
程良い肉感があり温かい音色の歌声と
帯域や音像に被らない絶妙な距離感で配置されたオケ
テイラー・スウィフト9枚目のアルバムは、ザ・ナショナルのアーロン・デスナー、ブライス・デスナー、ジャンク・アントノフとの共同プロデュース。ミックス・エンジニアは前作『フォークロア』に引き続き、ジョナサン・ロウを起用しています。
前面に居るテイラーの歌声は、程良い肉感があり温かい音色。歌の帯域や音像に被らないよう配置されたオケは、押したり攻めたりするわけではなく絶妙な距離感が保たれていると同時に、各パートの演奏感はしっかり出ています。良いあんばいに力を抜いている楽曲は、歌がポツンと孤立しがち。本作からは各パートの距離とセパレーションの操作でうまくまとめ上げて、それを解消する職人技を感じました。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア