第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。今本 修氏の今月のセレクトは、オーランド・ウィークス『ア・クイッケニング』、カリブー『Suddenly』です。
幻想的で壮大な世界観をボーカルとサウンドで表現
コロナ問題で病んだ心を癒やしてくれるような優しさ
ラスト・アルバムが全英1位を獲得したロック・バンド、ザ・マッカビーズのフロント・マン、オーランド・ウィークスが5年の歳月を経てデビュー・アルバム『ア・クイッケニング』を完成させた。最近は子供向け本の著者としても活動していた彼が、父になる自覚から生まれる瞬間までの数々の思いを込めた本作。幻想的で、壮大な世界観をボーカルとサウンドで表現している。レディオヘッドのアルバム『In Rainbows』の電子音をヒントに作ったと公言しているが、その雰囲気にプラスしてシガー・ロスのような世界観も感じ取れる。UKロック好きにはたまらない一枚だろう。そうでない人にも、このコロナ問題で病んだ心をそっと癒やしてくれるような優しさであふれている作品なので、お薦めしたい。
局面ごとに切り替わる展開などすべてが予測不能
全体的にソフトな印象で心の安らぎを感じられる
今年初頭に発表されたカリブーの最新作に遅れて感化されて、ハマっている。カナダ出身のカリブーことダン・スナイスは、ダフニ(Daphni)名義でもダンス・ミュージック・アルバムを多く出しており、盟友フォー・テットとともに活躍しているアーティストだ。今作にもハウスやソウル・テックまでさまざまな楽曲を収録。彼の器用なアレンジ力が存分に発揮されている。グニャッと湾曲したサウンドで聴く者をハッとさせるような演出をしたり、局面ごとに切り替わる展開などすべてが予測不能。しかし全体的にはソフトな印象で、無駄な音などは一切入っていない。これが聴きやすさにつながっており、心安らぐと感じられるゆえんである。
今本 修
【Profile】DOGLUS MUSIK主宰。クラブ・ミュージックを熟知した音作りに定評がある一方、ロックの分野でも手腕を発揮するエンジニア
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