ドイツ連邦政府が2007年にポピュラー音楽の産業だけでなく、アーティスト個人の支援も目的として設立した非営利団体=Initiative Musik。これまで1,000以上のプロジェクトに財政支援を行っている
非営利団体を通してアーティスト個人を支援
ドイツが1度目のロック・ダウンに突入した2020年の3月後半。ドイツのモニカ・グリュッタース文化大臣は“芸術とは、人間の生存という根本的な問題に向かい合う上で不可欠なものであり、特に今のように確実性が崩壊し、社会的基盤のもろさが露呈し始めている時代には欠くことができないものである”と述べて、世界的に注目を集めた。
先月の本コラムでは11月末までの部分的ロック・ダウンが始まったことを紹介したが、その後筆者の予想通り、執筆時点で2021年1月10日まで延長されている。引き続き文化施設や会場はすべて閉鎖し、ギャラリーのみ“販売店”であるとして営業できている状況だ。ワクチン接種の普及が現実味を持ってきたとはいえ、アーティストのみならず文化セクターに携るすべての者にとって不安な状況が続いている。
そんな中、11月27日にドイツ連邦政府によって発表された2021年度予算では、前年より8,400万ユーロ(約106億円)増しの過去最高額である21.4億ユーロ(約2,700億円)を文化予算として計上した。グリュッタース大臣は“今年の危機を踏まえ予算を上乗せすることによって、我々のコミュニティにとって価値のある仕事をしている文化およびクリエイティブ分野の人々を支援していく”と述べている。そして、連邦政府として、アーティストやジャーナリストといった人々の雇用と、文化の促進に、これまで以上にコミットしていくと約束した。2007年に創設された連邦政府によるドイツ音楽産業の支援プログラムInitiative Musikには、650万ユーロ(約82億円)が割り当てられるという。
モニカ・グリュッタース大臣。大臣着任時の2013年から比較すると、文化予算は50%以上増加したという
Photo:Christof Rieken CC BY-SA 3.0
連邦政府は6月の時点で、10億ユーロ(約1,260億円)規模の文化/メディア・セクター救済プログラムNeustart Kultur(文化新スタート)を打ち出していた。また、そのうちの1.5億ユーロ(約185億円)を、音楽イベント産業に割り当てると発表していたのだ。そして、10月29日にドイツ連邦財務裁判所は、判決でテクノを音楽として認めることで、クラブもコンサート・ホールや劇場と同等の文化施設として扱うことになった。それにより、これまで一般の商業施設と同様、入場料に課せられていた19%の付加価値税が7%に引き下げられることが制定された。
クラブやライブ・ハウスは、その性質上不特定多数が密接する。そのため、文化施設の中でも再開が最も遠い。これだけの支援策があっても、事業を存続できないところも少なくないと思われる。しかし、それでも政府が文化を重んじる姿勢を貫き、具体的な対策を講じてくれていることは非常に心強い。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている
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