注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回はハイエンドなレコーディング/マスタリング機材をリリースするPRISM SOUNDが開発したAD/DAコンバーター、Dream ADA-128をピックアップ。同社のフラッグシップ・モデルかつ最高クラスの製品という本機について、ミックスウェーブの長岡飛雄氏と、メディア・インテグレーションの佐々木一成氏に話を聞いた。
Photo:Takashi Yashima(メイン画像、モジュール拡張カードのセッティング画像)
Dream ADA-128
PRISM SOUNDの最高クラスの製品ラインにのみ冠される“Dream”の称号を受け継いだ、同社最新のAD/DAコンバーター。2Uサイズで、アナログ/デジタル入力または出力を128chまで拡張可能だ。フロント・パネルには、電源/スタンバイ・ボタンのほか、タッチ・パネル操作に対応する5インチのディスプレイを搭載。なお販売形態は、拡張カードの種類や数によってさまざまなため、詳細については問い合わせていただきたい。
●まずPRISM SOUNDとはどういったメーカーですか?
長岡 1987年に設立され、プロからコンシューマーまでのオーディオR&Dコンサルティング・エンジニア・グループとして活動を開始しました。1992年からオリジナル製品の開発を手掛けるようになり、現在はハイエンドのレコーディング、マスタリング分野に特化しながら、LyraやTitanといったオーディオI/Oも開発しています。もともとは測定器や測定用ソフトウェアも開発していたという背景もあり、彼らが一番重要にしているのは、“Accuracy”つまり“正確性”です。音をそのまま入力して、そのまま再生することをスローガンに掲げていて、世界中の音楽スタジオや放送局などで製品が採用されています。
●PRISM SOUNDの製品を求めるのは、どういったユーザーが多いのでしょうか?
佐々木 特に音へのこだわりを持っている方が多いかなと。ほかとは違うサウンドを手に入れたいという方に選ばれているように思います。
●製品サイトにて、“Dream”という名称は同社の最高クラスの製品にのみ冠されると目にしました。
長岡 まさに夢のような製品が現実に登場した、というような意味合いです。前モデルで現行品でもあるADA-8にも付いていましたが、Dream ADA-128にもPRISM SOUNDを代表するフラッグシップ・モデルとして冠しています。
●入力または出力を最大128chまで拡張可能など、ADA-8からは大きく進化しています。
長岡 昨今の環境に対応しているという側面が大きいですね。AVID Pro Toolsでの制作や、Danteなどのデジタル接続との親和性も考慮して設計されたんだと思います。
●その入出力についてはフルモジュラー方式が採用されていますが、これはどういった方式なのでしょうか?
長岡 API 500シリーズのLunchboxのようなもの、と言えばイメージしていただきやすいのではないでしょうか。Dream ADA-128にはディスプレイやクロック・ジェネレーターが備わっていますが、単体でオーディオの処理ができるというものではなく、モジュールとなる拡張カードを挿すことで、用途を自由にカスタマイズできます。I/Oモジュールとしては、8chのアナログ入力、8chのアナログ出力、8chのAES/EBU入出力、ホスト・モジュールとしてはPro Tools|HDXやDante接続に対応するカードを用意しています。今後、拡張カードの種類はさらに増える予定です。
●フルモジュラー方式の利点は?
長岡 普段は16イン/16アウトで作業されている方が、例えば、Dolby Atmosの制作をやってみたいと思った際に、カードを追加すれば簡単に入出力を拡張できます。特に商業スタジオなどのある程度固定された環境に対して、I/Oをどう適応させるかということを考えると、1台でさまざまにカスタマイズ可能なのはとても利便性に優れていると思います。
佐々木 競合する製品でも、同じような方式のものはあまり見ないですね。今の時代的なところもあると思っていて、昔は8〜16chのI/Oで済んでいたのが、コンピューターのスペックが上がったことで多くの入出力が可能になり、さらに多チャンネルが必要なDolby Atmosなどのイマーシブ・オーディオも登場しました。用途の幅が大きく広がり、何にでも対応できるようにするとなると、やはりモジュール式というのが合っているんでしょうね。
●本体の機能についても伺います。ディスプレイはタッチ・パネル式になっていますが、どういった操作が可能ですか?
長岡 ルーティングやクロックといった、デジタル・オーディオを扱う上で最も重要な部分設定のほか、ボリューム・メーターの表示など、基本的には画面上からすべての機能にアクセスできます。内蔵しているコンピューターはブラウザ−・ベースで動いているので、ルーターなどを介せばコンピューターやタブレットからもリモートで操作可能です。
●クロックにはQCLOCKSという機構が採用されています。
長岡 簡潔に言うと、マスター・クロックが4つ搭載されているというものです。カードごとにアサイン可能で、例えば3つの入力系統のカードそれぞれに、48kHz、96kHz、192kHzと割り当てることができます。スタジオ間で、サンプリング・レートが異なる素材の受け渡しが可能というように、どちらかと言えば映画などの大規模なシステム環境において非常に便利な機能です。ほかにも、マスタリングにおいて異なるサンプリング・レートで同時に書き出すことが可能になったりと、さまざまな使い方が想定されています。
●音質には、どういった特徴がありますか?
長岡 PRISM SOUNDは、製品の特徴として、“トップエンドが伸びる”“豊かな低域”といったアナウンスは一切していません。音質はユーザーが判断することと考えていて、あくまで重要視しているのは“Accuracy=正確性”。AD/DAコンバーターを通っているけれども通っていない、というサウンドの実現にこだわっています。これまでの製品でも、通した際の音の変わらなさや波形の正確性について、さまざまなスタジオでフィールド・テストを行うなど、かなりの回数のデモを実施しています。
●測定器のメーカーであったというのも、正確性を重視する姿勢に関係していそうですね。
長岡 実際のところ、ハイエンドなAD/DAコンバーターは、PRISM SOUND製品がダントツに飛び抜けているというわけではなく、どのメーカーの製品も非常にハイレベルなものになっていると思います。ただ、特に音楽の世界では“神は細部に宿る”とも言いますし、最終的に仕上がるサウンドはツールによって大きく変わってくるものですよね。各メーカーが何を重視しているかという点において、PRISM SOUNDとしては正確性を選択しています。
●ユーザーは、音質面についてはどのように評価しているのでしょうか?
佐々木 他社が新しい製品を発表して、“これまでより解像度が上がった”“レンジが広がった”というようなサウンドを表現しているとしたら、PRISM SOUNDはちょっとベクトルが異なるというか……。言葉では表現しづらいのですが、正確性はもちろんありつつ、音楽的だと感じる部分も確実にある。その点を感じ取れる方にはすごく評価が高いです。面白いメーカーだと思います。
長岡 もしユーザーの方が“低域のひずみが少ない”と評しても、別に間違っているわけでないです。先述しましたが、ユーザーに判断を委ねているというスタンスですからね。私も個人的には非常に音楽的だと感じていて、特に低域のひずみはすごく少ないと感じています。
佐々木 正確性を突き詰めた音だと音楽的につまらなくなってしまいそうな印象ですが、意外とそうではないんですよ。
●そういったPRISM SOUNDの技術を、最高クラスに結集したのがDream ADA-128ということですね。
長岡 ベンチマークとして、“史上最強”を掲げています。スペックや、拡張性に関してもそうですね。モジュールの拡張カードは、現在開発中のMADI接続対応のカードなど、さまざまな形式をリリース予定です。
●最後に、どういったユーザーにお薦めですか?
佐々木 究極に音質を突き詰めたい方や、ハイレベルなシステムを組みたいという方にぜひお薦めしたいです。
長岡 正直な話、初期投資としては非常に高額だと思います。ただ、2001年に発表されたADA-8が、いまだに現行品であるということが、長期にわたって使える製品ということを表しています。カードと本体が分かれたモジュール式だからこそメインテナンスもやりやすいでしょうし、音質にこだわりながら良いものを長く使っていただきたい。まずはRock oNの店頭などで、ぜひ体験してもらいたいですね。
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