フックアップが運営するオンライン・ストアbeatcloudから、注目のソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのはUNIVERSAL AUDIOからリリースされたUADxプラグイン・エフェクト&インストゥルメント・バンドルです。簡単に言えばネイティブ版UADプラグインのバンドルで、UAD Creative Edition、UAD Mix Edition、UAD Diamond Editionの全3種のエディションがあります。いずれもMac/Windowsで動作し、AAX/AU/VSTプラグインとして使用可能です。なお、上記3種のエディションにはUNIVERSAL AUDIO ApolloシリーズおよびUAD-2ハードウェア上のDSPで動作するUADプラグイン版も同梱されています。今回は一つ一つのエディションを、エンジニアの視点から見ていきたいと思います!
クリエイター向けのUAD Creative Edition
まずは“ネイティブ版UADプラグイン/UADxプラグインって何?”という方に向けて説明します。そもそもUNIVERSAL AUDIO UADプラグインとは、同社が展開するオーディオ・インターフェースのApolloシリーズや、アクセラレーターのUAD-2 Satellite、またはUAD-2 PCIe Cardといったハードウェア内蔵のDSPで動作するプラグインのこと。一方のネイティブ版UADプラグインとは、上記のハードウェアではなく、WindowsやMacコンピューターに搭載されたCPUで動作するプラグインのことです。DAW上ではUADxプラグインと表示されます。
今回は、各エディションから2製品ずつプラグインをチョイスし、レビューしていきます。UAD Creative Editionはプロデューサーやクリエイター、アーティスト向けで、インストゥルメントとエフェクトを5種類ずつ、計10種をバンドルしています。具体的にはシンセのMoog Minimoog、PolyMAX Synth、Opal Morphing Synth、ピアノのRavel Grand Piano、オルガンのWaterfall B3と、コーラスのBrigade Chorus、Studio D Chorus(画面①)、ディレイのGalaxy Tape Echo、ロータリー・スピーカー・シミュレーターのWaterfall Rotary Speaker、プレート・リバーブのPure Plate Reverb(画面②)という内容です。
Studio D Chorusは1980年代に一世風靡(ふうび)したアナログ・コーラスの名機、ROLAND SDD-320をモデリングしたプラグイン。画面左下にステレオ/モノラル・モードの切り替えスイッチ、同右上にはエフェクトの強さを切り替えるMODULATION MODEスイッチ(OFF/1/2/3/4)、プラグインをバイパス可能なPOWERスイッチを備えるという、シンプルな操作性が特徴です。
自分の場合、モノラルの音源……例えばボーカルにステレオ感を付けてあげるようなイメージで使用します。また、ベースやギターに用いることもあります。例を挙げると、ソロを担当するギターに“リバーブをかけてください”という要望が入ることがあるのですが、そのままかけると実音が細くてリバーブに負けてしまうのです。なのでStudio D Chorusでコーラスをかけて補強したあと、リバーブをかけてあげます。すると、ドライな原音とウェットなエフェクト成分がくっつきやすくなるのです。Studio D Chorusはこういった場合の接着剤としても役立ちます。
Pure Plate Reverbはプレート・リバーブ専用プラグイン。ローカット・フィルターやプリディレイ、リバーブ・タイムといった定番機能のほか、リバーブ成分における低域と高域の音色調整が行えるトーン・コントロールも搭載しています。Pure Plate Reverbはリバーブ・サウンドがとにかく奇麗。高域の倍音感が強いので、リバーブ・タイムを短くしてギターやアコギにかけることが多いです。奥行きが生まれてギターの存在感も増します。
リバーブには、聴こえてほしいリバーブとそうでないリバーブの2種類が自分の中にはあり、用途によって使い分けているのですが、Pure Plate Reverbは前者の方です。ギターやストリングスなどに、奇麗なリバーブを付加したいときに有用なプラグインですね。
エンジニア向けのUAD Mix Edition
次はUAD Mix Edition。DAW中心のプロダクションに、アナログ・サウンドを求めるプロデューサーやエンジニア向けのエフェクト・バンドルです。コンプのTeletronix LA-2A Collection(3種/画面③)、API 2500 Bus Compressor、チャンネル・ストリップのAPI Vision Channel Strip、Century Tube Channel Strip、EQのHitsville EQ Collection(2種)、Pultec Passive EQ Collection(3種/画面④)、コンプのUA 1176 Collection(3種/画面⑤)アナログ・テープ・シミュレーターのOxide Tape Recorder、Studer A800 Tape Machine、リバーブのLexicon 224 Digital Reverb、Hitsville Reverb Chambers(画面⑥)、Pure Plate Reverb、コーラスのBrigade Chorus、Studio D Chorus、Galaxy Tape Echo、ロータリー・スピーカーのWaterfall Rotary Speakerという計23種をバンドルしています。
ここではスタジオでよく使用されるコンプの一つ、TELETRONIX LA-2Aをモデリングしたプラグイン・コレクションのTeletronix LA-2A Collectionをピックアップ。Teletronix LA-2A Silver/Teletronix LA-2A Gray/Teletronix LA-2の3種が同梱されていて、自分は特にシルバー・モデルの使用頻度が高いです。毎回ボーカルに多用していると言っても過言ではありません。滑らかな効き具合が特徴なので、たくさんかけても過剰にならないところが好きです。
もう一つ気に入っている点があって、それは挿すだけで高域の倍音成分が強調されるので、通すだけで一気に前面に張り付いたような効果が得られるところ。だからボーカルに毎回使っているのだと思います。
Pultec Passive EQ Collectionも見てみましょう。こちらもスタジオでよく使われるアウトボード、PULTECのEQ3種類をモデリングしたプラグイン。Pultec EQP-1A/Pultec MEQ-5/Pultec HLF-3Cの3種がセットになっています。
ボーカルにEQP-1Aを挿し、10kHzをブーストしたら一発で音抜けします。またキンキンした冷たい声質のボーカルの場合、高域のアッテネーター・ノブを上げていくのがお勧めです。理由は、高域を減衰させつつも効き具合がマイルドなので、ちょうど良いあんばいになるから。なので、自分はEQP-1Aをトーン調整としても使っています。
一方でドラムのキックに使うこともしばしばあります。60Hzをブーストすると確実に音を太くすることができます。こちらも、微調整としてアッテネーターを使うのがお勧め。ほどよくタイトにしてくれます。
全部入りのUAD Diamond Edition
最後は最上位エディションのUAD Diamond Edition。Creative Edition、Mix Editionの両方が一つになり、計28種類のプラグインを収録しています。ハイライトするのはUA 1176 Collection。実機のUNIVERSAL AUDIO 1176は複数のリビジョンがありますが、モデリングされているのはUA 1176 Rev A/UA 1176LN Rev E/UA 1176AEの3種です。
自分なりの使い分け方ですが、UA 1176 Rev Aはボーカルやスネアなどセンターに持ってきたい&前面に出したい楽器に使います。パンチやエッジ感がすごく出せるのが特徴です。滑舌良く聴こえるのでラップ用途にも一推しですね。
逆にUA 1176LN Rev Eは、コーラスやハモりのボーカルなどに使います。コンプ感はUA 1176 Rev Aと似ていますが、そちらほど色が付かない印象です。なので同じコンプの質感で統一させつつも、メイン・ボーカルとそれ以外のボーカルでコントラストを付けるのにお勧めです。
UA 1176AEに関しては中域がとてもクリアで、全体的にも色付き感がマイルドな印象。従って“音源の持つツヤ感はそのまま残しておきたいけれど、UA 1176らしいコンプ感もほしい”っていうときにUA 1176AEは役立ちます。楽器はリード・ギターとかアコギなどでしょうか。原音の雰囲気を生かしたいときに有効かなと思います。
Hitsville Reverb Chambersは、ヒッツビルU.S.A.スタジオの歴史的なリバーブ・チャンバー2基をエミュレーションしたプラグイン。抽象的ですが、ものすごく良い音がします! びっくりしていろいろな方にお薦めした記憶がありますが、リバーブのツヤ感、広がり具合、耳なじみの良さなど含め、ずっと聴いていられる響きです。方向性としてはオーガニックで優しい感じ。2種類の部屋(チャンバー)を選べ、それぞれスピーカーやマイク同士の距離、マイクの種類などを細かく組み合わせて音作りすることが可能です。
自分はドラムや宅録したアコギ、打ち込みドラムなどに用います。例えば打ち込みドラムが単調に聴こえる場合、ほんの少しだけこれでリバーブを足してあげると、ボーカルの空気感としっかりマッチさせることが可能です。打ち込みと生音の差を埋めるような用途にもお薦めです。
ここまで各エディションから2種類ずつプラグインをピックアップし、かけ足でレビューしてきましたがいかがでしたでしょうか。各エディションの中身は、クリエイター向け/エンジニア向け/全部ほしい方向けと、かなり明確に分かれている印象です。
普段からUADプラグインを使っている者としては、ApolloやUAD-2 DSPアクセラレーターに接続しなくても、UADプラグインを扱えるようになるのは非常にありがたいこと。外スタジオやライブ会場へハードウェアを持ち運ぶ手間がなくなりますし、プライベート・スタジオ環境をミニマルにしたい人にとっても朗報です。操作性としては、UADプラグインとUADxプラグイン間で、プラグインの設定をコピペできるのも便利だと思いました。
UADプラグイン全体で言えるのは、スタジオ定番ハードウェアをコンピューター上でモデリング・プラグインとして扱えるところ。モデリングの精度が素晴らしいため、“挿せばあの音になる!”という体験をプラグインで味わえてしまいます。それが、長年自分がUADプラグインを使っている理由の一つでもあります。なお今回紹介したUADxプラグインは、サブスクリプション・サービスUAD Spark(19.99ドル/月額、149.99ドル/年額)でも提供されているので、ぜひ検討してみるといいでしょう。
UNIVERSAL AUDIO UAD Creative / Mix / Diamond Edition
beatcloud価格:
UAD Creative Edition:73,000円|UAD Mix Edition:102,260円|UAD Diamond Edition:146,150円
※2023年5月時点
Requirements
■Mac:macOS 10.15/11/12/13
■Windows:Windows 10/11(64ビット)
■共通:INTEL、AMDまたはApple Siliconプロセッサー、インターネット接続(ダウンロード、オーソライズ用)、iLokアカウント、UA Connectアプリケーション、1〜10GBのSSDストレージ
染野拓
【Profile】レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛ける。