グラニュラー/リバース/テープ〜多機能なディレイをBitwig StudioのFX Gridで|解説:荒木正比呂

FX Gridで音を乗算するサウンドメイキング|解説:荒木正比呂

 先月に引き続き、FX Gridを取り上げます。擬似的なグラニュラー⾵ディレイとリバース風ディレイ、それにテープエコーのシミュレートを組み合わせた多機能なディレイを作ってみましょう。特に、グラニュラー⾵やリバース風は、お気に⼊りのハードウェアエフェクト、chase bliss MOODからインスパイアされました。なお、今回も友人のミュージシャン、munero君にたくさん手伝ってもらっています。また、Webサイトにプロジェクトファイルを用意しました。下のリンクボタン、またはこちらのURLからダウンロードして、詳細をご確認ください。

Wavetable LFOでグラニュラー風に リバース風はディレイタイムのモジュレートで

 まずはFX Gridを開き、Audio InとAudio Outの間に、定位を設定するPanとミキサーのMixerをつなぎます。これから作るディレイもこのMixerに接続していきます。では、グラニュラー風ディレイから。

グラニュラー風ディレイ

これから作成するディレイはすべて赤枠のMixerへPanを経由して接続。グラニュラー風ディレイ(画面内ではWavetable Delayと表記)のポイントは黄枠のWavetable LFO。波形表示部分をクリックすると多彩なウェーブテーブルから選択できる。ここではPW Sharpを選び、タイムベースは8分音符、Rateは1.00、Phaseは1°、Phase Shiftは-58°に設定。モジュレーション出力(矢印)は、Long Delay(緑枠)のDelay Timeにマッピング。青枠内のAverageとPushはWavetable LFOの波形をなめらかにするために使用。その出力をMultiply(白枠)でLong Delayの出力と乗算している。乗算した音声はローパスフィルターのLow-passで整えて、Pan→Mixerの順に接続。オレンジ枠のモジュールはOscilloscopeで、AverageとPushを通したWavetable LFOの波形を確認するためのもの
※プロジェクトファイル内最上段の「Wavetable Delay & Reverse Time Delay」トラック参照

 まずAudio InにディレイのLong Delayを接続、ディレイ単位は時間での設定を示す時計アイコンを選択。次にWavetable LFOを配置。波形が表示された部分をクリックして、任意のウェーブテーブルを選択しましょう。ここではPW Sharpを使いました。あとは矢印アイコンをクリックし、Long DelayのDELAY TIMEにマッピング。これによりディレイタイムをトリッキーに変化させて、グラニュラーディレイのような効果を⽣み出すことができます。

 ただ、このままだとLFOの変化が極端なので、Wavetable LFOの出⼒を、信号を平均化するAverageとシェーパーのPushに通し、かけ算モジュールのMultiplyにつないでLong Delayの出⼒と乗算することでマイルドな形にしました。その後、ローパスフィルターのLow-passを経由して、Mixerへ接続すれば完成です。

 続いて、リバース風ディレイ。

リバース風ディレイ

リバース風ディレイ。Audio InにLong Delay(赤枠)を接続し、ディレイ単位は4分音符と“6”を選択(実音から6拍目にディレイ音が鳴る)。LFO(黄枠)を配置して三角波を選び、Phaseを188°の逆相に、タイムベースを4分音符、Rateを4.00に設定した上で、Long DelayのDelay Unit Scaler(緑枠)へ−50%〜+50%へマッピング(実際のマッピング方法としてはDelay Unit Scalerを右端の+50%に設定しておいて、−100%までドラッグする)。これでリバース風のディレイを実現できる。あとはLong DelayとLFOの出力をProduct(青枠)で乗算してLow-passにつなぎ、その出力をPan→Mixerへ送っている。Productは3つ以上の入力を乗算できるので、さらにモジュレーションソースを増やしても面白い
※プロジェクトファイル内最上段の「Wavetable Delay & Reverse Time Delay」トラック参照

 同じくLong Delayを使い、その出⼒は2系統以上の入力をかけ算できるProductへ接続します。ディレイ単位は4分⾳符を選択。次に、LFOを⽤意して三角波を選び、逆相に設定。タイムベースは4分音符、Rateは4.00にします。矢印アイコンをクリックしてLong DelayのDelay Unit Scalerへマッピングし、モジュレーション範囲を−50〜+50とフルレンジで設定して、ディレイ単位を拍単位で動かすとリバース風サウンドが生まれます。LFOの出⼒はAverageを通して前述のProductでLong Delayの出力と乗算。その後は、グラニュラー風ディレイと同じです。このディレイは、疑似的なリバースディレイ音と変調されたディレイ音が交互に鳴る⾮常にユニークなサウンドです。乗算にProductを使用したので、ほかのモジュレーターも接続できます。面白いので試してみてください。

 リバース風ディレイの応用編として、LFOのRateを速くして後段のAverageを取り払い、あえて鋭いノコギリ波にしてみました。この状態でピアノを弾いてみると⾮常に“らしい”グラニュラーディレイ感を出せます。また、Rateの値でディレイ音のピッチを変えられるので、これをよりコントロールしやすくするために、4つの値をクロスフェーダー的に出力できるSelect-4を2つと、信号を階段状に加工するQuantizeというモジュレーターを使って下の画面を作りました。これで上下に5度→1オクターブ→2オクターブとピッチを動かせます。画面の説明を参照して作ってみてください。

リバース風ディレイの発展型

リバース風ディレイの発展型。Averageをカットして、LFO波形をノコギリ波に変更。さらに、ディレイ音のピッチをコントロールするために、モジュレーターのSelect-4(赤枠)を2つとQuantize(黄枠)をFX Gridのデバイス画面にセット。Select-4はクロスフェーダー的に動作する4つの出力を持っている。これらはすべてLFOのRate(緑枠)にマッピングして、一つはピッチを上げる方向で、原音→5度→1オクターブ→2オクターブに相当する値を入力。もう一つはピッチを下げる方向で同様の度数に相当する値を入力している。このSelect-4の出力を選択するスライダーに、Quantizeをマッピング。Resolution(青枠)は4.00(4段階)に設定。さらに、リモートコントロールのノブ(白枠)をQuantizeのInput(オレンジ枠)にマッピング。これによりノブをセンターより右に回すとピッチが5度→1オクターブ→2オクターブと高くなり、左に回すとピッチが5度→1オクターブ→2オクターブと低くなる。各ピッチに相当するRateの設定は下の画面の通り(数字が小さいほうから5度、1オクターブ、2オクターブとなり、マイナスの値がピッチを下げる方向の設定)
※プロジェクトファイル内上から2トラック目「Reverse Time Delay 発展」を参照

各ピッチに相当するRateの設定

各ピッチに相当するRateの設定

Mod Delayのモジュレーション機能とシェイパーでテープエコーを再現

 次は、マルチヘッドのテープエコーをシミュレートします。

テープエコー風ディレイ

テープエコー風ディレイ。ディレイモジュールにはMod Delay(赤枠)を採用。ディレイ単位は4分音符と1を選んでおき、前段にLogic Delay(黄枠)を接続して、Logic Delayの上下方向の矢印を選んで、その下の数値でディレイタイムを設定する。テープエコー的なピッチのズレは、LFO(緑枠)で演出。三角波を選んで、Skewノブを0.00%に。出力をMod De layのディレイタイムをモジュレーションする入力であるDelay Mod Inに接続する。これでDelay Mod Inのノブを回すとディレイ音のピッチが変化する。LFOは青枠内の波形の周期をコントロールするMirrorと波形のカーブを変形させるBendを通してMultiplyに接続。Mod Delayの出力はテープエコー的なひずみ感を得るためにWavefolder(白枠)を通して、やはりMultiplyに接続する。その出力をPan→Mixerへ送れば完成。なお、Label(オレンジ枠)はテキストを入力してラベルとして利用できるモジュール。ここでは“Head #1”と名前を付けた。マルチヘッドのテープエコーを再現するためには、このセットをすべて選択してコピーして増やしていけばよい(Logic Delayへの入力はAudio Inから並列につないでいく)
※プロジェクトファイル内上から3トラック目「Tape Echo」を参照

 まずAudio In→Logic Delay→Mod Delayを接続。Logic Delayには3つの⽮印がありますが、⼊⼒信号を持続的にエコー処理したい場合は、⼀番右の⽮印を選択し、その下にある数字でディレイタイムを設定します。さらにピッチのズレを再現するためにLFOを⽤意。波形は三角波を選んでSkewを0.00%に設定し、出力はMod DelayのDelay Mod Inへ送ります。またLFOの出力には波形を加工するMirrorとBendの各モジュールも接続。ここを通った信号はMod Delayの出力とMultiplyで乗算してPan→Mixerと送られます。これでMod DelayのDelay Mod Inのつまみを回すとピッチが変化します。原⾳に対して少しピッチをずらす程度の設定で効果は⼗分だと思いますが、思い切ってピッチを変えてみるのも素材によっては⾯⽩いかもしれません。

 次はサチュレーションの再現。Shaperカテゴリーにはひずみを生み出す多彩なモジュールがそろっています。元の素材になじみやすいひずみを選ぶとよいでしょう。ここではWavefolderを選択。これをMod Delayの後につなぎ、その出力を前述のMultiplyに接続して、Pan→Mixerへつなげばテープエコーが1セット完成。これをLabelで“Head #1”と名付けます。あとは、マルチヘッドにしたいので“Head #1”を複製して“Head #2”“Head #3”“Head #4”と増やしていき、それぞれのLogic Delayの数値を変えていけばOK。

 最後にオプションとして、“Head #1”にディレイ音を細切れに再生するエフェクトを追加してみました。

テープエコー風ディレイのオプションエフェクト

テープエコー風ディレイのオプションエフェクト。赤枠はテープエコーのMultiplyで、その出力をRecorder(黄枠)に入力。Recorderの録音と再生のコントロール入力にGateを接続し、オンにしたステップで録音/再生を行っている。ステップ数はインスペクターで設定可能。録音用Gate(緑枠)のPhase InにはLFOの出力をMirrorとBendで加工した信号を、再生用Gate(青枠)のPhase InにはLFOの信号をそのまま入力。さらにSelect In(白枠)を用意し、RecorderからフィルターのRaspと音量調整用のAmplifyを通った出力、そして前述のMultiplyの出力(つまりテープエコー風ディレイのサウンド)を入力して、Button(オレンジ枠)のクリックでどちらを出力するかを切り替えられるようにしている
※プロジェクトファイル内上から4トラック目「All」を参照

 まず信号を録音/再生するモジュールRecorderを用意して、“Head #1”のMultiplyからの信号を入力します。またRecorderの録音と再生をコントロールするためにGateを2つ用意。これは黄色の四角が1つのステップを示していて、クリックでオンにしておくと信号を出力し、オフにすると出力されないという仕様。Bitwig Studioを再生したときに動作するモジュールで、シーケンサー的に利用できます。ここでは、Recordの録⾳側に接続したGateのステップで録⾳が行われ、再⽣側のGateのステップで再⽣が実行されます。また、各Gateのステップが動く速さはLFOとLFO→Mirror→Bendからの出力で変調しつつ、BendとRecordの出力はMultiplyで乗算して、フィルターのRaspと音量調整用のAmplifyを経由し、Select Inへ送っています。Select Inは2つの入力信号のどちらかを選択するもので、もうひとつの入力には“Head #1”のMultiplyからの出力を接続しました。Select Inの動作はButtonのクリックでコントロールしています。

 ここまでの工程で、最終的に出来上がったのが下の画面です。各ディレイの出力をMixerで自由に組み合わせて、素材を作りこむ武器として使ってもらえたらと思います。

上からグラニュラー風ディレイ、リバース風ディレイ、テープエコー風ディレイ2台、そして右下にテープエコー風ディレイのオプションエフェクトを配置した例

上からグラニュラー風ディレイ(LabelにはWavetable Delayと表記)、リバース風ディレイ(Reverse Time Moduleと表記)、テープエコー風ディレイ2台(Tape Echo Head #1、Head#2と表記)、そして右下にテープエコー風ディレイのオプションエフェクト(Tape Echo Option)を配置した例。それぞれの出力をMixerで組み合わせることで、さまざまなサウンドを作り出すことができる
※プロジェクトファイル内上から4トラック目「All」を参照

 今回は、⾮常に多機能なディレイエフェクトを作りました。ほかにも選択できるモジュールはたくさんあり、このプリセットは⾳源との組み合わせで無限の可能性が⽣み出せると思います。ぜひ、いろいろ試してみてください。

 

荒木正比呂

【Profile】作曲家、電子音楽家、音楽プロデューサー。2009年にfredricson名義でPreco Recordsよりエレクトロニカアルバムを発表。ポップスバンド“レミ街”のリーダーとしても知られ、シンガーソングライター中村佳穂の楽曲制作では、作編曲~サウンドプロデュースまで深くコミット。CM音楽の制作なども手掛ける。現在は三重県の田園地帯に暮らしながら、UAのツアーメンバーとしても活動中。

【Recent work】

『ラヴの元型』
AJICO
2024年3月にリリースされたAJICOの3年ぶりとなるEP。荒木は表題曲の「ラヴの元型」を含む3曲のサウンドプロデュースで参加している。


【Recent work】

『stunned』
munero
今回の記事で、多くの部分の執筆に協力してくれた友人で、岐阜を拠点に活動するミュージシャンのmunero君が2023年にリリースしたEP

 

 

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:69,300円|エデュケーション版:47,300円|12カ月アップグレード版:29,700円
Bitwig Studio Producer:34,100円
Bitwig Studio Essentials:17,600円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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