最も有名で成功しているエージェンシーの一つが運営停止
ベルリンで最も人気のある大型クラブBerghainが運営する、ブッキング・エージェンシーのOstgut Bookingが、年内いっぱいで廃業するという。10月6日にクラブ情報サイトResident Advisorは、内部関係者がそれを認めたと報じた。Ostgut Bookingは、ベン・クロックやマルセル・デットマンなど、ベルリンの人気テクノ・アーティストが多く所属しており、もともとはクラブのレジデントDJたちを外部のクラブやフェスティバルにブッキングするために設立された。現在ではレジデント以外のアーティストも多く抱え、28組が所属しているが、それが年内いっぱいで運営を停止するという。
実は筆者は2009年から2015年まで、日本向けのサブエージェント(特定の国や地域だけを担当するエージェント)として、ここのブッキングを手伝っていた。ベルリンに拠点を移してから初めて現地で得た仕事であった。その頃はまだ正式なエージェントは2人しかおらず、最も多いときでもスタッフは5~6名程度の規模で、クラブのある建物の最上階に事務所を構えている。同じくBerghain傘下で2000年代後半~2010年代前半のベルリン・テクノの代名詞であったと言っても過言ではないレコード・レーベル、Ostgut Tonは、昨年の末頃にすでに業務が休止されていた。
そもそも、Berghainやその傘下の各部署は秘密主義的で、内部事情が一般に明かされることは一切無いので、ブッキング業務休止の理由も明かされることはないだろう。しかし、エージェンシーには今年に入ってから新たに5名のアーティストが加わっており、一番最近では7月末に加入したばかりだった。その事実を踏まえると、急に決定されたことであるように見受けられる。
ベルリンはクラブ産業の中心地の一つなので、非常に多くの小~中規模のブッキング・エージェンシーがひしめきあっている。筆者も2018年からあるブッキング・エージェンシーに所属してエージェント業務を始め、2020年からは独立し、個人でエージェント業務をやっている。パンデミック中は最も影響を受けた業種で、廃業した会社や解雇されたエージェントも多い。“最も有名で成功しているエージェンシーの一つ”というイメージの強かったOstgut Bookingの廃業は衝撃的だ。一見すると“元に戻った”ように見えるクラブや興行イベント産業だが、実際は渡航費の値上がりやインフレ、慢性的な人手不足、COVID感染によるキャンセルのリスクなど不確定要素が多く、内情は相当に厳しいことを裏付けている。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている