音響ハウス・櫻井繁郎が語るNEUMANN KH 310の実力

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NEUMANNが誇る3ウェイ・パワード・ニアフィールド・モニター、KH 310。アナログ入力のみのKH 310 Aとデジタル入力も備えるKH 310 Dの2機種をそろえ、世界中の現場で活用されている。密閉型エンクロージャーの中には、特別設計のミッドレンジ・ドライバーや熱保護回路内蔵のクラスABアンプ(210W+90W×2)を搭載し、過渡特性に優れたサウンドを鳴らすという。また、34Hzまでカバーする低域性能や116.3dBの最大SPL、ACOUSTICAL CONTROLSなる内蔵の3バンドEQなども魅力で、リファンレンス用としての確かな実力を感じさせる。今回は、KH 310 Aを愛用するレコーディング/ミキシング・エンジニアの櫻井繁郎氏(写真)に話を聞くべく、彼が所属する音響ハウスへと向かった。

Photo:Chika Suzuki

 

高解像度で個々の音がほどけて見える感覚
低域の判断がしやすく適切な処理が可能

  YAMAHA NS-10M Studioなど幾つかのモニター・スピーカーを経て、2018年ごろにKH 310 Aを使い始めた櫻井氏。現在もミックスの際は複数のモニター機器を併用するそうだが、その中でメインとなっているのが本機だ。


 「昨今は劇伴やゲーム音楽などを手掛けることが多く、音数が多い部分をミックスするにあたって、従来のスピーカーよりも音圧や解像度が高いものを求めるようになりました。それで使い始めたのがKH 310 Aで、音が塊のようにならず、一つ一つほどけて見える感じが気に入っています。この解像度は3ウェイという構成によるところも大きいと思っていて、個人的には2ウェイよりもやりやすい。ミックスだけでなく録音にも活用中で、特にストリングスやブラスといったオーケストラの楽器を録る際、周波数的にワイド・レンジかつ中域が奇麗に聴こえるんです。また最大SPLが高く、録音中に突発的なピーク成分が入ってきても安心です。ツィーターが飛んでしまうようなこともないため、レコーディングそのものに集中できますね」

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NEUMANNの3ウェイ・パワード・モニターKH 310 A。密閉型を採用し、過渡特性の良さを特徴とする。特別設計のミッドレンジ・ドライバーによる精細な中域も魅力だ。周波数特性は34Hz〜21kHz(±3dB)となっており、低域の最大SPLは104.5dB(平均50〜100Hz)。外形寸法は383(W)×253(H)×292(D)mm、重量は13kg/1台


 KH 310 Aの出音のレンジの広さは、低域の量感に象徴されている。


 「低音が、かなりよく出るんです。キックやベースの音決めのときに“ここまで出すと過剰だな”といった判断がしやすく、適切な処理が行えます。また低域がよく見えるというのは、そこに神経をとがらせなくてよいことにもつながるため、上の帯域も余裕を持ってモニターできます。低域が見えづらいスピーカーだとそこが気になってしまって、ほかの部分を追い込み切れないこともあるかと思うんです。その点、KH 310 Aならストレスを感じませんよね」


 今ではすっかりKH 310 Aをお気に入りだが、当初は慣れが必要だったと明かす。


 「NS-10M Studioなどよりずっとレンジが広く、音圧も高いので戸惑ってしまったのですが、内蔵のEQで音質を調整することにより、自分のやりやすい方向に持っていけました。EQは3バンドで、それぞれに4つの設定が用意されているため、ルーム・アコースティックや耳の特性に合わせてさまざまにセッティングできます。外部のスタジオに持ち込んで使う際も、普段の聴こえ方に近付けられるから安心ですね。また、スピーカーは新しい状態だと当然エイジングされておらず、その点でも積極的に使った方が良いでしょう」


 内蔵EQのコントロールはエンクロージャーの背面に用意されており、その下にある入力ゲイン・ノブと出力レベルの切り替えスイッチに関しても「ほかのスピーカーを併用するときの音量合わせに便利」と語る。

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写真上段にあるのが内蔵EQのACOUSTICAL CONTROLS。3バンドで、低域には0/−2.5/−5/−7.5dB、中低域には0/−1.5/−3/−4.5dB、高域には+1/0/−1/−2dBという設定が用意されている。その下に配置されているのは出力レベルの切り替えスイッチ、入力ゲイン・ノブ、前面のエンブレムの輝度調整、グランド/リフト・スイッチ

位相の良さはマルチマイクでの録音時に顕著
奥行きの再現に優れ左右の広がりも好印象

 KH 310 Aは密閉型エンクロージャーを採用し、過渡特性の良さを特徴としている。「バスレフ型のスピーカーより各帯域のタイミングがそろっていて、位相が良いんです」と櫻井氏。これは現場にどのようなメリットをもたらすのか?


 「マルチマイクで録音しているときに、どのマイクが位相を乱しているのかがよく分かるんです。“このマイクが原因で音が引っ込んでいるんだな”という判断が容易で、それをどう調整すればいいかもジャッジしやすいため、録りの段階できちんと音決めできます。位相特性が良くないスピーカーだと、録音時に追い込み切れないまま進行することにもなりかねないので、後々のプロセスを考えても、KH 310 Aの特性の良さはありがたいですね」


 この位相特性は、奥行きの再現性などにも通じていると櫻井氏は考えている。


 「録音の際に、ソースとマイクの距離感、音像の大きさなどを調整しやすいんです。そういったものが2次元的に見えてしまうスピーカーもあると思いますが、KH 310 Aなら“ここにオンマイクがあって、あそこにオフマイクが立っている”といった奥行きがよく分かる。これは位相特性の良さから来ている気がしますし、奥行きのみならず左右……つまり定位の見え方も優れています。今まで使ってきたスピーカーでは左右に“ここまで”という壁みたいなものを感じていましたが、KH 310 Aだと壁が少しにじんで音が外に出ていく印象。だからワイドに見えるし、ステレオ・フィールドをなるべくフルに使いたい自分にとっては扱いやすいんです。デジタル・レコーディングに高品質なクロックを用いると、音がセンターにビシッと来る傾向がありますよね? あの感じも格好良いと思うのですが、個人的にはアナログ録音のような広がりやにじみをどうやって作り出すか常に考えています。KH 310 Aでモニターすれば音を横に持っていきやすいので、広がりなどの調整もストレス無く行えるんですよ」

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櫻井氏がKH 310 Aでモニタリングを行っている様子。位相特性が良く、奥行きや左右の広がりも緻密(ちみつ)に再現されるという

音量によるバランスの変化が少なく
どんなボリュームでも音作りがはかどる

 ストレスフリーと言えば、音量によるバランスの変化が少ない点も出色だと言う。


 「ボリュームの大小があまり気にならないのは大きいですね。スタジオのような大音量でリスニングする人って、リスナーの中にはほとんど居ないと思うんです。だからボリュームを下げてミックスすることもあるんですが、そのときも低音が遅く聴こえてしまうようなバランスの変化が起きにくいので、きちんと判断できます。また、大音量時に高域が耳に痛くなることもないため、どんなボリュームでも音作りしやすい。これは、各帯域に個別のクラスABアンプが用意されているなど、調整が行き届いているからなのだと思います」


 解像度や位相特性に秀で、内蔵EQでの音質調整によりさまざまなシチュエーションに対応するKH 310 A。「ここで使うときはもちろん、外へ持って出る際にも安心感がありますよね。これからも愛用し続けたいと思います」と櫻井氏は語る。なお、NEUMANNからは2ウェイ・ニアフィールド・モニターKH 80 DSP用の音場補正システムが国内リリースされる予定とのことなので、関心のある向きはチェックしてみよう。

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櫻井繁郎

【BIO】1992年に音響ハウスへ入社し、現在はスタジオ事業部門 技術部 マネージャー/音楽グループ グループ長を務める。ポップスから劇伴、ゲーム音楽、ライブ録音まで、幅広いジャンルを手掛けてきた

 

KH 310 製品情報

neumannjapan.com

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