ロックサウンド構築の手引き:Part 2〜Cubaseでギター&ボーカルの音作り|解説:長谷川大介

ロックサウンド構築の手引き:Part 2 ギター&ボーカルの音作り|解説:長谷川大介

 こんにちは。作編曲家/ギタリストの長谷川大介です。早いもので私の連載も4回目、最終回となりました。今回は前回の“ロックサウンド構築の手引き”後編として、ギターとボーカルに対するアプローチ方法を書いていこうと思います。私にとってメインとなる楽器がギターなので、特にギターサウンドの構築には、いろいろな手法やアイディアを取り入れています。参考にしていただければと思います!

同じフレーズを2回録音して音の厚みと立体感を出す

 ギターには、さまざまな音色の選択肢があります。エレキギターのほかにもアコースティックギターやガットギターなどがありますし、エレキギターの中にも、クリーントーンやひずみ、その他エフェクティブなものなど、たくさんの音色があります。どれが適切かは、作りたい楽曲の曲調やイメージで決めていくことが大切です。私は、ロック系でもバラードなら優しい音色=アコギやクリーントーンや軽いひずみを、激しいロックなら、とがったひずみを採用するなど、ある程度既存の楽曲を参考にしながら決めることが多いです。

 また、ロック系の楽曲において、ギターが1本だけというものは少なく、ほとんどの場合、複数のギタートラックを使います。通常2本のギターが同時に鳴ることが多いため、ほかの楽器やボーカルとのすみ分けのために、それぞれを左右にパンニングします。仮に1つのフレーズしかなくても、サビなど勢いを付けたい部分では、全く同じものを2回録音して左右に振れば、音の厚みと立体感を出すことが可能です。

ギターが2本あるときのパンニング。どれくらい左右に振るかは楽曲ごとに決める。筆者は基本的にかなり振ることが多く、画面ではL80、R80という設定

ギターが2本あるときのパンニング。どれくらい左右に振るかは楽曲ごとに決める。筆者は基本的にかなり振ることが多く、画面ではL80、R80という設定

 サビなどにリードフレーズがある場合、軽めのロック系楽曲ならバッキング+リードという2本構成が多いですが、より音圧を出したいときは、バッキング×2+リード1としてバッキングを左右に配置し、リードを少しだけ左右どちらかに振るという設定にします。

ギターが3本(バッキング×2+リード×1)の場合のパンニング。バッキングはそれぞれL80、R80に設定し、リードはボーカルとのかぶりを避けるため、L21と少し左に振っている

ギターが3本(バッキング×2+リード×1)の場合のパンニング。バッキングはそれぞれL80、R80に設定し、リードはボーカルとのかぶりを避けるため、L21と少し左に振っている

ロングリバーブで音をオケに溶け込ませフィルターディレイで曲の世界観を作る

 ギターは弾いていて気持ちの良い音でレコーディングしないと、良いテイクが録れなかったりします。ある程度楽曲のイメージに合った気持ち良く弾ける音でレコーディングして、後からコンプやEQなどで調整をするのがよいでしょう。

 ひずみギターは基本的にEQで低域をカットします。録音した音をCubase付属のstudioeqでアナライズしてみて、低域が出過ぎているようであれば、おおよそ200Hz以下の帯域をカットしていくとよいと思います。これは、ベースとのかぶりを減らしてスッキリ聴こえさせるためです。

ギターにインサートしたCubase付属のstudioeq。ベースとのかぶりを減らすため、約200Hz以下をカット。高域も音の抜けがよくなるように調整している

ギターにインサートしたCubase付属のstudioeq。ベースとのかぶりを減らすため、約200Hz以下をカット。高域も音の抜けがよくなるように調整している

 また、カッティングやアルペジオの場合はコンプをかけてある程度粒立ちを均等化させ、聴きやすい音にしていきます。

ギターのカッティングやアルペジオにかけるCubase付属のcompressor。粒立ちを均等化させて聴きやすい音に整えている

ギターのカッティングやアルペジオにかけるCubase付属のcompressor。粒立ちを均等化させて聴きやすい音に整えている

 EQ、コンプに加えて、空間系エフェクトもセンドトラックを経由してかけていきます。特に私が重要視しているのは、ディレイとリバーブです。サビ裏のリードフレーズやギターソロには必ずかけていて、オケに溶け込むような音像にするためにロングリバーブを使うことが多いです。ショートリバーブを使うと浮き出るような音像になるので、好みで使い分けるとよいでしょう。リバーブの残響部分の低域はEQでカットしていて、こういった割とよく使う設定はプリセットとして保存するようにしています。

 ディレイは、フィルター処理ができるWaves H-Delayを使うことが多いです。通常のディレイだと無機質に感じる場合にフィルターディレイを使うと、楽曲の世界観を作り出すことができると思います。Cubaseに付属しているmodmachineでも、同じような効果を得ることが可能です。フレーズの跳ね返りが気持ち良くなるように、テンポに対して付点8分音符でかけています。ほかの空間系エフェクトとしては、ギターの場合はトレモロやコーラスも使うことが多いです。

ギターに使用する空間系エフェクト。左上はCubase付属のreverb(Hallを選択)、左下はWaves HDELAY、右はリバーブの低域をカットするためにインサートしているstudioeq

ギターに使用する空間系エフェクト。左上はCubase付属のreverb(Hallを選択)、左下はWaves HDELAY、右はリバーブの低域をカットするためにインサートしているstudioeq

激しい音の中でボーカルを聴かせるためコンプレッサーを2段階で処理

 ロック楽曲のボーカルにおいて一番気にするポイントは、“激しい音の中でいかに聴こえるボーカルを作るか”ということになるでしょう。ボーカルの音量を上げすぎるとバンド演奏の迫力がなくなってしまうので、歌自体の音量を上げすぎずに聴こえやすくする方法を考えていきます。

 どんな楽曲でもボーカルには大体コンプをかけますが、ロック系楽曲の場合は、メインでコンプをかけた後に軽めにかかるコンプをさらにかけて、音像をはっきりさせていきます。イメージとしては、最初のコンプである程度処理を行い、2個目のコンプは滑らかにかかるようなものを追加するような感じです。1つだけできつめにかけてもいいのですが、圧縮感が強く出すぎたりすることがあります。2つ使うことで、ある程度のナチュラルさを保ちながら、音をはっきりさせることが可能です。

 Cubase付属のプラグインで処理する場合は、FETタイプのvintagecompressorの次にtubecompressorを緩くかけると、良い感じに抜けるボーカルになると思います。コンプをかけることで歯擦音が気になってくる場合は、deesserを使って痛い部分を制御します。

 続いて、studioeqで不要な帯域も調整します。ボーカルの場合もギターと同様に低域部分は要らないので、基本的にカット。中域辺りは歌の芯となる部分なので、カットしすぎると声が細く感じることがあります。この辺りはオケとのバランスで聴きながら調整しましょう。

ボーカルに使用するプラグイン。すべてCubaseに付属するもので、コンプレッサーは、まずはvintagecompressor(左上)で処理した後、tubecompressor(左下)をゆるくかけている。コンプレッサーをかけたことで気になる歯擦音は、deesser(中央)で処理。最後のstudioeq(右)は、低域部分などの不要な帯域をカットするなど、オケとのバランスを考えて調整されている

ボーカルに使用するプラグイン。すべてCubaseに付属するもので、コンプレッサーは、まずはvintagecompressor(左上)で処理した後、tubecompressor(左下)をゆるくかけている。コンプレッサーをかけたことで気になる歯擦音は、deesser(中央)で処理。最後のstudioeq(右)は、低域部分などの不要な帯域をカットするなど、オケとのバランスを考えて調整されている

 すべての楽器のレコーディングや、プラグインの処理を終えたら、最終調整の作業へと移行します。各楽器で聴こえにくいものはないか確認して、部分的に強調したい楽器の音量を上げたり、各楽器のパンなどもしっかりと整えます。

 そして調整が終わったら、最終の2ミックスであるStereo Outに、maximizerを入れて音圧やボリューム調整を行います。注意したいのは、ここまでミックスしたものがこのStereo Outに集約されているので、ここで処理を誤ると、全部の音に影響が出てしまうことです。基本的にmaximizerではゲインリダクションの数値が−3〜6dB程度になるように調整すれば、良い感じに聴こえるようになります。

 以上、4回にわたってCubaseの活用術について書かせていただきました。まだまだ私も音楽制作、DTMを勉強中です。今後も皆さんと共に楽しく音楽を作っていきたいと思います! ここまでお読みいただきありがとうございました!!!

 

長谷川大介
【Profile】SUPA LOVE所属のギタリスト/作編曲家。Aqua Timezのギタリストとしてメジャーデビュー。バンド解散後は、ギタリストとしてだけでなく、作曲家、編曲家としての活動を始める。ギタリストとしてはBang Dream!(バンドリ!)内のバンド“MyGO!!!!!”のギターを担当。作家としては、ケツメイシ『サンシャインガール』、高野洸『In the shade』の作編曲を担当するなど、ロック、ポップスのみならず、エレクトロやラップ系の楽曲まで、幅広く制作している。

【Recent work】

『ケーブルサラダ』
夏川椎菜
(ソニー)
※「Bluff 2」にて、作編曲およびギター演奏を担当

 

 

 

STEINBERG Cubase

LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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