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ULTRASONE × CHORD ELECTRONICS~マスタリング・エンジニアが太鼓判を押すヘッドフォン環境

ULTRASONE × CHORD ELECTRONICS~マスタリング・エンジニアが太鼓判を押すヘッドフォン環境

日本を代表するマスタリング・エンジニアの一人、森﨑雅人氏。ULTRASONEの密閉型モニター・ヘッドフォンの最上位機種Signature MasterとCHORD ELECTRONICSのヘッドフォン・アンプHugo 2は、森﨑氏が日々の仕事に活用しているコンビネーションだ。その利点を伺うとともに、CHORD ELECTRONICSのMojo 2も試してもらったので第一印象を語っていただいた。

Photo:Hiroki Obara

ULTRASONE Signature Master

ULTRASONE Signature Master|139,980円

ULTRASONE Signature Master|139,980円

 マスタリングでの使用も見越して設計された密閉型ヘッドフォン、Signature Proの後継機。40mm径チタン・プレイテッド(チタンメッキ)マイラー・ドライバー、ヘッドフォンでナチュラルな音場を作り出すための独自技術“S-Logic 3”、それをサポートする技術“DDF”(Double Deflector Fin)などを採用。音のディテールや明瞭感を保ちつつ、耳への負担を抑えている。ハウジングには純金メッキ加工の金属製プレートを装備し、遮音性を確保。イア・パッドは、長時間の使用でも確かなフィット感が得られるよう、シープ・スキン・レザーで作られている。

SPECIFICATIONS
■形式:密閉ダイナミック型 ■マグネット:ネオジム磁石(NdFeB) ■インピーダンス:32Ω ■周波数特性:8Hz~42kHz ■重量:約325g(ケーブル含まず)

Signature Masterの“速さ”はピカイチ

 森﨑氏は、マスタリングの作業においてADAM AUDIOのモニター・スピーカーS3VとSignature Masterを併用しており、書き出したファイルのチェックをSignature MasterとHugo 2の組み合わせでも行っている。リスナー視点で聴くのが目的だそうで、改善すべき点を見つけたらマスタリングに戻る。スマートフォン+イアフォンなどの民生機でも確かめるが、Signature MasterとHugo 2ならではの性能がマスタリングと確認作業をシームレスにつなぐという。

 「Signature Masterはトランジェント特性が良いですね。音の立ち上がりが非常に速く、消え際まではっきり聴こえます。“速い”とはソース本来のトランジェントが正確に再現されるという意味で、いわば音符のド頭から聴こえます。特に低音の速さは、僕が聴いてきたヘッドフォンの中では一番です。豊かな低音を立ち上がり速く再現するのは、技術的にとても難しいことだと思いますが、それができているんです。音符の頭がなまって聴こえたら、例えばコンプのアタック・タイムの操作を間違えてしまうかもしれませんが、Signature Masterなら、そうした設定も的確に行えます」

 トランジェント特性にこだわるのは、もちろんコンプレッションの正確性を高めるためだけではない。

 「音の出る瞬間と消え際にこそ、演奏の繊細なニュアンスやグルーブが存在すると思っています。これらを再現できれば、どんな環境でも楽曲の大事な要素が伝わる作品に仕上げられるはずです。スピーカーでトランジェントを正確に再現するには、設置角度の調整や振動対策などが必須ですが、裏を返せばヘッドフォン環境は手を加えられる部分が少ない。だからこそ、最初からトランジェント特性に優れた機種を導入すべきだと思っていて、僕はSignature Masterを選んだのです」

CHORD ELECTRONICS Hugo 2

CHORD ELECTRONICS Hugo 2|299,980円

CHORD ELECTRONICS Hugo 2|299,980円

 メトロポリス・スタジオの名マスタリング・エンジニア、スチュワート・ホークス氏も愛用のDAC内蔵ヘッドフォン・アンプ。複数のデジタル音声入力を備え、Micro USB端子はMac/Windows/Linux/iOS/Androidに対応する。XILINXのFPGA、Artix-7や独自のWTA(Watts Transient Aligned)フィルターを搭載し、タップ数は49,195。最高32ビット/768kHz PCM、DSD512(22.4MHz)のネイティブ再生をサポートしている。ニュートラル・サウンドとウォーム・サウンド、それぞれの超高域をロールオフした音の計4種類を切り替えられるデジタル・フィルター、頭外定位のような音場を作り出すクロスフィードなど機能面も充実。

パネル上のボタンは、左から4種類のデジタル・フィルターの切り替え、音声入力の選択(デジタル・イン、Micro USB、Bluetooth)、4段階のクロスフィードのセレクト(オフ含む)、電源のオン/オフ。それらの下にあるMicro USB端子は、写真左のものが音声入力、右が充電用だ

パネル上のボタンは、左から4種類のデジタル・フィルターの切り替え、音声入力の選択(デジタル・イン、Micro USB、Bluetooth)、4段階のクロスフィードのセレクト(オフ含む)、電源のオン/オフ。それらの下にあるMicro USB端子は、写真左のものが音声入力、右が充電用だ

側面にはヘッドフォン・アウト(TRSフォーン、ステレオ・ミニ)、ラインアウトL/R(RCAピン)、デジタル・イン(コアキシャル、オプティカル)を装備

側面にはヘッドフォン・アウト(TRSフォーン、ステレオ・ミニ)、ラインアウトL/R(RCAピン)、デジタル・イン(コアキシャル、オプティカル)を装備

SPECIFICATIONS
■筐体素材:航空機グレード・アルミニウム ■電源:内蔵リチウム・イオン充電池(駆動時間は約7時間) ■外形寸法:約130(W)×22(H)×100(D)mm ■重量:約450g

Hugo 2でリスナーの視点に立てる理由

 ヘッドフォン・アンプにHugo 2を選択したのも、トランジェント特性の秀逸さからだ。

 「Hugo 2の魅力は中低域~中高域の充実度です。初めて使ったときに“中低域が厚くて力強い音だな”と感じたのですが、嫌なピークがあるわけではなく、高域も耳に痛いところが無い。フラットな特性なのに、なぜこれほど抜け良く聴こえるのだろうと思ったら、やはりトランジェントの再現性が高いんです。出音に無理がなく、演奏の直前の“気配”までも伝えてくれます。マスタリングには別のヘッドフォン・アンプを使っていますが、Hugo 2の音には力強さや躍動感があるので、音楽的に楽しく聴ける。“リスナーにとっても楽しく聴ける仕上がりかどうか? 感動できる作品かどうか?”という視点でチェックすることが目的です。足りないところがあればマスタリングの作業に戻ってブラッシュアップできるので、Hugo 2を使ったチェックが仕上がりをより良いものにしてくれますね」

 ヘッドフォンをSignature Masterに固定し、ヘッドフォン・アンプを音作りとチェックの各プロセスで使い分けているのもポイントだ。

 「Hugo 2を使っていても、低廉なヘッドフォンだと“音の精度”という軸がブレてしまいますが、同じSignature Masterでチェックするから基準が揺るがない。ヘッドフォン・アンプ2機種のキャラクターの差異だけを把握すればよいので、何かあればスムーズにマスタリングへ戻れます」

 Hugo 2には、頭外定位のような音場を作るクロスフィード機能が備わっている。「スピーカーに近い音で聴くことができます」と言いつつも、森﨑氏は使用しないそうだ。

 「Signature MasterにはS-Logic 3というテクノロジーが搭載されているからです。音を外耳に反射させて鼓膜に届ける技術で、スピーカーで聴くような音が得られます。ピークを感じないのは S-Logic 3によるところが大きいでしょう」

CHORD ELECTRONICS Mojo 2

CHORD ELECTRONICS Mojo 2|79,980円

CHORD ELECTRONICS Mojo 2|79,980円

 40個のコアから成る独自の“UHD DSP”を備えたDAC内蔵ヘッドフォン・アンプ。DSP内部での徹底的なノイズ・シェイピングにより、音の奥行きやディテールの再現性を担保。4つの帯域をEQできるロスレス・トーン・コントロールや4種類のクロスフィード、ミュート、ボタン・ロック・モードなどもUHD DSPによるものだ。パネル上には、それらの機能の呼び出し、音量の上げ下げ、電源オン/オフの各操作を行うボタンがスタンバイ。前身モデルのMojoからWTAフィルターを改良し、40,960タップを実現しているのも特徴だ。最高32ビット/768kHzのPCM、DSD256(11.2MHz)のネイティブ再生に対応する。

側面には、コアキシャル、USB-C、Micro USB、オプティカルのデジタル音声入力のほか、充電用の Micro USB端子(写真内の青色LED上部)を装備

側面には、コアキシャル、USB-C、Micro USB、オプティカルのデジタル音声入力のほか、充電用の Micro USB端子(写真内の青色LED上部)を装備

ヘッドフォン・アウトの数は2つで、いずれもステレオ・ミニ

ヘッドフォン・アウトの数は2つで、いずれもステレオ・ミニ

SPECIFICATIONS
■筐体素材:アルミニウム(ビード・ブラスト加工) ■電源:FPGAバッテリー充電システム(駆動時間は約8時間) ■外形寸法:約83(W)×22.9(H)×62(D)mm ■重量:約185g

Mojo 2はモバイル環境の向上にうってつけ

 Hugo 2と同じくCHORD ELECTRONICSが手掛けるヘッドフォン・アンプ、Mojo 2。「Hugo 2より価格を抑えた機種ですが、これもすごく良いですよ!」と森﨑氏は言う。

 「中低域から中高域にかけて厚みがあり、Hugo 2と同じ方向性の音だと思います。音像の大きさや奥行きの深さなどはHugo 2に分があるものの、それがはっきりと分かるのはSignature Masterを使って比較したからでしょう。数万円クラスのヘッドフォンであれば、Mojo 2で十分に素晴らしい音が得られるはずです。筐体はコンパクトで、なおかつ頑丈なので、ノート・パソコンと併用すれば外出先でも使いやすいと思います。APPLE MacBook Proのヘッドフォン・アウトよりも格段に良い音になるんですよ。一方、Hugo 2に関してはMac Miniとつないで据え置き専用で使っていますが、ノート・パソコンとセットでモバイル用途で使ったら、グレード・アップどころではない、とんでもなく良いモニター環境が構築できます」

 “99点から100点になる瞬間を教えてくれるモニター機器が必要”と言う森﨑氏。その彼が太鼓判を押すSignature MasterとHugo 2/Mojo 2を入手すれば、自宅やプライベート・スタジオでもプロ・スタジオ級のヘッドフォン・モニターが可能になるだろう。

 

森﨑雅人
【Profile】1995年音響ハウスに入社し、2000年からサイデラ・マスタリングで17年間チーフ・エンジニアを務める。2018年からはTiny Voice, Productionに所属し、ARTISANS MASTERINGをローンチ。トム・コイン氏がマスタリングを担当したDOUBLE『Crystal』を10万回以上聴きこみ、独学でマスタリング技術を習得した異色の経歴の持ち主

製品情報

https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_2095.php

https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_3843.php

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