超簡単!Digital Performerでコンペ用ラフ・ミックスを素早く仕上げる|解説:大橋莉子

超簡単!Digital Performerでコンペ用ラフ・ミックスを素早く仕上げる|解説:大橋莉子

 こんにちは、大橋莉子です。普段は乃木坂46やHKT48、モーニング娘。をはじめとするアイドル/アーティストに楽曲提供しています。今回は“コンペ用ラフ・ミックス編”です!

コンペ作家は時間が大事!MIDIトラックのまま時短作業

 ヒットを狙えそうなメロディでも、時代を先取りするようなアレンジでも、最高に魅力的な歌が録れたとしても、ミックスがうまくいかないと曲の良さが思うように引き立たなかったりしますよね。コンペの第一線で活躍する作家さんでも、ミックスに時間をかけてこだわる方はとても多いです。

 ちなみに私もかなりミックスにこだわっていた時期があり、デモ1曲で5〜6時間かけていることもザラにありました。こだわっていたというよりは、うまくいかずに試行錯誤していたという方が正しいかもしれません……(笑)。

 ただ、せっかく頑張って作ってきた曲なのだから、“最後の仕上げこそとことんこだわり抜きたい!”という心理はありながらも、“締め切りまでそんな余裕は無い”というところが本音ではあります。そこで今回は、Digital Performer(以下DP)で行っている超簡単・基本のコンペ用ラフ・ミックスについて詳しく解説していきたいと思います。

 まずはオケの方からパン(定位)とレベル調整、EQ処理などをしていきます。オケに関しては、MIDI状態で打ち込みをしているのでMIDIトラックのまま処理を進めていきます。もちろんオーディオ・データに書き出して調整してもよいのですが、ここでは締め切りに追われている想定ですので、時短を最優先とします。ミキサー・タブ上で処理してもよいですし、トラックによってはプラグイン上で設定してもよいでしょう。

細かくパンを調節して分離を良くするトラックグループで音量を一括管理

 今回、オケのトラック構成はかなりシンプルで、“ドラム”“ピアノ”“ベース”“ギター”“シンセ”となります。ドラムにはXLN AUDIO Addictive Drums 2を、ピアノにはAddictive Keysを使用し、プラグイン上で調節していきます。Addictive Drums 2、Addictive Keys共にプリセット数が豊富で、何より音がリアルで奇麗なところが魅力的です。楽曲によって柔軟に細かく、自由に音作りできるので、プロの作家さんでも導入されている方は非常に多いのではないでしょうか。

 ドラムはパンとレベルの調整をしました。プラグイン上で音作りやEQ処理まで行いながらも、ミキサーでドラム・トラックにさらにEQをかけて高域を少し持ち上げ、シャリッと鮮明な音に仕上げます。そのためプラグイン上ではハイハットのレベルを下げました。

筆者がドラム音源ソフトとして使用しているXLN AUDIO Addictive Drums 2。プラグイン上で各ドラム・パートの音量や音色を調節することができる。ここでは後段にかけるEQで高域を持ち上げるため、ハイハットのボリューム・フェーダーをほかのパートよりも下げているのが見える(赤枠)

筆者がドラム音源ソフトとして使用しているXLN AUDIO Addictive Drums 2。プラグイン上で各ドラム・パートの音量や音色を調節することができる。ここでは後段にかけるEQで高域を持ち上げるため、ハイハットのボリューム・フェーダーをほかのパートよりも下げているのが見える(赤枠)

 ドラム全体にかけるEQは、DP付属のEQプラグイン、Parametric EQを使用。ここで高域を少し上げるだけではなく、50Hz以下をカットすることで、キックの太さを軽減したり、スネアの輪郭を締めたりしています。

DP付属EQプラグインのParametric EQ。ドラムに使用する際は50Hz以下をローカットし高域を若干持ち上げている。筆者はローカットを、キックの太さの調節やスネアの輪郭を出すために活用していて、曲によっては100Hz以下をローカットすることもある

DP付属EQプラグインのParametric EQ。ドラムに使用する際は50Hz以下をローカットし高域を若干持ち上げている。筆者はローカットを、キックの太さの調節やスネアの輪郭を出すために活用していて、曲によっては100Hz以下をローカットすることもある

 次にピアノを調整していきます。EQはローカットし、高域を上げることでパキッと乾いたピアノの音色になりました。ロック系バンド・サウンドの場合のピアノは、輪郭がぼやけているとピアノ自体の良さが埋もれてしまうので、ソリッドに聴こえるように処理しています。パンはミキサーで右に23振りました。

筆者がピアノ音源ソフトとして使用するXLN AUDIO Addictive Keys。ソフト内で設定できるEQ(赤枠)を使い低域をカットし、高域は3.4kHz辺りを中心にQ幅を広くして持ち上げている

筆者がピアノ音源ソフトとして使用するXLN AUDIO Addictive Keys。ソフト内で設定できるEQ(赤枠)を使い低域をカットし、高域は3.4kHz辺りを中心にQ幅を広くして持ち上げている

 続いてベースです。ベースは基本的にはボーカルと近い帯域にあるイメージですが、ドラムも同じ帯域辺りに位置するため混雑してしまうので、聴きながらほんの少しだけ左右に振ってもよいでしょう。あまり離れてしまうと楽曲の軸が傾いてしまうので、程良く調整です。私はこの楽曲では、左に4振りました。ギターは打ち込みで恐縮ですが、2本のトラックのパンを左右に全振りしています。シンセはピアノと対になるように左に23振りました。

各トラックのミキサー画面。左からシンセ、ベース、ギター、ドラム、ピアノの順に並ぶ。赤枠がパン調節つまみで、各パートのパンの値を細かく調節することで音のすみ分けを良くしている

各トラックのミキサー画面。左からシンセ、ベース、ギター、ドラム、ピアノの順に並ぶ。赤枠がパン調節つまみで、各パートのパンの値を細かく調節することで音のすみ分けを良くしている

 レベルに関しては、基本的に最大値を“±0dB”で設定したいのですが、微調整しているうちに超えてしまうトラックもあるかと思います。その場合は、オケのトラックをすべてグループでまとめ、一括してレベルが±0dBになるように調整します。

ミキサー画面のフェーダー上で右クリック→“グループを作成…”を選択→グループ化するトラックのフェーダーを選択→Enterキーを押すとウインドウが表示され、グループで一括調節するパラメーターを選ぶことができる。ここでは“ボリュームフェーダー”のみにチェックを入れている

ミキサー画面のフェーダー上で右クリック→“グループを作成…”を選択→グループ化するトラックのフェーダーを選択→Enterキーを押すとウインドウが表示され、グループで一括調節するパラメーターを選ぶことができる。ここでは“ボリュームフェーダー”のみにチェックを入れている

 このグループ化を設定し終えた後に、トラックグループウインドウに移動すると、先ほど作成したグループが表示されます。グループの適用、解除をワンクリックで切り替えることができるので、ミックス時にはマストな便利機能です。

ボーカル・トラックは複製して処理。DP付属プラグインでタイトに仕上げる

 これでオケのトラックのバランスが整いましたので、次はボーカル・トラックです。メイン・ボーカルをセンターに置き、リバーブをかけずにEQとコンプだけで処理するDryと、リバーブをかけるWetのトラックを作ります。私が常時行っている手法としては、シーケンス画面でメインのボーカル・トラックを複製し、それらをDryとWetに分けるというもの。ここで重要なのはDryの方です。Wetに関しては、楽曲のジャンルによらず無条件でリバーブをインサートし、奥行きと広がりを意識して処理するので比較的簡単なのですが、Dryに関してはどのようなボーカルにしたいかの明確なイメージが無いと中途半端になってしまいます。今回の例で意識したのは、かなり音を硬くした上で中低音も聴こえるようなミックス。というのも、私がボーカル・ミックスの際に参考にしているのが近年流行しているKポップで、薄いガラスのようなソリッドさがありながらも、中低音もしっかりと聴こえるのが特徴だと思っているからです。

 Kポップや洋楽を数多く担当されている海外のデモ・ボーカリストの方がいらっしゃるのですが、以前その方に発注したときは、納品データがまさに今のKポップ式にミックスされたDry、Wetのデータになっていました。ですので、これらはボーカリストの方にとっても有用な情報かと思われます。

 それではDryのボーカル・トラックを作りましょう。DP付属のコンプ、MasterWorks Compressorをインサートした後に、EQ処理を行います。軽くすっきりとした硬めな女性ボーカルに仕上げたいので、50〜80Hzまでローカット。次にピーキングで中低域(800Hzまで)を段階的に下げ、タイトなサウンドにしていきます。1kHz以降はボーカリストの声の特性もありますので、作業をしながら徐々に上げていきましょう。

リバーブなどのエフェクトをかけない、Dryのボーカル・トラックの調節が重要。コンプをかけた後にParametric EQでローカットを入れ中低域をカットする。高域はボーカリストの特性に合わせながら調整。高域を上げることで、ブレスも含めて薄いガラスのような鋭さを与え、オケの中でもしっかり埋もれないボーカルを確立させることができる

リバーブなどのエフェクトをかけない、Dryのボーカル・トラックの調節が重要。コンプをかけた後にParametric EQでローカットを入れ中低域をカットする。高域はボーカリストの特性に合わせながら調整。高域を上げることで、ブレスも含めて薄いガラスのような鋭さを与え、オケの中でもしっかり埋もれないボーカルを確立させることができる

 こうしてDryとWetのボーカル・トラックをグループでまとめると、オケとボーカル、2つのグループが出来上がります。グループのレベルやバランスに再度調整を重ね、楽曲をバウンスすれば完成です。以上、コンペ用ラフ・ミックス編でした!

 

大橋莉子

【Profile】SUPA LOVE所属の作詞家/作編曲家。幼少期より母親の影響でクラシック・ピアノやソルフェージュ、音楽理論を学ぶ。高校在学中に音楽作家として作詞、作曲、編曲を本格的に始める。現在に至るまで乃木坂46、HKT48、モーニング娘。'18など、さまざまなアーティスト、アイドル、声優に楽曲提供を行う。また、2020年には国民的アニメ『プリキュア』シリーズのエンディング曲に抜擢されるなど、第一線で活躍している。

【Recent Work】

『Perfect Love』
VECTALL
(blowout Entertainment)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

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