特集「語れ!ハードウェア・シンセの“ロマン”」最後の登場は、昨年4月に3rdアルバム『Totem』をリリースしたビート・メイカー/プロデューサーのPARKGOLF。ベース・ミュージックなどさまざまな音楽ジャンルの影響を感じられる一方、豊かなコードの音色をはじめとするアナログ・サウンドの印象も強い。メインとして使用するシンセはSEQUENTIAL Prophet Rev2。もともとProphetサウンドが好きだったというPARKGOLFに話を聞いた。
Photo:Hiroki Obara
SEQUENTIAL Prophet Rev2
前身機種のProphet’08発売から約10年後、2017年に発売された16ボイス仕様のアナログ・ポリフォニック・シンセ。2基のDCOを備え、4種類の波形が選択できる。エンベロープ・ジェネレーターを3つ、LFOを4つ備える。フィルターには、往年のProphet-5からの伝統を受け継ぐCURTISフィルターを搭載する。そのほか、2種類の音色を同時に使用できるバイティンバーを採用。プリセットはファクトリー・バンクとユーザー・バンクそれぞれに512種類用意されている。
前に出てくるような存在感のあるサウンド
PARKGOLFの自宅スタジオには、シンセやリズム・マシンなど多くの機材がそろっている。実機を使い始めるようになったのは2017年ごろからだそう。
「それまで制作ではソフト・シンセを使っていました。実機にはあまり興味が無かったんです。ただ、ソフト・シンセだと無限に直せるので制作する途中で迷ってしまうことも多く、だったら素材を録ってしまおうと。迷わないためにアナログ・シンセを使おう、と思ったのがきっかけですね」
大きな方向転換に抵抗は無かったのだろうか。
「今はABLETON Liveで制作していますが、最初に曲を作り始めた機材はAKAI PROFESSIONAL MPCでした。一度サンプリングした素材で何とかするというふうに制作していたので、実機が使いづらいとは全く思わなかったです。むしろ向いていると感じましたね」
その後、アナログ・シンセ・モジュールDOEPFER MS-404などの実機を導入し始める中で、見つけたのが現在のメイン・シンセであるProphet Rev2だった。
「MS-404は音の粒立ちが良く気に入っていました。ただモノフォニックだったので、だんだんとポリフォニックのシンセが欲しくなり購入したのがProphet Rev2です。同時期に出ていた同社Prophet-6やOB-6などとも比べ、結構長い間調べていました。一番決め手となったのは、かなり複雑な音作りができるところ。楽器というよりは機材という印象を持ち、面白い音作りができそうという点を重視しました」
手にしてみた音の感触について、PARKGOLFは「ソフト・シンセともほかの実機とも全く違いました。全部の音が前に出てくると言うか……めちゃくちゃ存在感があるんです」と語る。Prophet Rev2の音が満足いくものだったからこそ、本格的にシンセにハマっていったそうだ。では音作りについて、具体的にどういった機能を重宝しているのだろうか。
「モジュレーションをガッツリかけられる部分が良いです。オシレーターやノイズ、フィルターといったセクションそれぞれにLFOをアサインできます。それから、2種類の音色を同時に鳴らせるスタック・モード。混ぜることで独特な音色を生み出せます。オシレーター部分にあるOSC SLOPというつまみで、微妙な揺れを調節できる。これらを組み合わせて作ることが多いですね。あと、Prophet特有のCURTISフィルターがすごく奇麗にかかる。ソフト・シンセと一番異なる部分は、フィルターじゃないかと思っています」
制作工程も、Prophet Rev2を手にしてから変わっていったという。
「以前はビートから始めることもあったのですが、最近はコードとか音色から作ることが多いです。あまり演奏が得意ではなく、コード進行のMIDIデータをたくさん用意して、DAWから信号を送って鳴らしています。とにかく良い音なのでずっと聴いていられる。それもあってコードから作るようになったのかもしれないです。コードを鳴らしてつまみをいじっているだけで1日が終わることも結構あります(笑)」
サンプルを探すより音を作る方が速い
続いてほかのシンセについて。デスク脇にはセミモジュラー・アナログ・シンセのMOOG Grandmotherを設置する。
「Prophet Rev2はコードを鳴らしたりするのに特化していて、Grandmotherはベースとして導入しました。ラダー・フィルターの、ちょっともっちりしたかかり具合がベースにぴったりですね。モジュラー・シンセを使い始めたころに買ったので、組み合わせてみたいという考えもありました。あくまで自分の中での印象ですが、やはり楽器っぽさよりも機材っぽさがあるというのが、シンセを選ぶ基準になっています」
モジュラー・シンセも徐々に増やしていったそうで、シーケンスをランダムで走らせてビートを録音したり、キックのサウンドを作るなどして作品に取り入れているそう。そのほか、1984年発売のアナログ・シンセOBERHEIM Xpanderも配置。楽曲では主にコードに使用しているとのことだ。
「XpanderもProphet Rev2のように各セクションに対してモジュレーションをかけられます。音の質感は結構大味でProphet Rev2よりも雑味があり、そこが良いですね」
そのほかSEQUENTIAL CIRCUITS Drumtraksなど、リズム・マシンも多く所有するPARKGOLF。『Totem』からは、オーディオ・サンプルを使わなくなったという。
「実機から録音した素材を加工する方が速いんです。Spliceとかのサンプルがダメとは全く思わないですが、大量にある中から好みのものを選ぶとなると逆に時間がかかってしまって。実機を使うようになってから好きな音の作り方が分かったので、その方が早く進められます」
音源として実機を使い始めた結果、録音機材にも変化が起き始めている。
「オーディオ・インターフェイスも以前は手ごろなものを使っていたところ、RME Firefaceに変えたらすごくクリアでビックリしました。こんなに違いがあったんだなと。あとアウトボードも今増やしている途中です。制作も録音も楽しくなりましたね。ミックスやマスタリングも難しいですが、もっと上のレベルにいけるだろうと感じています」
Prophet Rev2の導入が、PARKGOLFの制作全体にまで良い影響をもたらしたことは間違い無いだろう。
「パソコンの画面だけをずっと見て作業するよりも、パソコン以外を見て、触る方が感覚的な部分をすごく使う。作業する中でテンションが上がって満足しているかというのが重要で、それができる実機にして良かったなと思っています」
PARKGOLF
【Profile】札幌出身のビート・メイカー/プロデューサー。ゲスの極み乙女。唾奇、chelmico、あっこゴリラなど、さまざまなアーティストのリミックスや楽曲提供を行い活動の幅を広げている。2021年4月、SUSHIBOYS、おかもとえみ、GOODMOODGOKUらを客演に迎えた3rdアルバム『Totem』をリリースした
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