自分で曲を作ってみたい!とDAWに興味を持ち始め、サンレコ編集長を質問攻めにしまくっているシンジ君。今回も編集部に行ってみると、そこにはちょうど取材から戻ってきた編集長が……
アナログ=連続、デジタル=段階
シンジ 編集長、こんにちは!
編集長 ああっ! ビックリした!(このオフィス、アポイントメントが無いと入れないはずなんだけどな……)
シンジ この前、DAWについて聞いたじゃないですか? DAW=Digital Audio Workstationだ、って(第1回参照)。
編集長 そうだね。
シンジ で、そもそも“デジタル・オーディオ”って何だろう?と思ったんですよ。だって、僕らがスマホで聴いているApple Musicとか、Spotifyとか、デジタルじゃないですか? でも、弾いているギターとかベースとか、(なんとなく)アナログじゃないですか? よく分からなくなってきて。
編集長 なるほどね、デジタル・ネイティブなZ世代らしい話だな。「パソコンやスマホの中のデータがデジタル、CDは形があるからアナログ」と思っている人もいるらしいからね。
シンジ ええと、CDはデジタルですよね?
編集長 うん、CDは盤面にデジタル・データとして音が記録されている。
シンジ それはなんとなく知ってるんです。でも、コンパクト・エフェクターとかも、同じ形でアナログとデジタルがあるじゃないですか?
編集長 うん、あるね。いったん“オーディオ”の部分は置いておくとして、アナログは連続的な表現、デジタルは段階的表現、というのがよく言われる説明だ。例えば、ギターやベースのボリューム・ノブはアナログ的変化。スマートフォンの音量みたいに+ボタンを1回押すと一定の分だけ音量が上がるのはデジタル的変化。
シンジ にゅ〜、って音量のバーが上がりますけど。
編集長 それは“段階を感じさせない演出”なだけで、上がる量は一定。だからデジタル。とりあえず、“デジタル・オーディオ”の“オーディオ”の話をする前に
アナログ=連続的
デジタル=段階的
と覚えておいてほしい。
耳で聴く音は空気の振動=アナログ
編集長 さて、例えばアコースティック・ギターは弦の振動がボディで増幅されて聴こえるけど、耳には空気の振動として伝わり、それが鼓膜を振動させる。
シンジ それは知ってます。
編集長 でも、エレキベースとかエレキギターとかは、弦の振動が電気的に増幅されて、アンプのスピーカーを震わせる。つまり、弦の振動→電気信号の波→空気の振動、となる。これらは全部、オーディオ的に言えばアナログ領域の話。
シンジ デジタル・オーディオはいつ出てくるんですか?
編集長 まあまあ、焦らずに。例えば、最近また流行しているアナログ・レコードは、文字通りアナログだけど、その振動というか、レコードに波がそのまま溝に掘られている。顕微鏡でないと見えないけど、針がそれを拾って、電気的に増幅したりして、スピーカーを鳴らす。昔の蓄音機は、電気を通さずに振動をそのままラッパ型のホーンで増幅して、音にしていた。
シンジ ……ということは、僕らが耳で聴いている音は、全部空気の振動。
編集長 そう、耳で聴く音は空気の振動だからアナログ。逆に言えば、デジタル・オーディオはデジタルのままでは音として聴くことはできない。SFみたいに、首に端子があって、ケーブルでコンピューターとつなげて、脳と直結して……みたいなことができるようになったら話は違うけれど。
シンジ 『攻殻機動隊』の世界ですね。
デジタル・オーディオの細かさはビット/サンプリング・レートで表す
シンジ じゃあ、デジタル・オーディオといっても、最終的にはアナログになるわけですよね?
編集長 そう。その逆もそうで、君が演奏したギターとかベースの音は、コンピューターに取り込む際にデジタルになる。なぜならコンピューターはデジタルしか理解できないから。コンピューターは、0と1のデータの集合ですべて表す。写真もそうだよね。
シンジ デジカメの写真をめっちゃ拡大すると、ギザギザが見えてきますね。
編集長 実際のノブはどれだけ近寄ってもギザギザにはならない。音にも同じことが言える。音は、空気の振動とか電気の波なので、2次元的な表現をするとフラットな状態から上下に動く。それを“波形”と呼んでいる。その波形をデジタル……0と1の集合で表していくんだ。
編集長 これはコンピューターの画面に表示された、バス・ドラム一発分の波形だけど、実際の音はここまで言ったようにアナログ。それをコンピューターに取り込む段階でデジタルになる。“ビット/サンプリング・レート”という言葉は聞いたことがある?
シンジ この前、お借りしたサンレコ読んでいたらやたら出てきましたよ。なんか……数値が大きい方がいいのかな?と思ったんですけど。
編集長 まず、サンプリング・レートは、時間軸上の精度を言う。アナログ信号として入ってきたものを、1秒間に何回測るか。CDの場合は44.1kHzだから、1秒間に44,100回。
シンジ つまり、階段の1段分の幅は1/44,100秒。
編集長 いい例えだ。その階段1段分の高さの位置はビットで表す。0と1のひとかたまりが1ビット。これが2ビットになると00、01、10、11という4つ=2の2乗が表現できる。CDの場合は16ビットなので、一番上から一番下まで2の16乗=65,536段階。
シンジ サンレコを見ると“24ビット”というのも書いてありますね。
編集長 24ビットは2の24乗なので16,777,216段階。16ビット≒6万5千と24ビット≒1,677万では、日本円にしたらワンルーム・マンション1カ月の家賃と一括購入くらい違う。
シンジ (なんだ?その例え……)そう聞くと結構違いそうな気がします。
編集長 ビットと円を比較するのはナンセンスだけど、ここでポイントは、その数字が増えた分だけ細かくなるということ。デジタルは“段階”って言ったけど、段階が限りなく小さくなれば、それは連続したものに限りなく近付く。現実世界の階段が1mm単位まで細かくなると、滑り止めのついたスロープみたいになるように。
シンジ じゃあ細かい方がいいわけですね。
編集長 理論上はそうだけど、サンプリング・レートやビットが大きくなると、データ量も増えるし、コンピューターでの処理もその分大変になる。それに、ものすごいハイスペックなデジカメで撮ったつまらない写真と、構図とかをちゃんと考えてスマートフォンで撮った写真、どっちがいい?みたいな話でもある。
シンジ つまり、ちゃんと考えて録音しろ、と。
編集長 その上で理論上のスペックが高い方がいいんだろうけれどね。
AD/DAコンバーターはいろいろなものに入っている
編集長 さて、そのアナログからデジタルへの変換をする機材や機能をADコンバーター、逆にデジタルからアナログへの変換をする機材をDAコンバーターと呼ぶんだ。そのままですが。両方一緒にするとAD/DAコンバーター。
シンジ また新しい機材の名前が出てきた……。
編集長 まあ待ちなさい。例えば、君が使っているそのBluetoothイヤホン。
シンジ はい、300円ショップで買いました。よく無くすので、安いやつにしてます。
編集長 (そんなに安いのか……)そこにもDAコンバーターが入っている。通話用マイクがあるなら、その後段にADコンバーターもある。だってスマートフォンが扱うのは全部デジタル・データだから。
シンジ ……あ、なるほど。
編集長 ただ、パソコンに内蔵されている音声入出力端子とか、そういう部分にあるAD/DAコンバーターはそこまでクオリティの高いものではない。ノイズが乗ったりしやすいし。
シンジ 確かに、ベースのプリアンプからパソコンのマイク入力に入れたりとかはちょっと考えにくいですね。
編集長 そこで、音楽の録音や再生用として作られているのが、オーディオ・インターフェース。
シンジ あー、なるほど。デジマート見ていたらいっぱい出てきました。1万円くらいのものから数十万円のものもありますね。
編集長 価格差は、入出力数も関係しているけれど、当然オーディオ性能の差もあったりする。選び方の話はまた別の機会にしよう。ちなみに、よくいろいろな機器に内蔵されているAD/DAチップの型番が書かれているけれど、それが同じだからといって同じ音ではない。
シンジ “〇〇製真空管搭載”というアンプやエフェクターの音が全部一緒ではないのと似ていますね。
編集長 そう。あくまでパーツの一つだから、ある程度のクオリティの参考情報にはなるけれど、1つのチップだけで音は決まらないんだよね。特にAD/DAコンバーターはアナログとデジタルのハイブリッド……まあ、機能を考えたらそうだよね。だから、周りの回路の組み方で性能や特徴が変わってくる……という話を、昔チップのメーカーを取材したときに聞いたよ。
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