フックアップが運営するオンライン・ストアbeatcloudから、注目のソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのはMELDAPRODUCTIONからリリースされたMDrumStripです。beatcloudの製品Webサイトにもあるように、“世界標準のドラム・サウンド・クオリティを短時間に”実現できるアコースティック・ドラムに特化したオールインワン・ソリューション・プラグイン。モダン・ロックやメタルのドラム・サウンドを仕上げるのにも向いています。Mac/Windowsで動作し、AAX/AU/VST/VST3プラグインとして使用可能です。それでは詳しく見ていきましょう!
マルチEQを備えるMATCHINGノブ
MDrumStripは全部で9つのプラグインから構成されており、それぞれを“デバイス”と呼びます(上のメイン画像)。9つのデバイスを一つずつ解説するとページが足りなくなってしまうため、今回は主要なBASS DRUMデバイスを中心に解説していきます(画面①)。
全デバイスに共通するのは画面両端にあるセクション。左端にあるセクションには9つのデバイス名が表示され、クリックするとそのデバイスに切り替わります。一方、右端にあるセクションには入力/出力メーターや画面表示切り替えボタン、電源ボタン、ヘルプ・ボタンなどを搭載。画面表示切り替えボタンを押すと、画面両端にあるセクションを格納でき、表示をすっきりさせることができます。
BASS DRUMデバイスの画面上段には、左からAUTO INPUTボタンをはじめ、INPUTノブ、MATCHINGノブ、MAXIMIZERノブ、SATURATORノブ、OUTPUTノブを配置。これらも全デバイスに共通する仕様です。TOM BUSデバイスとPARALLELデバイス、MASTERデバイスだけはMATCHINGノブを搭載していません。
AUTO INPUTボタンはMDrumStripの要となる機能で、操作手順としては一番目に触るパラメーターです。このボタンをオンにすると、MDrumStripは入力信号を解析して適切な入力ゲイン値を自動調整してくれます。これと同時に、MATCHINGノブで用いるためのEQスペクトラム・プロファイルも自動生成します。
MATCHINGノブは、内蔵したEQスペクトラム・プロファイルと入力信号から生成したEQスペクトラム・プロファイルをマッチさせる、ワンノブ式のマルチEQです。MATCHINGノブを右に回すほど、MDrumStripが理想とする音に近づきます。非常に直感的で便利な機能です。
AUTO INPUTボタンの下部にはモジュール・スロットがあります。ダブル・クリックで各モジュールをオン/オフしたり、ドラッグ&ドロップでルーティングを簡単に変更することが可能です。さらにモジュール・スロットの下には、BKモジュールとGATEモジュールを装備。BKモジュールは高域用のゲートのようなもので、シンバルなどのカブリを大幅に減衰させることができます。
BASS DRUMデバイスの画面中央には、スペクトラム・アナライザーを含むEQモジュールとRESOKILLモジュール、同下段にはDYNAMICSモジュールとREVERBモジュールを搭載。EQモジュールやDYNAMICSモジュール、BKモジュールにはDEPTHというパラメーターが共通してありますが、これはエフェクトのかかり具合を調節するためのものです。
EQモジュールにはFUNDAMENTALというパラメーターがありますが、ここにはAUTO INPUTで解析した入力信号における“基本周波数”が表示されています。スペクトラム・アナライザー上では緑の縦線で表されており、これを直接マウスで左右にドラッグして調整することも可能です。
スペクトラム・アナライザーの下部には、BODY/2nd/3rd/MID/SLAP A/SLAP Bという6つのノブとRESOKILLモジュールを搭載。BODYノブはアナライザー上にある緑の縦線、すなわち基本周波数をコントロール可能です。2ndノブは二次倍音を、3rdノブは三次倍音を、MIDノブは中域を、SLAP A/Bノブは高域を制御できます。なおRESOKILLモジュールでは、ピーク・フィルターで共鳴音を除去することが可能です。
モーフィング・パッドで3種類のパラメーターを調整
実際に使ってみます。まずはドラム全体のバスにMASTERデバイスをインサート(画面②)。
次にキックのバスにBASS DRUMデバイス、スネアのバスにSNAREデバイス、ハイハットのバスにHIHATデバイスというふうに、それぞれのバスに適切なデバイスをインサートしていきます。
PARALLELデバイスはAUXトラックを作成し、そこにインサートしましょう。どのドラム・パーツにおいても言えることですが、もしトラックが1trしかない場合は、バスではなくそのトラックに直接デバイスを挿してください。
各デバイスの信号は、MASTERデバイスとPARALLELデバイスにそれぞれ送られます。またPARALLELデバイスにまとめられた信号は、最終的にMASTERデバイスへと送られます。
各デバイスのインサートが終わったら、次はAUTO INPUTボタンをオンにして信号解析を行います。これでミックスの準備が整いました。既にこの時点で音圧が大きくなり、迫力のある低域と抜けの良いドラム・サウンドが得られます。個人的な見解ですが、AUTO INPUTは入力ゲイン値を自動調整してくれるだけでなく、それ以上に内部で複雑な処理を行なっているという印象です。
MDrumStripをオフにしたときのサウンドと比べると、アタックやサステインが変化していることにも驚きました。各パラメーターはデフォルトのままですが、AUTO INPUTによる入力信号が最適化されることによってMDrumStripが理想とする“完成されたサウンド”へ調整してくれているのだと思います。あまりEQなどを触る必要もないと言えるくらいの完成度ですが、もし微調整したい場合はMATCHINGノブで行いましょう。
ちなみに各デバイスのプリセットには、メタルやロック、ポップといったものが用意されています。試してみたところ、主にEQモジュールやDYNAMICSモジュールの設定が変わっていました。
各デバイスを触ってみて特に良いと感じたのは、DYNAMICSセクションにあるモーフィング・パッド。ここでのパラメーターはデバイスによって異なりますが、SNAREデバイスではPop/Comp/Squashの3種類が設定されており、強烈なアタックを直感的に演出することができました(画面③)。
オケ中で埋もれることのないスネア・サウンドを簡単に実現できたので好印象です。万が一不要な共鳴音が発生した場合は、RESOKILLモジュールにある2系統のピーク・フィルターでカットすることができるのも便利でした。
BKモジュールも優秀です。生のスネア・ドラムはシンバルのカブリを多く含みますが、これをほとんど気にならない程度にまで軽減することができます。カブリの除去方法にはさまざまなテクニックがあるものの、BKモジュールは簡単なうえ、最良の結果が得られるので素晴らしいです。GATEモジュールと組み合わせることで、より明瞭かつパンチのあるスネアのヒット音を引き出すことができるでしょう。
FUNDAMENTALを調整すると、サウンドの重心を移動させているような感覚を味わえます。これは、例えば極端にダウン・チューニングした弦楽器との調和を図る際に有用だと感じました。本来ならばサンプルを重ねるなど複雑な処理が必要なのですが、MDrumStripでは容易に行えます。
どのデバイスでもいろいろなプロセスを試しましたが、いずれも簡単な操作で良い結果が得られました。つまりMDrumStripは使いやすく、“完成したサウンド”を手軽に実現できるプラグインです。AUTO INPUTによる自動解析とMATCHINGノブでのワンノブEQだけでも、パワフルで明瞭なドラム・サウンドが得られるでしょう。
MDrumStripは生ドラムだけでなく、打ち込みのドラムにもお勧めです。ありふれたドラム・パーツのサンプルでも、驚くほどブラッシュアップすることができます。アタックやサステインなどの要素が大幅に改善され、はっきりとした違いを体験できるでしょう。
音楽ジャンルにかかわらず、ドラム・サウンドにこだわるすべてのクリエイターやエンジニアの方に、MDrumStripを推奨します。また、ドラムのミキシングが苦手な方にも、このプラグインを試してみてほしいと思います。普段からドラムのミキシングに携わっている方は、MDrumStripの導入によってワークフローがいかに効率化されるのかを、ぜひ体験してみてください。
MELDAPRODUCTION MDrumStrip
beatcloud価格:44,850円 ※2023年7月時点
Requirements
■Mac:macOS 10.14以降(64ビット)、AAX/AU/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション(64ビット)、INTEL、AMDまたはApple Siliconプロセッサー
■Windows:Windows 8/10/11以降(64ビット)、AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション(64ビット)、SSE2をサポートするINTELまたはAMDプロセッサー
Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストとして国内外で活動し、2010年からプロデューサー、レコーディング/ミックス・エンジニアに転身。NOCTURNAL BLOODLUSTなど数多くのメタル・バンドを手掛けてきた。